情報を遮断

情報を遮断して考える

 もう30年も前ですが、米国の敏腕ビジネスマンが私の所属していたNEC中央研究所に来て、ノートPC(当時の呼び名はラップトップ=膝上PC;英語圏ではまだLaptopが使われている)の蓋を閉じ、「さぁ頭を使い始めようか」と言ったのを印象的に覚えています。タイピング速度も70 words/min. (90 words/min. の私には及びませんでしたが)と速く、かつ、端から見ていて、いろいろ会話したり、他の情報を参照したりしながら、打ち込んでました。にもかかわらず、本当に深く思考するときには、コンピュータ画面の刺激を遮断するようにしていたわけです。

 昨今のスマフォ中毒の人が見習うべき習慣、モードスイッチのコツを30年も前から先取りしていたのかもしれません。重さ3kg位で、ラップトップ=膝上PCならぬ、ラップ・クラッシャーなどと揶揄されていたマシンで、画面サイズは、640 x 400~480画素。いま私が書いている環境は、3840 x 2160の4Kモニタ2つ(43インチと27インチ)、フルHD 8枚分で、 640 x 400と比べたら約65倍の画素数、情報量となります。

 気が散って、気が散って仕方ないかといえば、そうでもありません。メインで読んだり書いたりする画面は巨大な文字サイズや絵となるよう調整し、視界の隅のものは小さいままにとどめておきます。このあたり、手動でやっているのを、視線を自然に感知したり、独り言の音声を感知して、もう少し自動調整されてくれると有難いですが、5~10年後に、そんな情報環境が実現しているでしょうか。今のスマフォの進化も読み切れませんが、2、3台同時に使わないと思考についてきてくれない今の機械がもっと俊敏に、意図通りに動くようになることは期待しています。

 さて、いかにも、冒頭の米国人の「情報を遮断して深く考える」やり方を否定しているかに聴こえたかもしれませんが、決してそんなことはありません。眼前の大画面を瞬時に消す、はい、目をつぶって数秒間、抽象的に考えるような時間もとっています。スイッチングの速度が速いだけの違いかもしれません。

 過去、ノートに書いた人名では、下記の回で取り上げた杉山将先生が同様のコメントをされていました。曰く、毎日何百本と出る読み切れない論文を極力エッセンスを汲み取って追いかけはするが、いざ自分で着想し、そのアイディアを膨らませて検証するフェーズでは、【情報を遮断する】と。

”理論計算量、必要データ量の小さな機械学習のアルゴリズムを追求することには大いに意義を見出しています。その意味で、東大の杉山将先生を心から応援しています。「AIという言葉を使う人は採用しない」という彼と同様、AI研究コミュニティのバックボーンとして、「鉄腕アトム作りたい派」を傍流に追いやってほしいと時々考えます。”

 上記の拙コメントはともかく、「省エネ型の機械学習」を追求する際には、その考える素材、インプットを無暗に多量にすることはない、というのは尤もらしく、頷けます。ここで思い出すのは、ノーム・チョムスキー先生の言葉(ブルドーザーのバーベルでなく)、「ニュートンが万有引力の法則を発見した際には、決して世界中、宇宙中のものの動きを全部ビデオ撮影してそのビッグデータを解析したわけではない。科学はそんな方法では遂行できない。」というものです。

 百歩譲って(丸山宏さんに;-)、上記ビデオ撮影とそのビッグデータ解析による帰納的な科学、人間の認知限界を超えた科学というのが存在するとして、それでも、ニュートン、アインシュタイン、チョムスキー流の伝統的な科学のアプローチ、見えないものをさらに抽象化、反証可能な仮説を演繹的にこしらえる、本来の科学研究プログラムが無くなることはないでしょう。その時に必要なのは、情報を遮断して沈思黙考することです。今でも紙と鉛筆だけで偉業を成し遂げられる可能性は常に存在しています。人間の偉大さの象徴です。

 このような人間ならではの偉大な潜在能力を妨害する、ニュースサイト、キュレーションメディア等による広告費目当ての割り込みは、激しく人類に害悪を与える可能性があります。このように考えて、「AIに勝つ!」では、彼らによる通知は全部ブロックし、情報インプットの掛け金をあげたり下げて遮断したりするイニシアチブを握り続けなければならない、と最終結論に書きました。

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メタデータ(株)の野村です。人工知能研究40年、WordNet活用研究への貢献から、言語学の深みを活かした自然言語処理応用で知識処理、文書分析、対話、要約を高度化へと研究開発を展開。産業、社会、行政、教育(特に芸術、人文科学)の様々な問題について、なぜ?と自問自答し続けています。

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