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『銀二貫』(高田郁 幻冬舎文庫)



震災の日から読み直し、今年も読了。

『銀二貫』

「みをつくし」シリーズで人気の時代小説作家、高田郁さんの読み切り長編だ。

午後になって、突然問屋のシステムがダウンした。

原因もわからぬまま、検索システムが使えない状態で、忙殺された。

5時ごろから休憩に入り、ようやく誰かに、どこかで地震があったらしいと聞く。

お店の貴重なパソコンを、ニュース検索に使う時間はなくて、休憩時に携帯を見たスタッフが噂したのだった。

同じ頃にようやく、問屋から地震の影響があって、と連絡があったように思う。

どうやら東北のほうらしい。

地元は揺れなかっただろうか。

それくらいの気持ちで、22時の閉店作業を終えて、帰り道バーに寄った。

バーのスクリーンに、信じられない光景が写っていた。

なんだ、これ。え、地震って、まじで?
知らなかったの?昼間からずっとやってたよ。見飽きるくらい。

知らないよ。仕事、してたもん。

すぐに、親にメールした。

大丈夫だと返ってきた。

ねえ、あれは、ほんまに起こったことやったんですか。

中国地方はあまりにも今まで通りで、ニュースを見飽きたとレンタルの売上があがるほどで、ツイッターを開いては唇をかんで、どうしようもなかった。

そんなとき、東京の書店のIさんが「#今読みたい」のハッシュタグを立ち上げた。

ひどく緊張しながら投稿したのが、『銀二貫』だった。

大阪の町で、何度もひどい大火にあいながらも、一途に信念の道を貫く青年の物語。

解説にこんな一文がある。

抗いようのない大きなちからで大切なものを奪い去られるとき、人は何を感じ、どんなふうにして日常の暮らしを取り戻していくのか。

私の震災は、『銀二貫』に始まった。

今も、すべきことはないか、と思う。


(2013年3月19日)

『銀二貫』(高田郁 幻冬舎文庫)


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