花桃の風に吹かれて
桃の花を見にでかけた。
その名も、「花桃の丘」へ。
見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。
桃の花は、桜よりも少し濃い色。
そうか、これが桃色なのか。
桃の花言葉は、「あなたのとりこ」「チャーミング」「気立てのよさ」。それから、「天下無敵」。
そんな花言葉を私が知っているのは、自分の名前には「桃」の漢字が当てられているから。
でも、桃の花をじっくりと眺めるのは初めてのことだ。
「あれは桃の花だよ」と両親に教えられても、ふーんと聞き流して梅や桜との違いもわからずにいた。
ふんわり、やわらかな花。
春の陽が似合う、あたたかな花。
30年前に両親からもらったプレゼントの蓋を、ようやく開けることができたのかもしれない。
桃の木の下では、雪柳も満開を迎えていた。
桃の花と雪柳の組み合わせも華やかだ。
朽ちてゆく花びらさえも、美しかった。
桜に負けず劣らず、桃の花もきれいだなと思いながら丘をのぼっていると、眼前に桜の花があらわれる。
桜の木から、「私のことをお忘れではないかしら」と呼び止められるような気がした。
桜の枝は風に揺られて、シャラシャラと音を立てる。
耳を澄まさないと聞こえない微かな音色。
可憐、という言葉がしっくりくるような、たおやかな佇まい。
しかし、今回のおでかけは、花を見ておしまいではない。
わたくし、花より団子。
ならぬ、花より玉子。
花桃の丘のちかくに、おいしいお蕎麦屋さんがある。
花桃の丘のある中之条町は、現代アートの祭典「中之条ビエンナーレ」が開催される町で、このお蕎麦屋さんには昨年のビエンナーレのときに訪れていた。
そのときに食べたこのだし巻きの味が忘れられず、もう一度食べたい、とずっと思っていたのだ。
隔年で開催される次回のビエンナーレまでは待ちきれない。何か理由をつけて、中之条に来たいと思っていたのだけど、ちょうど桃の花が咲いたというニュースを耳にしたので、こうして出かけてきたわけである。
花より玉子、とはこのこと。
ふんわり、とろん。
たまごのやさしい味のなかに、じゅわぁっと旨みが溶け込んでいる。
そのままでも、梅が刻まれて入った大根おろしとあわせても、もちろんおいしい。
はふはふ、んまぁ、を繰り返す至福のひととき。
お蕎麦も絶品。
さて、つぎはどんな理由をつけて、このだし巻きとお蕎麦を食べに来ようかと考えはじめている。
なかなか桃の花のような気品漂う人にはなれそうにない。