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私的読書今昔記

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#エッセイ

古川日出男『アラビアの夜の種族』書評<序>

 6月半ばの日曜日、雨のすきまの曇天の中、私は愛する電動自転車にまたがり今出川通を突き走っていた。  待ち受けるのは、最近顔を出していない研究室の、しかし私が幹事をつとめる飲み会(正しくいうと同窓会というくくりの集まり)だった。  店先に着くとすでに3、4人の参加者が集まっていた。元来小心者の私は、“学校に行っていない”ということに由来する気まずさをできる限り気取られぬよう、挨拶を発し(「こんちわっす」)、下卑た笑みを浮かべてみる。けれど、世間の大多数がそうであるように、彼

平野啓一郎はんぱないって--平野啓一郎『日蝕』

 平野啓一郎はんぱないって。アイツはんぱないって。中世ヨーロッパの神学僧の神秘体験めっちゃ擬古文で書くもん。そんなん出来ひんやん、普通。そんなんできる?言っといてや、できるんやったら。新潮や、全部新潮や。載ったし。全文掲載やし。またまたまたまた芥川賞やし。おもろいし。平野啓一郎、すごいなァ。 ・・・  2年前の夏至の頃、妊娠6ヶ月だった私は、微かなお腹の張りを感じて万年床に横たわっていた。その頃は胎動もそれほど大きくなくて、僅かな違和感であっても子宮の中では大きな

好きじゃないけど祈ってる、あるいは舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる』について

私の愛は祈らない。願いもしない。あなたが健やかに心地よく生きていけたとしても私のいない世界になんかいて欲しくないし、私とあなたが一緒にいれるなら他の人なんてどうなったっていい。 そう思っていた。 ・・・

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