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『ふと猫さんが通る』三話。

「あのさ」
「んー」
「この前、おじいちゃん家に行ったのね」
「おん」
「んしたらさ、あのー、なんだ、プラスチックの容器? ビニ弁とか入ってるあのあれ」
「あー、あの捨てんの困るやつね」
「そそ」
「それで?」
「ンッ……。 それをさ、丁寧に洗ってんの。めっちゃ丁寧に。捨てる時ね」
「すごい偉いじゃん」
「偉いんだよ。でもさ、凄く丁寧に洗ってるからワタシ聞いたの? だってさ、水道代かかるよ。捨てる物に金かけるってなんかってちょっと思って。何でそこまで洗うの? って」
「細か。お前めちゃ考えてんな」
「うるさい。そしたら、自然を守る為にはちゃんと丁寧に洗って分別したりして護ってかなきゃいけんからね。だって」
「崇高だね。いい話」
「はぁ……って。なんかそれ聞いて溜息でちゃって。コッチ住んでるとそんなの無視無視って感じじゃん。いちをするよ。するけどさ。綺麗に洗ってんの。キレーに。新品にしようってくらい綺麗に。また日の丸弁当作れますよ。くらい。幕の内もいけちゃいますよ。くらい。それ見てさ虚しくなっちゃって。なにしてんだろ。って」
「どっちの意味よ」
「ん……。両方かな」
「両方って。ちょいひどない」
「酷いけど、酷いけど、なんだよ。街歩いてて気にする? プラ洗って分別してリサイクルするまでの工程」
「するわけない。って、こともないけど、ちょっと行き過ぎだよね。こっちだと」
「いやさ。すんじゃん。ビニ弁はセブンのゴミ箱にちゃんと割り箸は燃える容器はプラ。ビニール袋だって最近もらわんやん。でもさ。でも。なんかね」
「思っちったんだ。やってねぇなって」
「ん、そうよ」
「まぁ。やってねぇよね。あたしも思うもん。やってねえなって。この容器どうなるかな……。考えてねえもん。それが当たり前だかんね」
「そうじゃん。だからやだなって。何がやなのかわかんねの。それが嫌」
 スターバックスの女神が描かれたカップをコツンと指で弾く。
「要はコイツがやなんでしょ」
「かもしんない」
「スタバして一日のごほうび〜ってやってるの罪悪感」
「ま、それもあっけど」
「んによ」
「何をやってんのか分かんないなって」
「誰が何してんのか?」
「そう」
「そんなんわかんないよ。誰にもわかんねえんだから。考えたくないから誰も考えてないんだから」
「ワタシも考えない?」
「そゆこと」
「やじゃない?」
「のみこんで生きるしかなし。世の中は独り旅だもん」
「いきなり平積みされてそうなワード。名言製造もとめてねー」
「求めてなくても置いてある。見たくなくても見えちゃう。知りたくなくても知っちゃうし、知らなきゃいけないことには蓋をする。人間だものね」
「コツンコツンうっせ。そんな突くな」
「なんかこうしたくなって」
「ちょっとわかる」
「所詮、私達はなす術なし、寄る辺無き生き物なのさ。飲み干せるだけ飲み干して生きてる。スマホみて、これええわー。で、生きてる。スマホみて環境破壊よくない! って思いながら電気使ってる訳だ。矛盾しまくってええのよ。……。——これいってっと自分ホントのバカだなって感じるわ。はず」
「真理ついちゃって。だから」
「くそくちからもらしてるだけ」
「でも、それが」
「にんげんだものよ」

「また来おったんか。なあんもやらんで」
 朝露滴るススキ原から顔出した猫は度々顔を出して鳴き声をあげる。餌ほしい。何かしろ。退屈だ。そんなとこだろう。でもなにもやらん。猫もなんもせん。それでも度々訪れてにゃあと鳴く。にゃあにゃあ鳴いたらそっぽ向き綺麗な稜線の山林を見つめトボトボと帰って行く。どうせどこぞの飼い猫だろう。あんなとこに家などあるものかね。と、考えながら広大なススキ原に目を遣る老人も遠くを見つめて欠伸する。今日が始まる。

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