見出し画像

「ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家」「ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇」

ゴダールは偉大過ぎて破格過ぎて、語り得ることは私にはほぼないけれど、やっぱり、「勝手にしやがれ」や「軽蔑」、「気狂いピエロ」などは、60年代の特別な輝きと猛烈に流行が盛り上がっていく時代の様子、ジーン・セバーグやブリジット・バルドー、アンナ・カリーナ、ジャン=ポール・ベルモンドなど俳優陣の個性が映画からはみ出してきていて、今だにやっつけられ感のあるゴダールの映画。

ドキュメンタリー映画「ジャン=リュク・ゴダール 反逆の映画作家」(Godard seul le cinéma. 2022年。シリル・ルティ監督」で、動いているゴダールを初めて見た。写真のイメージのままのゴダールの語り口が聞けて、ゴダールの父親と妹の発言や、共演した女優陣や批評家のコメントも豊富で、当時の貴重な膨大な映像もたくさん見ることができた。ゴダールのイメージだけとは違う、人間ゴダールが浮かび上がり、その難解な思考や映画、表現、思想が私にも少し理解できた。そして改めて常人でないゴダールを垣間見ることができた。

パリに住んでいた時に、ゴダールの最新作ということで、サンジェルマン・デ・プレの映画館で観た映画は、2001年公開の「愛の世紀」( Éloge de l’amour ) だっただろうか、全く内容は忘れているけれど、朝イチ上映で観客は数人。映画が終わって帰ろうとしていたところ、中年のムッシューに「わかった?」と話しかけられて、「わからなかった」と答えたら、「自分も全然わからなかったよ」と首をひねっていたことだけ思い出される。全然わからなくても、常に挑戦、新境地を求めて行動、戦い続けているゴダールはフランスは元より、世界中のシネマに与えた影響が偉大で、私も後々名画座でゴダールの映画を初めて観た時にこれがゴダールか!と、その衝撃度の大きさは今でも忘れられない。2022年、スイスで自殺幇助(安楽死)を選択し亡くなったゴダール。欲を言えば、晩年のゴダールがどうだったかも、もう少しこのドキュメンタリー映画で観てみたかった。

ゴルチエと言えば、こちらもフランスの代名詞のひとつ。「ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇」
(Jean Paul Gautier  Freak and Chic. 2018年。ヤン・レノレ監督)を、ゴルチエの昔の服をひっぱり出してきて着て観に行った。流行りっぽくはないけれど、今でも心地よく、多分おかしくないようにまだ着られて、ゴルチエの服で気持ちが上がったのは確か。ゴルチエのファッションのイメージは、80年代のイケイケアバンギャルドの強気な異端児風で、そういえば、確かに社会を旋回したゴルチエの時代があった。映画は、2018年にゴルチエの半生を元にしたミュージカルが上映された際の、開幕までのドキュメンタリー。

ゴルチエの饒舌多弁から、彼のその人柄がよくわかった。ファッションが小さい頃からとにかく大好きで、ゲイの人という雰囲気が余り感じられず(私には。途中、ビジネスパートナーであり最愛の人との出会いと死が語られた時に、やっぱりそうだよね)、夜遊びも嫌いで、ドラックのどこがいいかわからない、と。SM風の服やアクセサリーもたくさんあったし、そのハードなイメージとは違い、ゴルチエその人は、清潔感があってユーモアがあって、真面目で器が大きく安定感のある人。ファッションには服作りには、マニアックさを極め、美しさを激しく追い求めている人。ゴルチエの服、ファッションはもちろん、ゴルチエ自身その人も、このドキュメンタリー映画から人を鼓舞させてくれる力がある。素敵な人だった。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?