見出し画像

創業百年余の老舗に賃貸和室の畳交換を依頼したら高級旅館の部屋が爆誕した話

賃貸の畳の交換なんて、安いところでホイホイっと頼んだところで、他と大差なんて無いですよね?…そんな考えの頃もありました。たった2週間前までのことです。そんなこと、まったくございませんでした。

このnoteは、創業百年余を数える老舗畳業者に賃貸和室の畳交換を依頼したところ、想像を遥かに超える満足度が得られたという話です。しかも費用はふつう。

畳の交換には3パターンがある

賃貸の部屋に暮らして8年目。子供も生まれ、はや5年。彼がハードに遊ぶこともあって、6畳和室の畳はボロボロになり、い草が砕けたゴミも大量に発生するようになりました。このゴミが布地にまとわりついて、地味にストレス値が高いんですよね…。

画像1

現状がストレス!となれば、改善=交換しかありません。ちなみに畳の交換は契約の関係もあり入居者実費ですが、そのぶん自由に交換先が選べるというメリットがあります。

とはいえ、この段階では畳の交換についてあまりにもノーアイデア。そこでまず部屋の管理会社に相談をすると、畳の交換には以下3種類があるとのこと。

・全交換(新畳)
・裏返し
・表替え

そして、中でも今回は「表替えになりそうですね」と言われました。

ここでそれぞれの違いについてざっくり書いておくと、「全交換(新畳)」は畳のベースから全部交換する方法(畳はベース部分と畳表となるゴザで構成されています)で、通常これはやらないとのこと。続いて「裏返し」は畳表を裏返す方法で、畳表がすれているくらいで実施することが多いそう。最後の「表替え」は畳表をまるごと交換してしまう方法で、畳表が割れてきている時などはこれが良さそうで、今回はまさにこれですね。

入居時の状態に戻る、を基準価格とする

この「表替え」を管理会社を通して依頼する場合、だいたい1畳が6,000円〜とのこと。我が家の和室は6畳なので、だいたい6,000円×6畳で38,000円。税込みかどうかは聞き忘れたのですが、目安として40,000円弱くらいってことですかね。入居時の状態に戻せる価格ということで、ひとまずこのラインが基準となりそうです。なお作業期間は複数日にまたがるのだとか。それは嫌だなあ。

ネットの業者でもそこまで値段が変わらない?

続いてネットで近隣の業者を探してみると、費用としては意外なほどに先ほどのラインから大きく変わらない模様です。格安業者で3,000円〜みたいなところもありましたが、中国産格安畳を使用しますみたいな文言があって、気になります。しかも「大家さんにおすすめ」みたいな決め文句付き。賃貸ではこれがスタンダードってこと!?

老舗の情報をゲットする

続いてFacebookにて情報を求めると、複数の友人から「岩槻に老舗の畳業者があって、そこに頼むのがオススメ!」との情報をゲットします。この業者こそ今回の依頼先「志水製畳店 蓮田屋」です。

さっそく検索してWebサイトを見ると、明治34年創業であること(1901年なので今年で119年目!)、現在の4代目は第30回技能グランプリ 畳製作職種部門で敢闘賞、そもそも県レベルの大会では最優秀賞=第1位という、明らかに技術的には最高クラスということで間違い無さそうです。施工事例で盆栽美術館とかもあるし。あれか、あの畳の間の畳か。

これはさすがに値段もトップクラスだろう…と思って価格を見ると…あれ、いままで調べてきたところとあまり変わらない…?

ということで、さっそく志水製畳店 蓮田屋さんに連絡してみました。すると返事をしてくれたのは、実績バツグンの4代目志水富幸さんその本人。見積もりを兼ねて下見にも来てくれるということで、ちょっと自分の中で盛り上がってきたのを感じます。こう、技術者/技能士に弱いんですよね、自分。

見積もりで知る、驚愕の世界

見積もりでは実際に志水さんに来てもらい、現状確認と畳グレードの選定、畳縁の選定、さらにはスケジュールの確認をします。

まず現状ですが、8年も使っていれば妥当なくたびれ具合とのこと。そして「恐らく」ではありますが、現状は中国産の、しかも安いい草を使った畳が入っているということでした。ちょっと待て、じゃあ管理会社が呈示してきたのって、安い畳にあの値段ってこと!?

志水さんによれば、賃貸物件であれば、中国産が使われていることはそこまで珍しく無いとのこと。そうなのか…。そもそも中国産の畳(い草)というものを認識していなかったので、わりと驚きです。

じゃあ国産や高いグレードとの違いは何?ということになると、まずは目が細く揃っていることがあげられると。これは収穫時期や品種にもよるわけですが、当然ながら目が細い場合は畳表を構成するのに必要ない草の本数が増えます。そのぶん割高にはなりますが、美しさと、なにより耐久性があがるということ。

また収穫時期も重要で、いわゆるファーストフラッシュ的な、目の最初の方は色ムラや固さがでるようで安くなり、退色後の色も濃くなるのだとか。このあたり、「肥後物産等級」というグレードがあって「久万茂登比喜(くまもとひき)」というJAS一等相当グレードと「花桜ム」というJAS二等相当グレードがあるそう。

画像10

と文字で書くとちょっと難しくなりますが、志水さんが巨大なサンプル帳を用意していて見せてくれるので、大変に判断しやすいのです。確かに値段があがると目がつまって美しい!というか、国産にしただけで美しさが全く違う…。

正直、こんなに違うの?ってくらい違います。仮に下級品というグレードでも国産であればだいぶ満足度が高いとのこと。ここには元々の品質の違いもありますが、中国産は効率を重視する輸入時にダメージを受けやすいのだとか。仕方が無いんだなあ。

画像9

すべてのい草に品種と生産者の名前と写真、どの時期のものを使っているかなどが入ってます。プライドある素晴らしい仕事だなこれは。

畳縁が選べるとか知ってましたか?

さらに驚いたことに、志水さんのところで畳を変えると、畳の縁が選べるとのこと。えっ、縁ってそんなに種類があるんですか?と見せてもらったのがこちらのサンプル帳です。10ページくらいあった一部を撮らせてもらいました。

画像3

古風なデザインばかりではなく、アーガイル調や桜柄など、モダンなデザインもあってこれは選ぶ楽しさがあります。どれを選んでも費用は変わらないということで、悩みに悩んで、モダンだけど懐かしい柄にしました(後で登場します)。

最終的に畳は国産の標準的なものを選び、8,000円×6畳+税でだいたい5万円弱となりました。大変ありがたいことに、朝いちで畳を回収しに来て、夕方には設置してくれるとのことで、その日の夜には部屋を使えます。嬉しすぎる。

我が家の和室は高級旅館へと変貌した

さて工事の当日ですが、志水さんが1人で来て手際よく6畳ぶんの畳をを回収していきました。ものの20分ほどです。畳の下は想像以上に畳の粉などが散っており、掃除機だけかけておいてね、とのことだったので、午前のうちに掃除を完了。夕方の畳搬入を待ちました。

そうして無事に搬入された畳がこちらです!

画像4

遠目で見てもわかるほどに目が美しい。そして、なにより香りが良い

画像5

↑の写真が肉眼で見た色に近いかな…。

画像8

画像7

畳縁は専門会社である高田織物さんの鯔背(いなせ)シリーズ立涌に縞と梅(たてわくにしまとうめ)」にしました。まさに和モダン!くどいようですが、8,000円/畳の作業費用に含まれています。

画像8

良すぎるよね…。開口一番、妻が「高級旅館みたいだ…」と言ったのが印象的でした。いままで色々なところに旅行してきましたが、本当に高級旅館ではこんな感じの畳でしたね。

保育園から帰ってきた子供もとっても喜んでいて、畳の上でごろごろしていました。何より、い草が割れたゴミがつかなくてストレスが無いのもいいね。耐久性も高いみたいだから、もう好きなだけ遊んでいいぞ。

老舗により最高のゴールに達することができた

まさか、傷んだから変えようという安易な消耗品交換発想からスタートして、こんなに満足度の高いゴールに辿り着くとは…。そして、畳の世界がこんなに奥深いとは。

ちなみに工事中、畳に刺してあった小紙片の話になったんですが、これはトレーサビリティーを表すものだとのこと。QRコードが付いてました。

画像9

え、畳(い草)にトレーサビリティーですか?と聞いたときの「農作物ですからね」という志水さんの返答が印象的でした。そうか、畳は農業に連なっているんだなあ。

画像11

ちなみにい草は「涼風」という八代産のもので、生産者は天津謙治さんでした。後で調べてみると「熊本八代五人衆」という伝統的な生産方法を守っている農家さんで、以下のような取材記事が。生産者が見えるの、たまらないな…。

こうして、もはや満足度しか無い畳の表替えになりました。老舗恐るべし。志水さんには感謝しかありません。ちなみにクレカなど現金以外の決済にも対応していてそのあたりは現代風でした。

みなさんも、自宅の畳、こだわって交換してみませんか?この満足度をもっと多くの人に味わって欲しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?