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ビジネスマンへの歌舞伎案内 (成毛 眞)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 著者の成毛眞さんに指摘されるまでもなく、是非とも常識として知っておきたいジャンルのひとつが「歌舞伎」です。
 私も以前からとても気になっているのですが、今までに一度しか実際の上演は観たことがありません。

 本書は、まさにそういった私のような人にとっての歌舞伎入門書です。

 特に、著者が紹介している「歌舞伎の楽しみ方」には興味深いものがあります。ストーリーも重要ですが、オーディオ・ヴィジュアルな世界として歌舞伎を捉えるのも面白いですね。

 たとえば、ヴィジュアル。曾我物のひとつ「寿曾我対面」の著者評ですが、見所は唯ひとつだといいます。

(p110より引用) それは、幕が引かれる直前の出演者全員による見得だ。・・・20人あまりの役者がそれぞれの役柄と性格を表現した見得を同時に切る。まばゆい衣装に身を包み、一面金襖の前でピタッと静止するのだ。歌舞伎には正と邪はなく、美と醜だけだということがよくわかる、実に象徴的なワンシーンである。

 もうひとつはオーディオ。取り上げられたのは、歌舞伎十八番のひとつ「勧進帳」です。
 白紙の勧進帳を読み上げ、主である義経を打擲する弁慶の姿が見せ場のひとつですが、著者が挙げるのは、聞き取りにくい弁慶と関守の富樫とのやり取りでした。

(p120より引用) 弁慶と富樫の問答はまさにラップである、と考えてみてほしい。英語のラップの歌詞を正確に理解できる日本人は少ないだろう。しかし、それでもファンは多いはずだ。それと同じことで、「勧進帳」も言葉の意味はわからなくても、いわば音楽劇として聞いてもらえばいいと思うのだ。

 こういったユニークな切り口からの歌舞伎の楽しみ方は、初心者にとっての初めの一歩を踏み出すハードルを大きく下げてくれますね。

 もちろん、歌舞伎ビギナー向けの事細かなアドバイス、たとえばチケットの取り方から上演前後の過ごし方、お弁当のお薦め等々にも触れられていますし、代表的演目の解説も豊富です。

 また、歌舞伎座の回り舞台の装置を手掛けたのは、はるか昔の人気クイズ番組「アップダウンクイズ」のゴンドラ昇降装置を手掛けた会社だといったような “トリビアねた” も随所に散りばめられているので、読んでいて楽しいですね。

 私も、今年は久しぶりに、歌舞伎座に足を運んでみましょうか。




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