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俺は、中小企業のおやじ (鈴木 修)

 スズキ会長兼社長の鈴木修氏による “スズキ経営の足跡” を幹にした自伝です。

 鈴木修氏は、1978年48歳で社長に就任して以来、会長職を含めると40年以上もトップをつとめている自他共に認めた?ワンマン経営者です。(注:2021年6月25日の株主総会で会長を退任)本書の表紙の写真から見ても、いかにもという風貌ですね。

 実際に鈴木氏がワンマンかどうかはともかくとして、企業の経営者は自らの責任において数多くの意思決定をこなし続けなくてはなりません。意思決定がトップの仕事の真髄です。

 そういう点から、私が興味をもったいくつかのエピソードをご紹介します。

 まずは、最近の鈴木氏のことばです。(注:2009年投稿時点)
 昨年来の大不況に際して、スズキも減産を強いられました。

(p10より引用) こういうときには、外注先にコスト削減を強いるのはもってのほか、そんなことをしてはいかんのです。それは生産が増えているときにすることです。いまみたいなときは、内なるコスト削減、すなわち、おのれのマイナスをいかに減らすかに努力する。材料の質を落とすのではなく材料そのものを変えたり、不良品を減らすといった工夫をしたりする。・・・ひとりひとりの社員が気を引き締めていかなければならないのです。
 危機は常に社内にあり。このようなときこそ、おのれを見つめ直すチャンスです。

 つぎは、「中小企業」を自認するスズキの経営スタイルを象徴的に表していることばです。

(p45より引用) スズキは生産設備を平均して3年ぐらいで償却しています。たとえば、税法上の法定償却期間が10年となっている大型機械も、うちでは3年です。・・・
 うちのような企業は、「ゆっくりと10年単位で元がとれればいい」といった悠長なことはいっていられません。工場も機械も、・・・すべて3年ぐらいで投資を回収できるという判断がなければ、そもそも投資しません。・・・さらにいえば、「いざ投資した後は、是が非でも3年で元をとる」という覚悟で皆、一生懸命やるのです。

 有税償却であっても早めに償却するというぐらい徹底しているようです。早く償却しておけば、後々の利益が大きくなるという鈴木氏流の「先憂後楽」の経営哲学の表れです。

 最後は、海外進出の失敗事例から得た鈴木氏の貴重な教訓です。
 1980年代半ば、スズキはインドにおいての海外事業展開と期を一にしてスペインの企業にも資本参加しました。が、それは結果的には撤退を余儀なくされることとなりました。

(p172より引用) スペイン撤退から学んだことは次の2つです。
 まず、「会社というのは、いろいろ手間ががかかっても一から自分でつくりあげたほうが、いい結果が出る」という教訓です。世の中では「M&Aブーム」といわれた時期もありますが、少なくとも自動車産業でM&Aをやって大成功しているところはありません。・・・ 企業には独自の文化があって、経営主体が変ったからといって体質は簡単には変りません。・・・
 もうひとつは、「手離れの悪さが、事態を悪化させる」ということです。・・・ 少しばかりの債権を確保しようとして、じたばたするのではなく、思い切りよくあきらめて、新しい仕事に前向きのエネルギーを投入したほうがはるかに生産的です。

 連結売上高3兆円を越える企業にまで成長した「スズキ」のことを、鈴木氏は「まだまだ中小企業」だと言い続けています。驕りへの戒めの意図もあるのでしょうが、むしろ企業の経営実態は、良くも悪くも「中小企業」的だと本心から理解しているようです。

(p231より引用) かつては大企業といえば、資本金や人員数、売上高、歴史、利益といった物差しで判断することができました。ところが現在では、そうした物差しだけでは大企業と判断することはできません。業界でシェアがナンバー1かどうか、すなわちプライスリーダーであるかどうかが肝心です。たとえ小さな規模でも、強い個性や特色を備えた商品で、きわめて高い市場シェアを持つ会社こそが大企業であるといえると思います。スズキはまだまだその域に達していません。

 スズキが大きなシェアを占めるインドでは、タタの超低価格小型車が注目を浴びています。スズキの今後の舵取りや如何。



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