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経営学を学ぶ (岩田 規久男)

アダム・スミス

 先に読んだ「学問がわかる500冊(朝日新聞社)」の経済学の項で紹介されていたので読んでみました。

 タイトルに直接的に「経済学」と書いてある本は、はるか昔、大学時代の教養課程でお付き合いした「サムエルソン」以来だと思います。

 この本は、経済学の入門書として具体的な例示を駆使しともかく平易に書かれています。(少しでも経済学をかじったことのある人には全く物足りないと思いますが、)初めて経済学に触れる人や、私のように、(何となく)もう一度経済学の初歩を辿りなおしてみたい人向けです。

 たとえば、「国富論」で有名なアダム・スミスの説明の箇所には以下のような説明がされています。

(p136より引用) アダム・スミスが発見したことは、知識と関心事が限られたものでしかない人間が、自分の意図には入っていない社会的な目的に知らず知らずのうちに貢献するように仕向けられるのは、自由でな競争的な市場をとおしてであるということであった。
 アダム・スミスが描いた市場経済は、人々の自由な行動が、社会一般の利益を増進するような一つの秩序を形成する社会であった。すなわち、市場には自然に秩序を形成するメカニズムが備わっているという考え方であり、このような考え方を予定調和説という。

 ここでの「予定調和」すなわち市場のもつ自動調整メカニズムが、この本で取り上げられている経済現象の説明にあたっての基本ロジックになっています。

 入門書との位置づけの本なので、あえて思い切り割り切った説明をしているのかもしれませんが、「現状を無視した楽観論」とか「机上の空論」といった感じを受ける説明もところどころに登場します。まあ、この点は、従前から「経済学」に対してよく言われているところではありますが・・・。(このあたり、本当は経済学の限界ではなく、私(たち)の勉強不足なのかもしれません)

楽観の経済学

 「見えざる手」の楽観と感じられるところの例としては、環境税についての説明部分があります。

(p153より引用) 環境税は神の見えざる手を環境税分だけ修正するだけで、後は全てその修正された見えざる手、すなわち、修正された価格メカニズムに委ねて、環境を保全しようとするものである。この修正された見えざる手の下では、修正された見えざる手のメカニズムが、最も安い費用で地球環境を保全するという膨大なコンピューターを使っても解けないような問題を自動的に解いてしまうのである。
 この意味で、環境税をはじめとする経済的な誘因メカニズムを用いることが、環境問題のこのような市場の失敗を解決する上で最も有効な方法と考えられるのである。

 そのほか「高速道路の渋滞緩和」や「通勤ラッシュの緩和」等も、「高速料金の値上げ」や「通勤時間帯の鉄道料金の値上げ」といった経済的誘因により実現できるとしています。

 ただ、(その効果を完全に否定するものではありませんが、)この論にはやはり問題があると思います。確かに価格操作は、直接的な効果を発揮し短期的視点では状況を改善するかもしれません。
 しかしながら、問題事象の根本原因は必ずしも「価格」ではないはずです。環境問題は言うに及ばずですが、高速道路の問題はそのルート設計や建設行政面の問題も孕んでいますし、通勤混雑の問題は運輸行政・都市行政さらにはビジネススタイル・ライフスタイル等の問題でもあります。

 安易な価格操作による対応は、根源的な問題の所在を曖昧にし、より根本的な改善策の検討を阻害するおそれがあるのです。


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