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ロウソクの科学(ファラデー)

 以前、岩波書店編集部による「ブックガイド文庫で読む科学」という本を読んだのですが、その中で紹介されていました。

 もちろん、この本自体は非常に有名ですから、どなたでもご存知だと思います。ただ、私は、恥ずかしながらこの年になるまで読んだことがなかったので、「ブックガイド」に触発されて遅まきながら手に取ったというわけです。

 著者のファラデー(Michael Faraday 1791~1867)は、電磁誘導、電気分解の法則及び電気と磁気の基本的な関係の発見者として有名なイギリスの物理学者・化学者です。

 この70歳になる科学界の重鎮が、子どもたちを対象にクリスマスごとに科学の講義をしました。その講義記録としてまとめられたのがこの本です。原題は「The Chemical History of a Candle」ですが、お馴染みの「ロウソクの科学」というタイトルは、初期の訳者矢島祐利氏による案出とのことです。

 さて、この本ですが、確かに1世紀以上読み継がれているだけのことはありますね。いろいろな意味で素晴らしい本だと思います。
 子どもたちに対するファラデー氏の優しさが全編に溢れています。とにかく温かです。ファラデー自ら、子どもたちが興味を惹くような道具を選んで、子どもたちの目の前でひとつひとつ実験しながら丁寧に講義を進めていきます。

 ところどころにファラデーの大事な教えがちりばめられています。
 たとえば、「疑問をもつ」ということ。

(p20より引用) ロウソクにおいてだけではなくまたその他のいろいろの場合においても、予期に反した事情や失敗のおかげでそれなしではおそらくえられなかったところの教訓をうることがしばしばあります。このようにして私たちは自然の研究者になるのです。諸君はあらゆる現象において、それが新しいものである場合にはなおさら『その原因は何であるか、どうしてそうなるのか』と考えてみるべきです。そうすればいつかその理由がわかります。

 また、「自分で考える」ということ。

(P52より引用) 今このテーブル上でロウソクが燃えているときには一つの化学変化が起こっているのですが、それを理解するには右の事がらをはっきりとのみこまなければなりません。それにはどうしたらよいでしょうか。方法はいろいろありますが、私がすでに申しましたことを諸君が自分でよくお考えになるのがよいと思います。諸君の眼力はもはやかなり鋭くなっていると信じます。

 本書は、「ロウソク」の科学ではありません。ロウソクを材料に「科学」を説いています。全6編の副題を辿ると一目瞭然です。

第一講:ロウソク。炎‐そのもと‐構造‐運動‐明るさ
第二講:炎の明るさ‐燃焼には空気の必要なこと‐水のできること
第三講:燃焼の産物。燃焼から水‐水の性質‐化合物‐水素
第四講:ロウソクの中の水素‐燃えて水になる‐水のもう一つの成分‐酸素
第五講:酸素は空気中にある‐大気の本性‐そのいろいろの性質‐ロウソクからのもう一つの産物‐炭酸ガス‐その性質
第六講:炭素つまり炭‐石炭ガス‐呼吸とそれがロウソクの燃焼ににていること‐結論

 「ロウソク」の炎の話から始まって、燃焼≒呼吸→炭酸ガス→植物、最後は「自然界の共生」の話につながります。 

(p117より引用) 或るものには毒になるものが他のものでは必要なのです。それですからわれわれ人類はただ隣人のおかげをこうむっているばかりでなく、われわれと共にこの地球上に生きているあらゆる被造物のおかげをこうむっているのです。自然界のあらゆるものは、自然の一部分をして他の部分のために役立たせるような法則によって互に結びつけられております。

 そして、ファラデーのクリスマス講義は、「ロウソク」になぞらえた「少年少女への優しき期待」で締めくくられいます。

(p119より引用) 私はこの講義の最後の言葉として、諸君の生命が長くロウソクのように続いて同胞のために明るい光輝となり、諸君のあらゆる行動はロウソクの炎のように美しさを示し、諸君は人類の福祉のための義務の遂行に全生命をささげられんことを希望する次第であります。



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