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バーボン・ストリート (沢木 耕太郎)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 久しぶりの沢木耕太郎氏のエッセイです。
 沢木氏の代表作「深夜特急」とほぼ同時期の発刊ですが、あちらはワイルド、対するこちらはクールなタッチです。

 ちなみに本書の初刊は1984年、いまから30年前ですが、エッセイに登場する人物は今でも活躍されている人が多いですね。
 たとえば、井上陽水さん
 ある晩、陽水さんからアルバムのための曲の歌詞の相談の電話がありました。

(p58より引用) 「あの・・・雨ニモマケズ、風ニモマケズ・・・っていう詩があるでしょ」・・・
「あれ、どういう詩だっけ」

 その続きが出てこなかった沢木氏は大急ぎで、宮沢賢治の詩がのっている本を本屋で買ってきて、陽水さんに電話で伝えました。その朗読を聞きながら、陽水さんはところどころで気になったフレーズを反芻しました。

(p64より引用) なるほど、私は彼の方法が納得できた。彼は詩の全体というより、個々の詩句を聞いているのだ。そして耳に引っかかってくる言葉から刺激を受け、そこから歌づくりをしようとしている。

 陽水さんは、賢治の言葉の力に大いに刺激されたようです。こうして出来上がったのが、「ワカンナイ」という曲。沢木氏は、この曲は、賢治の詩に対する陽水さんのアンサーソングでもあると考えています。

 ちなみに、このころの陽水さんは、「氷の世界」に代表される初期のブームに続く、第二陽水ブームの真っただ中でした。当時の曲は、初期に比べて粘性やメッセージ性が増したように思いますね。ただ、そのメッセージは、徒に爆発的でも攻撃的でもありませんでしたが。

 さて、本書に採録されている15編のエッセイを読んでの感想です。

 沢木氏より一世代下の私ですが、すべての作品に対して、描かれている世相や登場人物、そしてそれらの背後に漂う空気には懐かしさを感じました。
 登場するテレビ・映画での有名人やスポーツ選手に纏わるエピソードは、私の記憶に残っている当時の皮膚感覚としてスッと入ってきたのですが、その分、今の人々にはかなり古臭く感じられるかもしれませんね。

 最後に、いかにもという沢木さんらしさが表れたフレーズを書き留めておきます。

(p83より引用) 物を持たなければ持たないほど自由さは増していく。物にしばられ不自由になりたくはない。私のポケットがいつもからっぽなのも、私にそのような思いがあるためともいえる。

 還暦も過ぎている沢木氏ですが、未だにバッグひとつで旅に出ているのでしょうか。



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