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ラーメン屋vs.マクドナルド ― エコノミストが読み解く日米の深層 (竹中 正治)

 いつも読書の参考にさせていただいている会社の先輩の方が紹介されていたので読んでみました。

 著者の竹中正治氏は、現在エコノミストとして活躍中ですが、本書では、自身の米国勤務の経験等を踏まえた国民性や組織運営に関するいくつかの日米比較を紹介しています。

 そのなかの1章「希望を語る大統領vs.危機を語る総理大臣」でのフレーズです。

(p42より引用) 日本人に多い類型は「危機感駆動型」であると言える。「このままではお前(日本)はダメになる!」「危機だ!」と言われると強く反応して動き出すわけである。
 一方、アメリカ人に多い類型は「希望駆動型」である。「できるじゃないか!」「ステップアップできるぞ!」と励まされると強く反応して動く。

 比較の視点はさまざまではありますが、やはり著者本業の経済関係の切り口のものの方が説得力があります。

 「ビル・ゲイツvs.小金持ち父さん」の章で紹介されているリスクマネーに対する日米比較では、「日本の家計の投資ポートフォリオは米国に比較してリスク回避選好が強い」という点を取り上げています。

(p126より引用) この日米家計の相違は、文化的相違などという実証不可能な説を持ち出すまでもなく説明できる。・・・所得も金融資産も大きい家計ほど、リスクに対する許容度が高い。その結果、ハイリスクだが、長期で保有すれば銀行預金や確定利回り債券よりも投資リターンの高い株式保有比率が高くなるのは合理的な投資行動であり、自然な結果である。

 著者が言うその理由には納得感があります。

 また、「消費者の選別vs.公平な不平等」の章では、日本人の「表面的な平等性」に傾く特性を指摘しています。

(p176より引用) 一律金利が適用されると、優良ユーザーが不良ユーザーの起こす貸倒れコストを負担する度合いが増える。すなわち、一律価格による「表面的な平等性」は「実質的な不平等・不公平」でもあるのだ。
 もっとも、その社会(共同体)の価値観に照らして、守るべき最低限水準のセイフティーネット的なサービスの供給には、内容の均質と価格の一律性を設定するのは妥当だと思う。

 以下の無担保融資に関するコメントにも代表される「経済合理性に則した指摘」は、当然の内容ではありますが、素人にも分かりやすいものです。

(p186より引用) 銀行の中小企業への無担保融資が伸びないことを「銀行の審査に十分な専門性、目利き能力がないからだ」と言うのはトンチンカンな批判だ。・・・情報の壁を乗り越える作業のためには、コストと手間がかかり、一定規模以下の企業を対象にした融資ではコストに見合わない。そうした小規模取引にはスコアリング方式が有効なのである。

 最後に、最近よく言われる「格差是正」についての著者の主張です。
 著者は、いくつかの統計データから、日本における格差は諸外国と比較して特に顕著なものであるとは考えていません。

(p201より引用) 日本では格差が拡大していないので、何もしなくて良いと言っているわけではない。正反対である。・・・日本がグローバルな経済競争と格差拡大トレンドに抗して行うべきことは、第1に若い世代の教育である。第2に技術革新の結果陳腐化してしまった労働力の再訓練である。

 格差拡大の兆しは認めつつも、「地域間格差是正のために地方の公共事業の復活を」といった政策については愚策であると断じています。

(本書を読んだのは今から10年以上前ですが、結局、日本も“格差社会”の仲間入りをしてしまいました)


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