見出し画像

実践するドラッカー【思考編】 (佐藤 等)

実践 知識労働者

 ドラッカー氏のマネジメントの主体は「知識労働者」です。

 このドラッカー氏がいう「知識」とはどういうコンセプトなのか、本書からその点に触れられている箇所を1・2書き出してみます。いずれも氏の著作からの引用部分です。

(p4より引用) 知識は、本の中にはない。本の中にあるものは情報である。知識とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である。

(p11より引用) 知識とは、個人や組織が何らかの成果をもたらすような行動を可能にし、何かあるいは誰かを変えるものである。

 「知識」は「成果」をあげるために必要不可欠なものです。ドラッカー氏は「知識」を「成果」に結びつけるための具体的方法も示しています。

(p12より引用) ドラッカー教授は、知識を成果に結びつける行動を「成果をあげる能力」と呼び、『経営者の条件』で五つ挙げています。
①時間を管理すること
②貢献に焦点を合わせること
③強みを生かすこと
④重要なことに集中すること
⑤成果をあげる意思決定をすること

 知識労働者の行動の質は外からは見えにくいものです。
 結果で管理すると割り切ってしまえば簡単ですが、やはりプロセス管理の要素も必要でしょう。外に現出しない知識労働者のプロセスを管理しようとすると、知識労働者自身による管理・評価の比重が高まってきます。

 ドラッカー氏は、知識労働者のセルフマネジメント「must-can-will」の関係性をチェックすることによりなされるべきだと考えています。
 まず、「must=なされるべきこと」に取組んでいるか、次に「can=できること」を実行しているか、そして最後が「will=やりたいこと」ができているかという優先順位を確認するのです。そして、こうも語ります。

(p27より引用) もし、「なされるべきこと」と、「できること」「やりたいこと」がまったく異なるのであれば、とるべき行動はただ一つ、その組織を去ることです。

 こういった「must-can-will」関係性に着眼したスキームは、自己責任における「セルフマネジメント」を実施していくうえでの重要なフレームワークであると同時に、「HRM(ヒューマンリソースマネジメント)」の観点からは、組織人の成長を促す方法論の具体的なヒントにもなります。
 すなわち、mustとcanとwillとを微妙にずらせることにより、当人の新たな能力を開発したり、組織の総合力を高めたりすることができるのです。

成長のために

 本書は、「知識労働者」として成果をあげるための「セルフマネジメント」にフォーカスした「ドラッカーガイドブック」という体裁です。

 第2章では、「成長のため」の具体的な方法をいくつか紹介しています。
 そのひとつが「予期せぬ成功」への着目です。

(p68より引用) 自らの成長につながる最も効果的な方法は、自らの予期せぬ成功を見つけ、その予期せぬ成功を追求することである。・・・「非営利組織の経営」(p218)・・・
 「予期せぬ成功」は、機会の存在を明示しています。・・・
 そもそも成果は、機会と強みの両方がそろったときに生まれるものです。「予期せぬ成功」の裏に、自分が気づいていない強みが発揮されていたかどうか、確認してみてください。
 同じことが「予期せぬ失敗」についてもいえます。・・・
 そもそも「予期せぬ失敗」は、自分の強みをベースに成功を当て込んでいたからこそ発生するものです。どこに問題があったのか、徹底して分析しましょう。

 「予期せぬ『失敗』」の方は、「失敗」であるだけに通常でもその原因追求はなされるでしょう。ドラッカー氏の慧眼は、『成功』についてもその原因を追求せよと指摘しているところです。それは、潜在化していた「自分の強み」を顕在化させ、さらにそれを強化しようという前進的な姿勢の表れともいえます。

 こういったドラッカー氏の前向きの姿勢は、氏の思想の随所に現れています。
 たとえば、「貢献と自由」について語るくだりです。
 ドラッカー氏は、組織として成果をあげるための基本姿勢として「貢献」を重視します。貢献の形はいろいろ考えられます。まさにどういう形をとろうと「自由」です。ドラッカー氏はこの「自由」に関してこう語っています。

(p106より引用) 「自由とは解放ではない。責任である。楽しいどころか一人ひとりの人間にとって重い負担である。それは、自らの行為、および社会の行為について自ら意思決定を行うことである。そしてそれらの意思決定に責任を負うことである」(『産業人の未来』)

 自由とは「選択の自由」がある状態だというのです。
 自らが自らの意思で選択できる、何と前向きの姿勢でしょう。そして、その選択の結果には自らの責任が伴う、何と真摯な姿でしょう。

 私は、ドラッカー氏の卓越性はこの「真摯さ」あると考えています。

(p201より引用) ドラッカー教授は、「あなたの本の中で最高のものはどれですか」という質問をよく受けたそうですが、常に「次の作品です」と答えていたそうです。まさに完全を求め、95歳まで書き続けたのです。

 自分に厳しく、妥協せず、完全を求め続ける見事な姿勢です。

実践シート

 監修者上田惇生氏によると、本書は、ドラッカー氏の著作のエッセンスをまとめた「プロフェッショナルの条件」を主たる底本としているとのこと。ドラッカー氏の思考のさわりに触れるための超シンプルなガイドブックといえます。

 とはいえ、本書を読んで改めて気づかされた点もありました。それらを2・3、記しておきます。

まずは、組織における「コミュニケーション」について。

(p132より引用) 組織、および上司である私は、「あなたに対しどのような貢献の責任を期待すべきか」「あなたに期待すべきことは何か」「あなたの知識や能力を最もよく活用できる道は何か」を聞く。・・・『経営者の条件』

 コミュニケーションの基本は「聞くこと」だという点は、多くの先人の指摘するところです。しかし、ドラッカー氏の「聞く対象・内容」はユニークです。

(p133より引用) 上司は部下に対し、つい、貢献すべきことを語ってしまいがちですが、それは間違いです。貢献とは、自らがもっている知識や能力、強みを使って行うものだからです。

 部下に対して「どんな貢献ができるのか」を聞くというのです。
 貢献するための行為は、外から捉えられるものではなく、部下自身の中にある、したがって、それを「問う」ことにより明らかにし、成果に結び付ける具体的行動に導いていくのだとの考え方です。

 二つ目は、成果をあげるための「資源の有効活用」の要諦について。

(p222より引用) 限りある資源を有効に使うポイントは、二つです。
 第一に、捨てること。有限な資源を注ぎ込める一点を探し、他を切り捨てる。集中とは、多くの可能性を捨てることでもあり、あえて他を選ばないという勇気が必要とされます。
 第二に、任せること。人に任せることを突き詰めていくと、最後は自分にしかできない仕事が残ります。そこを究めることで、卓越性が生れます。・・・人に任せる仕組みこそ、組織の真の意味だといえます。

 「集中とは他の可能性を捨てる勇気だ」との指摘は蓋し箴言ですね。また、「任せることにより自己の卓越性を磨く」との教えも心したいものです。

 そして、三つ目は、「優先順位の原則」

(p232より引用) 優先順位の決定には、いくつか重要な原則がある。すべて分析ではなく勇気に関わるものである。第一に、過去ではなく未来を選ぶ。第二に、問題ではなく機会に焦点を合わせる。第三に、横並びではなく独自性をもつ。第四に、無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ。『経営者の条件』

 「未来」「機会」「独自性」「変革」。選択すべき行動の基準としては、極めて明確で示唆に富むものです。

 さて、本書は、タイトルに「実践」とあるように、実際にドラッカーの思想を行動に移すための整理ツールを用意しています。20の「実践シート」です。
 最後に、それらを覚えとして書き留めておきます。

(p35より引用) 実践シート① 成果をあげるために、あなたが習慣化していることは何ですか。

(p37より引用) 実践シート② 仕事をするうえで、あなたが使っている主な知識は何ですか。

(p39より引用) 実践シート③ あなたがいまもっている知識を使って、新たに行いたいことは何ですか。

(p41より引用) 実践シート④ あなたは何のために働いていますか。

(p43より引用) 実践シート⑤ 仕事をするうえで、現在のあなたが「なすべきこと」は何ですか。

(p81より引用) 実践シート⑥ あなたの所属する組織のミッションは何ですか。そこであなたがなすべきことは何ですか。

(p83より引用) 実践シート⑦ あなたの卓越している点(分野)、あるいは、これから卓越性を追求しようとしている点(分野)挙げてみましょう。

(p85より引用) 実践シート⑧ あなたが考える内なる成長、人格や人の器を磨くための方法を挙げてください。

(p87より引用) 実践シート⑨ 過去1年を振り返り、「予期せぬ成功」を挙げてください。

(p89より引用) 実践シート⑩ いま、あなたは何によって憶えられたいですか。

(p145より引用) 実践シート⑪ あなたの組織が求められている、社会的役割は何ですか。

(p147より引用) 実践シート⑫ あなたは組織において、どのような貢献を期待されていますか。そのために必要なものは何ですか。

(p149より引用) 実践シート⑬ 貢献するために障害となっていることは何ですか。

(p207より引用) 実践シート⑭ あなたの得意分野や強みは何ですか。それらは仕事で成果をあげるうえでどのように役立っていますか。

(p209より引用) 実践シート⑮ あなたの不得意分野や弱みは何ですか。

(p211より引用) 実践シート⑯ あなたの得意な仕事の仕方(ワークスタイル)を挙げてください。

(p213より引用) 実践シート⑰ あなたの価値観を挙げてください。それは組織の価値観と合っていますか。

(p241より引用) 実践シート⑱ 惰性や付き合いで続けている重要度の低い活動、生産性が低い活動は何ですか。

(p243より引用) 実践シート⑲ あなたが廃棄しようと思う活動は何ですか。

(p245より引用) 実践シート⑳ 優先順位のリストを作成し、いま、集中すべき分野に丸をつけてください。

 こうやってチェックリストとして書き並べてしまうと、ドラッカー氏の思想の重厚さとは異質なものような気もしてきます・・・。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?