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ビジネスエリートは、なぜ落語を聴くのか? (石田 章洋・横山 信治)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 レビュープラス(当時)というブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみたものです。

 私も大好きというわけではないのですが、寝る前、よく「落語」を聴いています。
 新作よりは古典落語がいいですね。噺家さんとしては、上方落語なら三代目桂米朝師匠、東京落語なら三代目桂三木助師匠あたりが好みです。

 さて、本書ですが、「落語家」からビジネス社会に転職されたというユニークなキャリアの持ち主のお二人が、その経験を活かして落語の世界とビジネスとの学びの共通点を語ったものです。

 目次を眺めてみると、

  • 第1章 なぜ、落語好きにエリートが多いのか?

  • 第2章 ビジネスパーソンの悩みNO.1“人間関係”の悩みは落語に聞け!

  • 第3章 落語に学ぶ“伝え方”メソッド

  • 第4章 落語が教えてくれた“成長”“成功”のルール

  • 第5章 落語家の生き様に学ぶ“覚悟”の磨き方

といったラインナップで、特に、「第3章 落語に学ぶ“伝え方”メソッド」で紹介されているコミュニケーションのコツについては、さすがに首肯できるところが多くありました。とはいえ、落語をビジネスに敷衍するにあたっては、少々我田引水的な印象を受けたことも否めませんね。

 本書を読み通しての感想ですが、正直なところ、著者が説くほど、「落語」がビジネスの成功に役立つとは思えませんでした。

(p49より引用) 「『寝床』という噺を聴いて“私がよかれと思って部下にしてきたことが実は迷惑だったのかもしれない”と考えた」
 「『天狗裁き』という噺を聴いて“親しき仲にも礼儀あり”なんだなあと思った」

といったアンケート結果が紹介されていますが、「落語を聴く」ことと「ビジネスの成功」という効能との関係は、それほど強相関ではないように感じます。
 成功している人は、「外からの刺激」を自分の思考や行動を省みる機会と受け止める、その受信感度が優れていて、さらに、それにより自分の思考や行動を変化・改善させることができているのでしょう。成功した人物は、そういう「学びの姿勢」をそもそも持っていたのです。

 だとすると、どうすれば、「学びの姿勢」をもつことができるかがメイン・イシューになります。
 自らの外界にあるサインに気づく敏感さとその受容力、そういった能力は一体どうやったら高まるのか、これは「落語を聴けば自然に高まる」というものではないでしょう。落語は“外部入力源(刺激)”の一つに過ぎません。
 こういう「原初的行動スタイル(姿勢)」を変えるためには、常日頃の「自覚」と繰り返しの「行動」によるしか方法はないように思います。(もちろん、何か強烈な経験が人を変えるということもあり得ますが・・・)

 とはいえ、多様な外部情報に触れる機会を増やすことは、感受能力を高める「助け」にはなるはずです。外部情報に触れないよりは少しでも触れた方が、変わるための「きっかけ」に遭遇する確率は明らかに高まりますから。新鮮な刺激を浴び続けていれば、いつか隠れた能力が目覚めるのではという期待です・・・。

 そして私は、今日も布団の中で落語を聴きながら寝入ることでしょう。
 最近は改めて6代目三遊亭圓生師匠の話を聞き直しています。
(ただ、聞き始めるとすぐ睡眠状態に入ってしまうので、肝心の噺自体はまったく覚えていません。これでも意味があるのでしょうか・・・?)



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