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「災害の時代」に求められるデザインとは? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.01

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。

年始に発生した能登半島地震を受け、第1回となる本記事のテーマは「防災のデザイン」としました。
この度の地震によって甚大な被害を受けた奥能登地域を中心に、被災地では現在も多くの方々が避難生活を強いられ、厳しい状況が続いています。
被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。


WHY #01:防災のデザイン

あらゆるものを一瞬で奪い去る大地震

1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、そして2024年元日に起きた能登半島地震など、私たちが暮らす日本は、多くの人命を奪う大地震が度々発生する、世界有数の地震大国です。

これらの大地震は、建物の倒壊のみならず、火災や土砂災害、津波などの引き金となり、さまざまなものをその場から一瞬にして奪い去ってしまいます。ライフラインが絶たれてしまう被災地においては、さまざまな人的・物的な支援が早急に求められ、災害から生き残った人たちには、避難所での不自由な生活などストレスフルな環境に置かれている被災者たちの心身のケアや地域のコミュニティビルディング、さらには産業や雇用の創出などが必要となります。

命を守るのは的確な事前の備え

地震をはじめとした災害から私たちの命を守ってくれるのは、的確な事前の備えです。例えば、日本の神社の多くが、かつて津波の被害から免れた場所に建てられているように、先人たちがさまざまな形で残してくれている過去1000年間の災害の記録から、私たちはこの先1000年以内に起こるであろう災害を想像することができます。このように過去の文脈を読み解くことなども含め、私たちには自然災害に対する知識を日頃から高め、十分な備えをすることによって、災害時に生き延びることが何よりも求められます。

事前の準備は大きく2つに分けられ、ひとつは地震などに関する知識を深めたり、訓練などを行うことで来るべき災害に対する想像力を持つことです。しかし、概して人はいつ訪れるかわからない最悪の事態については考えたがらないものです。こうした自然災害に対する心理的なバイアスを是正し、人々に防災のための意識付けや知識の向上を促していくためには、防災にポジティブに取り組むためのコミュニケーションを設計することが大切です。

もうひとつは、災害発生時に生き延びるためのレジリエントな暮らしをつくっておくことです。家具の転倒防止や避難ルートの確保、あるいは備蓄などベーシックな準備の重要性や、極限状態において生き残る知恵などを広く共有するためのコミュニケーションデザインが求められます。

全世界のマグニチュード6以上の地震の発生数の推移
気候の不安定化によって、歴史的な被害をもたらす自然災害が世界各地で頻発している。主に地殻変動に起因する地震の数には大きな変化がない一方で、昨今の気候変動の影響によって、干ばつ、異常気温、飢饉、洪水などの気候災害が急増している。

複合的な課題を解決するデザイン

近年は地震のみならず、気候変動に伴う自然災害も急増しています。ハリケーンや台風、線状降水帯がもたらす局地的な大雨による記録的災害が世界各地で毎年のように発生するなど、荒れ狂う自然が引き起こす災害と共生せざるを得ない時代に突入しています。

自然災害は、都市、産業、医療、福祉、コミュニティなどさまざまな社会課題が巨大な集積として同時に出現する現象です。だからこそ、衣服、建築、都市、食、テクノロジーなどあらゆるものをデザインの対象ととらえ、複合的な社会課題を解決し得るコミュニケーションを設計することが求められます。また、自然災害においては、時間の経過とともにニーズが変化することを理解することも肝要です。被災地の人たちが再び笑顔を取り戻せる状況をつくり出すためには、防災、備蓄、雇用創出など、それぞれの局面で機能するデザインをタイミング良く提供していくことが求められるのです。

HOW#01:OLIVE

災害時に有益な情報を共有するWIKI

「OLIVE」は、災害時に有効な知識を集めて共有するWIKIサイトです。2011年3月11日に発生した東日本大震災によってライフラインが絶たれてしまった被災者をすぐにでも救援しなければならない状況下において、NOSIGNER代表の太刀川英輔が震災発生から40時間後に立ち上げました。

東日本大震災の発生から、なにかできることはないかとインターネットを探した結果、私たちが発見したのは同じように被災地を助けたいと願っている人が本当にたくさんいるということでした。そんな人々は、それぞれに情報を発信していましたが、巨大災害であったためにネットでの情報スピードがあまりにも速く、有益な情報がタイムライン上ですぐに流れてしまう状況がありました。そこで、役に立つ情報をストックする場所としてWIKIをつくることにしたのです。

世界最大級の防災プロジェクトに発展

「生きろ日本」との願いから、「O(日の丸・日本)」と「LIVE(生きる)」をつなげ、「OLIVE」と名付けたサイトには、被災地の役に立ちたいという思いを共にするおよそ200人の仲間が瞬く間に集いました。そして、物資のない被災地で生きるために必要なものを身の回りのものから簡単に作るためのアイデアが世界中から集まったのです。

サイトは3週間で100万PVを達成し、厚生省やテレビ局、新聞などが拡散したことで、最低でも1000万人程度の人にはOLIVE由来の情報を届けることができたと推定されています。有志の皆さまのご協力によってOLIVEの情報は英語、中国語、韓国語へと翻訳され、集合知を利用した災害対策のデータベースへと発展しました。

サイト立ち上げから約半年後には書籍も出版。災害発生後の応急処置から避難生活下でもできる遊びまで厳選された150のアイデアを、イラストや記号などを駆使しながらわかりやすく伝えた。

もしものときに大切な命を守るために

2013年には、OLIVEから発展した防災キット「 THE SECOND AID」が生まれ、さらに2015年には、東京都に住む640万世帯のすべてに配布された世界史上最大級の防災計画プロジェクト「 東京防災」に発展しました。 OLIVEから始まった一連の取り組みはオンライン上にアーカイブされており、現在も世界各地で災害が起こる度に我々が発信してきた情報が参照されています。これらが、この度の能登半島地震において被災された方々にとって少しでも役立つことを願ってやみません。

私たちはこれからも、防災について楽しく、わかりやすく伝えていくことができるコミュニケーションデザインの力を最大限活用し、もしものときに自分と大切な人の命を守る準備ができた人をひとりでも増やす活動を続けていきます。

OLIVEに集まった災害時に役立つさまざまなアイデアの実物を見せる防災デザインの展覧会も開催された。2011年7月に行われたロサンゼルスでの展覧会を皮切りに、国内外のさまざまな地域で展示やワークショップが行われた。

プロジェクトの詳細を見る↓

OLIVEのサイトはこちら↓


防災の知識や災害前後の具体的なアクションなどを多く掲載した「東京防災」のPDFは下記からダウンロード可能です。

東京防災PDF
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/content/kurashi_2/01tokyobousai.pdf


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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