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辞書から性格用語を抜き出す助手の仕事

人間の性格(パーソナリティ)全体を,おおまかに5つの次元(ものさし)で表現するビッグ・ファイブ・パーソナリティはすっかり定着していて,今や心理学以外の研究領域でも当たり前のように使われるようになっています。

ビッグ・ファイブ・パーソナリティの特性は次の5つです。
・外向性(Extraversion):活動性,刺激を求める,ポジティブな感情
・神経症傾向(Neuroticism):感情の不安定さ,ネガティブな感情
・開放性(Openness):好奇心の強さ,知や美への興味
・協調性(調和性; Agreeableness):やさしさ,利他性
・勤勉性(誠実性; Conscientiousness):まじめさ,計画性,遂行

これらの特性は,こちらのマガジンにまとめてあります。

また,本の中でも扱っています。ぜひどうぞ。

頻繁に登場する,このビッグ・ファイブ・パーソナリティですが,これはもともと2つの研究の流れ,
1. 辞書から言葉を抜き出す研究
2. 多くの研究をまとめる研究

から来ています。

今回は,この1.のことについて書いてみたいと思います。内容は少々マニアックなので,心理学関係者かつこういうことに関心がないと面白くないかもしれません……が,なかなかこういうことを書く機会もないので。


オールポートとオドバートの研究

パーソナリティ心理学の教科書では,たいていオールポートとオドバートの1936年の論文(“Trait-names: A psycho-lexical study.”)が引用されていて,「辞書から約4,500のパーソナリティ特性語を抜き出した」と書かれています。

たしかゴズリングの本だったでしょうか,「かわいそうな助手オドバート」なんていうふうに書かれていたように記憶しています。

どうして「かわいそう」なのかというと,きっと辞書から単語を抜き出して分類する実質的な作業者はこのオドバートだろう,と思われたからではないかと思います。オールポートは1930年から1967年までハーバード大学の教員をしていました。きっと,実作業を助手にやらせて自分ではこういった細かい作業をしていなかったのでは?と考えてもまあ,不思議ではありません。

ネットで心理学者として検索しても,このオドバートはこの論文でしか名前が出てこないのですよね。本当に一時的にオールポートに雇われただけだったりして。

その前にゴルトン

オールポートとオドバートは,自分たちだけで考えて辞書から単語を抜き出したわけではありません。人間の性格を表現するのに,辞書から単語を抜き出せば良いのではないかとどうも最初の頃に考えたのは,ダーウィンのいとこのフランシス・ゴルトンのようなのです。

たとえばゴルトンの1884年の論文に,“Measurement of character”というタイトルのものがあります。今ではこの論文もネットで読めます。

この論文のなかに,辞書の言葉のなかにパーソナリティとしての個人差を表現する用語(この論文ではcharacterという単語が使われていますが)が含まれているだろうというアイデアを述べています。

さらに,辞書から約1,000単語を抜き出してみたということもこの論文のなかに書かれているのです。

ゴルトンの研究スタイル

オリバー・ジョンのこの論文では,このゴルトンの試みが,最初の語彙アプローチだろうと書かれています。

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