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【創作】雨上がりと青空と

 「雨上がりだね。」と、君に言われた。「ほら、光ってる。」君がまた言う。その言葉に誘われるまま窓の外を見ると、雲の隙間から青空が見えた。草木の上の水滴たちが、日の光に照らされてきらきらと輝いている。「きれいだ。」僕が言う。君は椅子から立ち上がると、スタスタと歩き出した。そして扉まで行くと、くるっと僕の方を振り返ってこう言った。

 「行こうよ。」僕はその言葉に頷くより早く、君に駆け寄ってその手を取った。君はニカっと笑って、もう一度  「行こ。」と言った。僕はそれがとても嬉しくて今度こそ力いっぱい頷いた。

 そうして歩き出した散歩道は、なぜだか全てが輝いて見えた。君と手を繋いで歩いた雨上がりの空の青さを、僕はいつまで経っても忘れることはないだろう。「雨が洗ってくれたからかな。」僕が呟いた声を君が拾って、君が言う。「まっさらな青だね。」空を見上げる君の横顔と、白い雲と青い空は、僕の心まで深く透き通らせて行く。
 
 今になっても思い出すのだ。透き通って、どこまでも続く青い空。君と肩を並べて見たあの空を。美しいという言葉の意味をはじめて知った、あの空を。


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