「現象学入門」(竹田青嗣)に基づいて〜「知らないものは存在しないのと同じ」の現象学的な意味 その1

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竹田青嗣[1989]「現象学入門」(日本放送出版協会)の感想とか、それを読んで考えたこととかです。(以下、本の題名は「同著」と書き、特に断りがなければページ番号は同著のものを指す。)

全3回です(2020.12.20追記)。

前書き

もう1年ほど前だったか、友達からこの本をもらいました。彼の家には、なんでかその本が2冊あったそうで、僕がそれを欲しいと言ってたのをおぼえていてくれて、ただでもらいました。得した(笑)

前々から、フッサールの現象学というのがどんなものか興味があって、何か適当な入門書を読みたいと思っていたのですが、良書でした。

哲学やらの良くある説明は、だいたいどれも必要以上に小難しく書いてあると思っているのですが(わかりやすく言えるはずなのにその努力をしていない、ということであって、内容が無いと言っているわけではない)、ためしにwikipediaの「現象学」を見ると、正直ひどいもので(すみません)、次のように書いてありました。

『いかなる先入観、形而上学的独断にも囚われずに存在者に接近し、諸学を基礎づける根源的な厳密学としての哲学を樹立する方法』
『認識論的批判に無関心な、存在(=「超越」)を自明なものとして捉える「自然的態度」を保留にした状態で、存在と「意識」との関係及び、それぞれの意味が志向性から反省的に問われる。』
(いずれもwikipedia「現象学」から引用。2020.12.18)

予備知識がある人間でない限り、ほとんどさっぱりわからない説明です。これでは「辞典」の意味が無いんじゃないでしょうか。
以下、「現象学入門」の章立てに沿ってとりあえず要点をかいつまんで、&さらにかみ砕いてまとめて行こうと思います。

さらに、一通りまとめた上で、「知らないものは存在しないのと同じ」という、世間で時々言われる言葉の、現象学的な意味も解説したいと思います(ここは多分僕の独創です)。

現象学入門序説(序文)

フッサールの現象学は、「客観的な事実」を認識することが原理的に不可能であることを明らかにし、そのことが西洋哲学史の中でいかに画期的な発見だったか、がこの本を読むとわかるようになっている。

『形而上学的な「真理」とは、ヨーロッパでは<主観>と<客観>との一致ということを意味していた。あるがままの現実(客観)を"正しく"主観が認識すること。この現実と認識の「一致」を、ヨーロッパの哲学では伝統的に「真理」と呼んできたのである。ところが、実際は、現象学のいちばんの功績は、この伝統的な「真理」の概念がなぜ不可能なものであるかをはっきりさせたところにあったのだ。』
(同著 現象学入門序説 P12)

現象学が、史上どのような批判を受けてきたか、も一通りわかるようになっている(その批判に答えることで、現象学の理解が立体的になるという構成です)。無理解からの的外れな批判が多かったそうで、デリダのようなビッグネームも登場しますが、ばっさばっさと切り倒されていく(p12)(どうでも良い話ですが、僕はデリダはほとんど内容が無いと思っているのですが。どうもフランス系の哲学者は波長が合わない。逆にドイツ系の哲学者は良いこと言ってると思う)。

第1章 現象学の基本問題

フッサール以前(今も、かもしれないが)の西洋哲学は、主観・客観のどちらかを重んじる態度に分けられる。そのどちらの態度も、極端で、あまり有益でない結論に行き着いてしまう。

「主観」重視の思想は、人間は客観的な事実の認識なんかできない、という態度で、人間の認識能力(感覚器官)を信用しない。そうすると結局、本当は何も知ることはできないという極端な「不可知論」や、あらゆるものの存在は疑わしいという「懐疑論」、どの考え方も同じように正しいという「相対論」に陥ってしまう。つまり問題解決能力を失うわけである。

一方「客観」重視の思想は、人間の認識能力を保証することに失敗する。言い換えれば、客観的な真理がある、というからには人間は存在そのものを完全に認識できる能力をもっていなくてはならない。しかしその能力の証明ができない。ヘーゲルは人間の認識能力が無限に進化し、今は無理でもいずれ客観的な真理に到達できる、という結論を出してしまった。そうなると、いずれは何でも知れる、ただ一つの正解を導き出せる、という「決定論」にたどり着く(結構危険な思想なのだ)。

要すれば、主観か客観か(「主観的認識しか無い」か「客観的認識がある」か)ではなく、そもそも問題の立て方が不適切であった、ということにフッサールは気付いたのである。

「その2」につづく

【関連記事】
「現象学入門」(竹田青嗣)に基づいて〜「知らないものは存在しないのと同じ」の現象学的な意味 その3(同シリーズの完結編)

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