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『愛のピラミッド』

『愛のピラミッド』【超短編小説 082】

彼女と初めてキャンプに来た。

バーベキューの後片付けも終わり。半分消えかけた焚き火の前に、僕と彼女は並んで座っていた。

頭上には無数の星たちと天の川。月が出ていない今夜は、とてもたくさんの星が見える。

焚き火に照らされた、僕らの三角形のテントを見て彼女が言った。

「なんだかエジプトのピラミッドみたい」

「確かに」

広い敷地の好きなところにテントを設営してもいいこのキャンプ場で、僕たちはなるべく他の人がいない場所を選んだ。だから暗闇の中で僕らのテントは、まるで広大な砂漠にポツンと立っているピラミッドに見えた。

本来、ピラミッドは死者を埋葬するお墓なので、こんなロマンティックな夜の会話に出てくる言葉としては不釣り合いなのかも知れない。

でも僕は思った。ピラミッドは王の死後に、お墓として利用されたけれど、生きているときは愛の巣として使われたのではないかと。
その時のピラミッドの役目は、非物質的パワーである愛を増幅させて多くの人々に幸福を与えていたのではないかと。

そんなことを考えながら、僕は彼女の何気ないひと言をロマンティックな言葉であると解釈した。そして、僕らもピラミッドの中で一晩中、愛を育んだ。

テントとハンモック

《最後まで読んで下さり有難うございます。》

僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。