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オリンピックと記録映画

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。

もちろん執筆時には『東京2020オリンピック』は観ていない。
(初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年8月2日)


すぐれたSFは未来の現実を先取りする。宮城出身の漫画家・映画監督の大友克洋が30年以上前に映画『AKIRA』(1998年)でそれを活写した、いわば想像力に先取りされていた東京オリンピック2020。スポーツと平和、そして東日本大震災からの復興の象徴ともされた今回の祭典は、多くの人々の記憶に何を残すのだろう。

あまり知られていないことかもしれないが、1912年のストックホルム大会以降、オリンピックのたびごとに公式記録映画が作られており、現在ではその多くがインターネットを通じて公開されてもいる。映画史においては、『民族の祭典』として知られるレニ・リーフェンシュタールの監督によるものが有名だ。「ヒトラーのオリンピック」とも言われた1936年のベルリン・オリンピックを描いた作品だが、人間が走り、跳ぶという、運動の美そのものを映像に捉えた傑作であることは間違いないだろう。

しかし、多くの日本人にとっては、やはり1964年の東京オリンピックを記録した市川崑監督の『東京オリンピック』である。最初は『羅生門』『七人の侍』などで知られる黒澤明が起用されたが降板、代役として『野火』『黒い十人の女』の市川崑が抜擢される。だが、競技の記録よりも人間ドラマに重点をおいた映画に仕立て上げたことを、試写を見た当時のオリンピック担当国務大臣・河野一郎が公に疑問視したことで物議を醸した。その一方で、カンヌ国際映画祭で国際批評家賞を受賞したほか、2300万人以上が見た、国内では稀に見る観客動員数を誇る作品でもある。それはもしかしたら、オリンピックという祭典を通じて、戦後から復興した日本の姿を見ようとした当時の国民の夢と重なっていたからかもしれない。あるいは、ある時代まで近代オリンピックとは、そうした夢を託しながら世界を回る文字通り聖火のリレーだったのかもしれない。

さて、『AKIRA』はともかく、今回の東京オリンピックも、これまでと同様に公式の記録映画は撮られている。監督は現在の日本を代表する映画作家の一人である河瀨直美。優れたドキュメンタリー映画を数多撮った彼女ならば、二度目の東京オリンピックをどのように描き出してくれるだろうか。


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