小川直人

|映画・映像/編集/生涯学習||せんだいメディアテーク/宮城大学/logue/Nitr…

小川直人

|映画・映像/編集/生涯学習||せんだいメディアテーク/宮城大学/logue/Nitrate Films/高城デザイン研究室||1975年生まれ/宮城県|

マガジン

  • 映画について書いたもの

    映画評や映画文化にまつわる文章。

  • アーカイブ:2010-2021年

    2010-2021年のあいだに、せんだいメディアテークの企画に関するものや各種媒体(新聞や小冊子など)に寄稿した文章。

  • まちかどエッセー(河北新報連載)

    河北新報夕刊に2021年7月から10月にかけて連載した軽めの随筆。全8回。

  • アーカイブ:2000-2009年

    2000-2009年のあいだに、せんだいメディアテークの企画に関するものや各種媒体(新聞や小冊子など)に寄稿した文章。

  • 美術について書いたもの

    主に現代美術の展覧会や作品について書いたもの。しかし滅多にない。

最近の記事

2023年に映画館で見た映画ベストテン

図らずも2023年の最後(12月29日)に映画館で見た映画が『ヘル・レイザー』(監督:クライヴ・バーガー/1987年)であったことが何をか暗示しているのかどうか、いまこの段階では考えあぐねているところだけれども、昨年からはじめて1年ほど経ったところでピタリと更新を行っていたnoteをひさしぶりに開く口実に今年もカレンダーに記された記録を遡りながら順不同で10本を選んでみる。 『カード・カウンター』(監督:ポール・シュレイダー) とても地味な作品と言えるだろうが、今年幾度と

    • PFFアワード2023 初日の短評

      自主映画の登竜門として45回を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」、昨年は最終日だけ参加してPFFアワード受賞作のみを見ることができたが(その時の短評)、今年は逆に初日だけ参加できたアワードに入選した22作品にうちの8本を見た。これらが何らかの賞をとるのかはわからないが、自分の備忘録と、2回目の上映のときの誰かの参考のために記しておく(アワード作品は会期中2回上映される)。 *PFF2023は9月9日から23日まで、東京の国立映画アーカイブで開催。入選作品は10月

      • Crimes of the Future(監督:デヴィッド・クローネンバーグ/2022年)

        本当に好きなものについて書くのは難しい。クローネンバーグの映画はその類いである。 1980年代半ば、小学生のころにテレビではしばしばホラー映画の特集番組が放送されていた。世の中でそれが流行していたかどうかも知らない、ただただ怖いもの見たさで指の隙間から見ていた子どもだった私の脳裏に強烈に残ったのは、襲いかかってくる殺人鬼やゾンビではなく、裂けた腹部にビデオテープを押し込める様である。夜に見ている悪夢そのままのイメージに吐き気を覚えてうっとりしたのは、思えば自覚する以前に自分

        • アシスタント(監督:キティ・グリーン/2019年)

          冬のある一日であることを差し引いても全体に寒々しい色合いの画面、音楽を極力排していながら空調や照明などオフィスのノイズやパソコンのキーを叩く乾いた音は慇懃なまでに拾う音響、そして、多くの場合固定されたカメラに収まりながら淡々と仕事をこなす主人公のジェーン。#MeToo運動の発端となった映画業界を題材にしたという事前情報にやや構えていたが、どこのオフィスともほとんど変わらないように見える。つまりは、多くの人に当てはまる舞台である。 ジェーンは、名門大学を出て、おそらく真面目な

        2023年に映画館で見た映画ベストテン

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        • 映画について書いたもの
          28本
        • アーカイブ:2010-2021年
          12本
        • まちかどエッセー(河北新報連載)
          8本
        • アーカイブ:2000-2009年
          13本
        • 美術について書いたもの
          7本

        記事

          ぼくたちの哲学教室(監督:ナーサ・ニ・キアナン/2021年)

          映画の帰り道、「《哲学》と言うからなんだか難しいかなと思ったけど、道徳の授業みたいな感じなのかもね」と一緒に見た中学生の娘に何気なく話しかけると「いや、ぜんぜん違ったよ」と真面目な顔で返してきた。 彼女が受けている道徳の授業は、身近に起きたことが題材になるわけではなく、教科書に書いてある物語、それも「そんな極端なこと普通起きないよ!」と思うような話をもとに行われるため、だいたいみんな同じ答えに行き着くらしい。それに、考えたり話し合ったりする時間があんなにないとのこと。 今ど

          ぼくたちの哲学教室(監督:ナーサ・ニ・キアナン/2021年)

          aftersun/アフターサン (監督:シャーロット・ウェルズ/2022年)

          映画を見て人が泣くのは、その物語に自分のことを重ねているだけにすぎないと言ったのは誰だったか。たしかに、他人の物語に涙するのは、結局のところそれを自分の物語に重ねているときだけかもしれない。職業的に映画を見るようになってからは不用意に泣くわけにもいかないし、心動かされることと評価することは別と割り切るようにしているので、結果、いずれの映画からも一定の距離をおいて見ることを心がけて久しい。時々不意打ちは喰らうけれども。 この作品は、かつてのバカンスで撮影されたビデオテープを、

          aftersun/アフターサン (監督:シャーロット・ウェルズ/2022年)

          TAR (監督:トッド・フィールド/2022年)

          見てからしばらく経つのだが、もう一度見なければいけないような、しかし、もう一度見たところでケイト・ブランシェットにまた目が釘付けになって2時間半を終えるだろうと思われるので、とりあえず走り書きのメモを残すことにする。 そう、さまざまな映画評を読んだり、見た知人友人たちの感想を聞いても、誰もがリディア・ター=ケイト・ブランシェットに目が釘付けだったと言う。ターが実在の人物と思った人々がいるというまことしやかな話も納得できるほど、ケイト・ブランシェットの存在は確かなものである。

          TAR (監督:トッド・フィールド/2022年)

          聖地には蜘蛛が巣を張る (監督:アリ・アッバシ/2022年)

          イスラム教と言えば厳しい戒律に律された社会が想像されるが、そんな国でも世界最古の職業である娼婦は存在するらしい。イランで実際にあった娼婦を狙った連続殺人事件をモチーフにした、それも、リベンジポルノでイランからフランスへ亡命を余儀なくされたかつての国民的女優が主演するサスペンス映画。スキャンダラスな実話ものかと構えて見始めたものの、始まって早々に犯人は明らかとなってしまう。それによって、この映画のサスペンスたる所以が殺人鬼の凶行そのものではないことはすぐに分かったのだが、ではど

          聖地には蜘蛛が巣を張る (監督:アリ・アッバシ/2022年)

          郊外の鳥たち(監督:チウ・ション/2018年)

          中国の地方都市。地盤沈下のため地質調査に訪れた青年は、廃校となった教室に残された日記を手にする。そこでは同じ名前の少年が生き生きと街で暮らしていた。それはかつての青年なのか、それとも単なる偶然なのか、映画はその問いに答えようともしないまま進んでいく。 数年の時を隔てているとはいえ、大まかには二つの物語が語られているだけのはずなのに、そもそも二つの物語は一つのものであったのか判然としないのはなぜだろう。睡眠中に見る夢のような、と言っても良い。夢というものは、起きてから思い出そ

          郊外の鳥たち(監督:チウ・ション/2018年)

          Rocks Off(監督:安井豊作/2014年)(『セントラル劇場でみた一本の映画』より)

          これは、『セントラル劇場でみた一本の映画』(2019年)というリトルプレスに寄稿したものである。2018年に閉館した宮城県仙台市の映画館「セントラル劇場(セントラルホール)」にまつわるエッセイを集めた本書は有志二人による企画で、その編集を手伝ったついでに自分も書いた。すでに入手困難なようなのでここに掲載する。 あれは「爆音映画祭 in 仙台2015」の年、2015年6月6日の夜である。爆音映画祭の始祖・boid主宰の樋口泰人氏との友情と個人的な趣味の問題として、当時各地で行

          Rocks Off(監督:安井豊作/2014年)(『セントラル劇場でみた一本の映画』より)

          鈍行旅日記(監督:福原悠介/2023年)

          10代後半から20代前半まで、わりと好んで一人旅をしていたように思う。とは言え、おおよそまめに旅の計画を立てることもなく、道中に見知らぬ人と交流するほどの社交性もなかったので、最低限の目的地とそこへ到る安価な方法を考えたら出発し、結果、移動時間は飽きるほど長く、目的地に着いたところで時間を持てあまし、喫茶店でコーヒーを飲みながら持参した本を読んでいるといった体たらくが多かった。今にすればそれが最も贅沢な旅の一種だと思えるけれども、当時なぜそんな旅に出るのか自分でもよくわからず

          鈍行旅日記(監督:福原悠介/2023年)

          無法の愛(監督:鈴木竜也/2022年)

          鈴木竜也監督は、昨年(2022年)のPFFぴあフィルムフェスティバルで『MAHOROBA』を見たときに短評を書いた。同じく2016年のPFFで見た『バット、フロム、トゥモロー』の監督であること、また同郷であることを知り、急に親しみがわいていたのだが、それは必ずしもそうした理由からだけではない。 コロナ禍で時間ができたのでアニメづくりを独学でやってみた、というだけあって「一人でつくったがすごいCGである」などということは一切感じない、むしろこれなら真似できるのではないか?と思

          無法の愛(監督:鈴木竜也/2022年)

          2022年に見た映画ベストテン

          2021年の最後を『ドント・ルック・アップ』(監督:アダム・マッケイ)で締めくくり、地球の滅亡を予習しながら迎えた2022年は、思ったより映画館で映画を見ることができた。とはいえ、見るべきと思いつつ見られなかった映画は相変わらず多い。 それでも、「頼まれもしないのに文章を書く」という課題のためにはじめたnoteなので、年末最後は頼まれもしないのに今年見た新作映画ベストテンを書くのがふさわしかろうと(だいたいにして○○ベストテンなどというものは、まったく個人的で異論反論を許さな

          2022年に見た映画ベストテン

          ケイコ 目を澄ませて (監督:三宅唱/2022年)

          『コーダ あいのうた』(シアン・ヘダー監督/2021年)や『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督/2021年)がアカデミー賞を取ったこともあり、ろう者を描いた映画、そして、ろう者を演じること、ろう者が演じることについて、多くの人が関心を寄せられるようになった昨今。撮影や編集など映画的な技術だけでなく、福祉、マイノリティーや労働問題などさまざまな視点から批評されるであろう題材をどう撮るのだろうという興味と心配は正直あった。ただ、監督がインタビューで「ボクシング映画は既に数多く撮

          ケイコ 目を澄ませて (監督:三宅唱/2022年)

          七人楽隊(監督:サモ・ハン、アン・ホイ、パトリック・タム、ユエン・ウーピン、ジョニー・トー、リンゴ・ラム、ツイ・ハーク/2021年)

          香港は国ではない。中国の一部(特別行政区)である。第2次世界大戦のときには日本軍が占領したこともあるが、近代史から現代史の範囲に到るまでイギリス統治下にあった場所。しかし、もう私には1997年の返還後の記憶のほうが長い。経済的な繁栄を謳歌しつつ、一国二制度という奇妙な仕組みを与えられた、国のようで国ではない場所。一度も訪れたことはなく、子どものころテレビで見たジャッキー・チェンのカンフー映画と、TM NETWORK『Get Wild』のMVでメンバー3人があてどなく歩く背景、

          七人楽隊(監督:サモ・ハン、アン・ホイ、パトリック・タム、ユエン・ウーピン、ジョニー・トー、リンゴ・ラム、ツイ・ハーク/2021年)

          アフター・ヤン(監督:コゴナダ/2021年)

          AIロボット、アンドロイド、サイボーグ……どのような表現でも良いけれども、画面に立つ、あるいは、横たわる俳優をそう名指してしまえば、もう体から光を発したり、怪力を示す必要はない。「未来」という言葉が必ずしも喜ばしくも輝かしくも感じられなくなった今日、SF映画がSFたる意味は「現在とは別の世界線を示す」ことであると言える。 ほんの少し違和感を与えるような素振りを加えれば、私たちはすんなりとSF的設定を受け入れる。ロボットのヤンは、ほんの少しだけ肌や表情が滑らかすぎる演出がほど

          アフター・ヤン(監督:コゴナダ/2021年)