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生まれてきた君へ

 先日、息子がついに2歳になった。1歳から2歳までの1年間は本当にあっという間だった。

 私たち家族にとって何度も荒波が押し寄せた時期とも重なり、正直言って息子にはあまりかまってあげられなかったけれど、1歳半から保育園に通いだしたおかげで、息子の笑顔を守ることができた気がしている。

 誕生日の当日は、保育園でパジャマパーティーがあり、寝間着を来て登園した。夜はいつも通り、母と息子2人だけの晩ごはん。甘辛く炒めた豚のひき肉と茹でたブロッコリーをご飯に混ぜ込み、卵を焼いて、ワカメスープを用意した。

 韓国では誕生日にワカメスープを食べる風習がある。夫はワカメスープがそんなに好きではないので、彼の誕生日には作らなかったのだけれど、息子の誕生日には、なぜか作ってあげなければいけない気がした。

 まだほとんど言葉を話せない息子が、最近私のことを「オンマ」と呼ぶようになったからだろうか。自分がまるで“韓国の母親”であるかのような錯覚に陥ることがあるのだ。これから誕生日が来るたびに、「ワカメスープは食べた?」と誰かに聞かれるであろう息子が、「うん、食べたよ」と答えられるように。「毎年ちゃんと作ってあげなきゃ」と思っている私がいて驚いた。

 週末、夫がいる時に誕生日パーティーを開こうと計画していたものの、夕方が近づくに連れて、計画が次々と変更になっていった。手作りのケーキを作る予定が餅を買いに走ることになり、ハンバーグを作るつもりが、いただきものの牛肉を切って焼くだけになった。

 息子はマートで餅売り場のアジュンマ(おばさん)に、会計前の餅を「食べていいよ」と言われ、6個中5個をたいらげていた。夕食時にはすでにお腹が膨れ上がり、義弟が誕生日祝いとして送ってくれた牛肉を数切れも食べずに終わってしまった。

 餅にろうそくを2本差し、バースデーソングを歌った。保育園で何度も誕生日会を経験しているからか、自分が主役であることがわかったようで、ろうそくの火を嬉しそうに見つめながら、彼は終始手を叩いていた。

 何一つ計画通りに準備できず、手抜きしまくりの誕生日会。「こんな適当な親でごめんよ」という気持ちになったけれど、本人が嬉しそうにしていたので救われた。親の罪悪感を笑顔一つで帳消しにしてくれるなんて、生まれてわずか2年ながら、ものすごい孝行者ではないか。

 そう、子育ては大変だなと思う一方で、実は息子の存在に助けられていることもいっぱいあるのだ。

 以前、NHKの『おかあさんといっしょ』で、歌のお姉さんたちが「にらめっこしましょ、あっぷっぷー」とやっているのを見て息子が大笑いしたことがあった。それ以来、私も時々「あっぷっぷー」と変な顔をして息子を笑わせていたのだが、ある日、私がいたずらばかりする息子にガミガミ叱っていると、突然「あっぷっぷー」と言い出したのだ。

 その日から、私が怒ろうとすると「あっぷっぷー」。不機嫌になっても「あっぷっぷー」。「何があっぷっぷーや」と関西弁でツッコミを入れるそばからまた、「あっぷっぷー」。まるで歌を歌うかのようにふざけた調子で繰り返す「あっぷっぷー」に、何度笑わせてもらったことだろう。

 まだこんな息子に出会えるなんて思ってもみなかった、10年以上前のある日。なぜか子どもを産んだ母親の視点で、一編の詩を書き残していた。

 当時、生まれて数か月の頃に知り合い、抱っこしたりおむつを替えたり、ミルクを飲ませたりさせてもらっていた、小さなお友達がいた。おそらく、その彼女のことを想いながら書いたのだろうけど、実際母になった今読み返すと、この詩の世界そのままに生きてきたこの2年間が思い起こされ、不思議な気持ちになった。

 小さなお友達は、私がその街を去る時に初めて涙を見せたら、驚いた顔で駆け寄ってきて、正座していた私の膝の上に座り、ギューッと強く抱きしめてくれた。その時、2歳4か月。私は今でも彼女の力強さと温もりを忘れることができずにいる。

 息子ももう少ししたら、あの日の彼女のように、私をギュッと抱きしめてくれるだろうか。ふざけた調子の「あっぷっぷー」を聞けるのは、あと何回くらいだろうか。どうかこれからも、ずっと元気でいてほしい。ずっと、ずっと、元気で。

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生まれてきた君へ

どうして私たちを選んだの
どうしてここにやって来たの
今、何を思っているの

そっと問いかけてみても
君は小さくあくびをし
こちらをじっと、見つめるだけ

どんな人にも必ず
パパとママが
お父さんとお母さんが
父ちゃんと母ちゃんがいて

乳を飲み、おしめをかえ
あやし、あやされ
抱き、抱かれ
その繰り返しがなきゃ生きてゆけない

君はただそこにいて
泣いて寝て、笑って見せるだけで
生きること
その意味を教えてくれる

これからずいぶん
長い付き合いになるだろう
私を母に、彼を父に
育ててくれる君へ
ありがとうのキスを
その柔らかなほほにひとつ

「愛」だなんて言葉
ちょっと照れくさいけれど
君を抱きしめると言える気がする
ずっとずっと
愛しているよと

「生まれてきた君へ」2009

詩/Kim Mina

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