見出し画像

『鱗の博物誌』

☆mediopos-2324  2021.3.28

昨日の「皮膚」の話につづいて
「うろこ/鱗 scale」の話

鱗はもちろん皮膚でもあるが
それは「歯」から発生しているという
(ちょっとした驚きだった)

歯は食物を食べるために生まれたのだが
それは皮膚にある真皮と表皮の相互作用で生まれ
身体の外側の表皮構造が多様化することで
鱗になりさらには鳥の羽にもなる

鱗といえば魚がイメージされるが
そこから爬虫類に鳥類にと
驚くべきメタモルフォーゼが展開されているのである

それらの姿を「博物誌」として
しかもこうした比較的コンパクトなかたちで
概観できるのは嬉しい

本書にはさらに巻末に特集として
「もう1つの「鱗」の話し」がいくつか加えられている
ここでは「うろこ雲」の話を引いておいた

「うろこ」状のかたちは
魚の鱗が水の流れのなかから生まれたように
大気の流れのなかからは「うろこ雲」が生まれる

「かたち」にはそれが生まれる理由があり
そのメタモルフォーゼにも理由がある

そういえば花崗岩にも含まれる
「雲母(うんも)」という鉱物は
その名の通り「雲の母」という漢字で表される
語源は中国語だがなぜ雲の母なのか

雲は地形と深く関わっているのだが
中国の桂林のような奇岩のある山地では
仙人の乗るような雲がいつも巻き起こっているために
古代の中国の人たちは
岩石の精気が立ち昇って凝集したものが
雲になるのだと考えたのだという

岩石のなかにある雲母は
岩石の成分のなかでも透明で軽く剥がれやすいため
それが雲になるだと

いかにも中国人らしい想像力故のネーミングだが
歯から鱗へ羽根へと
メタモルフォーゼしていくかたちもまた
自然の驚くべき想像力故なのかもしれない

しかしあらためて人間の皮膚を見ると
鳥の羽のような姿と比べると
格段にみすぼらしく思えてくる
(捉え方はひとそれぞれだが)

おそらく人間は自然を内面化することで
外的なかたちのメタモルフォーゼを
思考力や想像力によるそれに変えてきたのだろう
そのことで外的な自然を使って
さまざまなかたちを作り出すようになった
着飾ることでじぶんの姿形を
メタモルフォーゼして見せることもできる

さらにいえば新たな地質年代として
「人新世」ということもいわれうようになっているが
人間は地球環境をも破壊的なまでに
作り変えるようにさえなってきている

自然はさまざまな「かたち」をつくりだしてきたが
自然の一部でもあるはずの人間はこれから
その自然そのものとどう関わっていくのだろうか

鳥の羽根のかわりに
飛行機をつくりだした人間は
さらにこれから自然の生成のかわりに
なにをつくりだしていくのだろう

■田畑純・遠藤雅人・塩栗大輔・安川雄一郎・栗山武夫・森本元 著
 『鱗の博物誌』(2020.10 グラフィック社)

「鱗は歯と起源を同じくする硬組織であり、ガノイン鱗という魚鱗では、エナメル質や牙質がありますし、シーラカンスの体表を覆うコスミン鱗では歯のかたちそのものの突起(小歯)が多数あります。これらは主として「防御のため」に発達しましたから、徐々に分厚くなり、かつ硬い硬組織に置き換えられていくという進化の道筋を辿りました。ただ、鱗を軽量化する道を進んだ条鱗類が大繁栄を遂げましたから、タイやコイなどの体表を覆う葉状鱗の方が、魚鱗としての完成形だったようです。
 本書の前半はこうした魚鱗の進化と多様性を私どもが撮影した写真、作画した模式図を使って供覧します。鱗がだんだんとシンプルなかたちになる一方で、体色が豊かになるのがよくわかると思います。また、魚類の生活様式や習性などの進化も併せて記載しました。」

「デボン紀になると、ユーステノプテロンやテイクターリクなど陸上進化して四肢動物へと向かう魚類たち(肉鰭類)が現れます。両生類になると体表から鱗が消失しますが、進化の上では一時的といってよく、爬虫類から再び鱗が体表を覆います。「乾燥に耐えるため」というミッションが新たに与えられたからです。そして、魚類のようにリン酸カルシウムを中心にした骨鱗 body scaleではなく、ケラチン質を主成分とした角鱗 horny scaleに切り替わります。鱗を作る主要な細胞が、間葉系から上皮系の細胞になり、鱗は体表の内側(皮下)ではなく、最外層(表皮の表面)に作られるようになりました。
 なお、爬虫類、特にヘビ類の鱗が作る幾何学模様や特殊な色使いは神秘的でさえあります。こうした文様がさまざまな文化や芸術に影響を与えてきたのも道理で、本書ではこうしたヒトとのつながりや風物についても触れています。」
 
「恐竜の直接の子孫が鳥類であることは、今では周知のこととなりましたが、鳥類の全身を覆う羽根も角鱗の進化したかたちです。恐竜の時代から、保温や走行時の安定翼、求愛や威嚇のためのディスプレイのために羽根が発達していたようですが、鳥類では「飛翔のため」にさらに進化したのでした。」

(「特集03 もう1つの「鱗」の話し うろこ雲」より)

「私たちが暮らす地球は魚にとっての「水」のように「大気」に包まれている。この大気は透明で、その流れを目で見ることはできない。そのため、大気の流れを普段から意識することはあまり多くない。それを確認できる機会の一つが雲の動きを見ることだ。その向きや速さなどで、大気の流れを知覚することができる。
 雲は空気が上へと吹き上がっている場所にできる。こうした空気の動きは「上昇気流」と呼ばれる。うろこ雲はこの上昇気流と下降気流が細胞のように広がった対流「ベナール対流」が上空で起こっている際に見られるものである。
 雲は形状の違いや発生の仕方などにより、大きく10種類に分けられている。「十種雲形」と呼ばれるこれらの雲のうち、「うろこ雲」は巻積雲にあたる。
 うろこ雲は上空5,000〜13,000メートルと比較的高い場所に発生する。美しいうろこ雲だは、上空の風の流れの影響で、すぐに姿を変えてしまう。また、台風や低気圧が近づいてくるときに現れてくることが多い。古来、漁師の間で「うろこ雲は悪天の兆し」とされるのもこのためである。
 時折、うろこ雲の端が虹色に色づいて見えることがある。この現象は「彩雲」と呼ばれる。彩雲は雲粒(水の粒)により太陽光を構成する色が回折という仕組みで分かれて見える現象だ。虹ほどはっきり光が分かれず、グラデーションのように淡く色づくのが特徴である。
 なお、うろこ雲が分類される巻積雲は、うねうねとした波のような模様になったり、レンズ状になることもあり、「さば雲」「いわし雲」という俗名で呼ばれることもある。」

画像1

画像2

画像3

画像4


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?