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メルヘン「クラスペディア」11

満面の笑みで振り向いてくれた。
「何をしてるんですか」
「これはクラスぺディアという花で、種を取ってるんです。そして、また秋に種蒔きすると6月から8月頃まで花を咲かせるんです。こうして、こまめに種をとり来年に繋げるんですよ」
僕も微笑んで見せて、手伝いだした。

「もういいわ。もうすぐ電車が戻ってくるから。ホームに戻らなきゃ」
ホームへの階段を一人ずつ上って行った。

彼女は制服を見て。
「私の出身中学ですね」
「図書室でよく本を借りてましたよね。」と僕。
「うん。宮沢賢治とか好きなのよ。
もうすぐこの駅も銀河鉄道の夜になるわよ」
「あなたの名前は?」
「大原あきらです。」
「僕は壮平あきらです。」
僕が名前を知っていても、僕の名前を彼女が知っているはずはなかった。
「会いたかったです」と思わず熱くなってしまう。
「お会いできて嬉しいです。」と彼女は続けて
「お元気になられるのが私の喜びでした。
あなたの笑い声が確かに聞こえた。
あなたの喜ぶ顔が確かに見えた。」
僕をずっと見ててくれたんだ。
僕をずっと励まし続けてくれたんだ。
「僕もあなたの笑顔を思い浮かべ続けた。僕もあなたの笑い声が聞きたい。
喜ぶ顔が見たい。
僕が今度はあなたを笑顔にしたいです」と強く言った。

線路脇のクラスぺディアの花には
全てに目と口がつき、
笑顔となり、
空へと広がっていった。
夜空にはたくさんの笑顔が広がり、
やがて星のみが残って輝いていた。

僕の隣には笑顔の・・・
いなかった。

ホームに電車が滑りこみ、乗るか少し迷ってみた。そして電車に乗った。
電車には2人ほど乗ってるだけだったが、扉に立って外を眺め、彼女の笑顔が揺れるのをみていた。

涙はまばたきのキッカケも知らずとも流れた。汗として、この感情もまぎれていてわからなかった。

家の駅に着き電車を降りてホームで、自転車の鍵を取りだそうと、ポケットに手を突っ込むと種が入っていた。

つづく

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熟成下書き

ごめんなさい。詩に夢も憧れもありません。できる事をしよう。書き出すしかない。書き出す努力してる。結構苦しい。でも、一生書き出す覚悟はできた。最期までお付き合いいただけますか?