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ヒマラヤ山脈、下から見るか横から見るか



 先日とある方が書かれた“飛行機の窓から見えた景色”の記事を拝読し、自分にもそんな思い出があったな…と懐旧の想いに浸っていた。
 それは七年前のネパール旅行。カトマンズ─バイラワ(別名:シッダールタナガル)間の国内線の窓から、遥かなるヒマラヤ山脈を一望した記憶である。



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 ルンビニへ遺跡観光に行くため、俺は要衝となるバイラワへと向かっていた。乗ったのはこのような小型プロペラ機。生まれて初めてプロペラ機に搭乗するという初体験ゆえの昂揚感、そして安全に飛ぶのか憂慮する緊張感を抱えながら、俺はタラップを踏み締めた。
 意外と言っては失礼だが、飛行機は何のトラブルも無くすんなりと飛んだ。観光バスよりも狭い窮屈な機内ではあったが、どうせ座りっぱなしなのだからさほど気にならない。張り詰めていた緊張の糸が切れて、俺はそのまま昼寝してしまった。着陸するまでは僅か一時間にも満たない。浅い夢から醒める頃、機はまさにバイラワへと降り立とうとしていた。




 やがてルンビニ観光を終え、バイラワからカトマンズへと踵を返す。
 再び俺はプロペラ機のお世話になった。二度目のプロペラ機体験となる帰りのフライトでは、一度目で味わったような緊張も高揚も眠気もなかった。機内サービスとして配られたコーラを一気に飲み干し、空いた紙コップを握り締め傷を付けて遊ぶ。到着までの一時間、ただ退屈から耐えるのみ。
 首を横に捻ってみる。座った席の真横、左側の窓の外には青と白。確かに美しい展望だが、飛行機に乗れば毎回味わえる、さほど珍しくもない見慣れた光景だ。
 ──いや、よく見ると違う。白いものは雲だけではなかった。



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 雲海を突き抜ける白銀の峰。俺たちはヒマラヤ山脈の真横を飛んでいたのだった。


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 どれがエベレスト?どれがマカルー?どれがマナスル? 少ない知識から山の名を振り絞る。俺はぐちゃぐちゃになった紙コップの存在も忘れ、窓の外に釘付けとなった。
 そして小学生の頃に読んだ植村直己氏のエッセイや、旅行の前年に放送された「世界の果てまでイッテQ!」におけるイモトアヤコ氏のマナスル登頂の様子を思い出す。極限の寒さや悪天候、気圧の低さ──。人間が立ち入ることを阻むような魔窟の様子が、それらに語られていた。横目に眺めるだけならこんなに美しい山も、下から見たらさぞ絶望的な岸壁に見えてしまうことだろう。




 多くの登山家の方々に思いを馳せる。この瞬間にも、この果てしない壁のどこかで誰かがアタックを試みているのだろうか。そして俺たちが乗る飛行機に気付く余裕もなく、絶望的な挑戦を続けているのだろうか。俺はそんな方々の安全を、遠巻きに願うことしかできない。
 高度が徐々に下がっていく。一時間足らずの空の旅が終わり、飛行機は無事カトマンズに到着した。このフライトと同様、彼らの冒険も平穏無事で終わるように祈り、俺はゆっくりとタラップを降りた。

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