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「聖剣伝説4」は本当にクソゲーなのか? ─クリア後の感想

 あなたは酔い止めを飲みながらTVゲームをしたことがありますか?
 俺はありませんでした。このゲームを遊ぶまでは…。


●はじめに


 2021年6月。今更ながら俺は「聖剣伝説4」を購入し、エンディングを見届けることができた。
今更旧世代ハードのゲーム、しかも著しい評判の悪さを知っているにも関わらず遊んだ理由…。それはこのゲームをプレイことが十年来の悲願になっていたためだ。

ジャケットからは名作の匂いが漂う。しかし…。



 聖剣シリーズをマトモにプレイした経験は、中学時代に遊んだ一作目「ファイナルファンタジー外伝」しかない。発売年に生まれた非リアルタイム世代の俺からしても、軽快なアクション・センチメンタルなBGM・シンプルながらも胸を打つシナリオとテキストが素晴らしく思えた。間違いなく稀代の傑作である。 (なお弟から「聖剣伝説DS」を借りた経験もあるが、こちらはすぐに飽きてしまった。)



 奇しくも俺が「FF外伝」を堪能した直後、聖剣4が発表された。
 聖剣シリーズ自体への興味は薄かったが、俺は本作に興味を惹かれた。池田奈緒氏が手掛けたキャラクターデザインが凄く魅力的だったし、システムも独特で面白そうと感じた。そして何より発売直前のPVに惹かれたのである。坂本龍一氏のメインテーマや、フラメンコ風の優雅なBGM(イトケンこと伊藤賢治氏が手がけた名曲「愚者の舞」)を用いた動画は購買意欲をそそるに十分だった。遊びたい欲があまりにも強過ぎたのか、発売前に本作を買って遊ぶ夢を数回見たことさえある。



 しかし結局、俺は本作を購入しなかった
 インターネットを頻繁に使っていた俺は、ゲームの評判を気にして購入する習慣が付いていた。当時、「聖剣4」の評価は荒れに荒れていた。劣悪な操作性、説明不足かつダイジェスト過ぎるシナリオ、ステージ毎の能力値リセット等が槍玉に挙げられ、本作は瞬く間にクソゲー・黒歴史入り作品としての地位を確立していた。某掲示板では「クソゲーすぎる、、どうなってんだ、、?」とまで揶揄されていた程だ。具体的な批判点は書ききれない程あるので、興味があれば是非お調べいただきたい。なお、グラフィック・声優陣の演技・BGMに関しては批判の声はほぼ見られず、概ね好評と受け止められているらしい。



 それから十数年。映画鑑賞を趣味とするようになってから、「どんな評判の悪いものであっても、気になるなら自分の目で確かめなくては」という考えが生まれた。エアプ・エア視聴の評価は絶対にしないと近い、抱いた興味を抱きっぱなしにするのは体の毒…と思うようになったのである。




 今まで遊びたいと感じた発売済のゲームは、その欲望が生まれてから日を置かず遊んできた。そんな中十数年間、俺の心のどこかに引っかかったままの聖剣4…。本当につまらないのか?いや実際は「自分にとっての神ゲー」である可能性も捨てきれない。丁度資格試験がひと段落して積んでいるゲームもない今こそ、聖剣4に挑む絶好の機会ではないか?
 「(敷居の低いことならば)思い立ったらすぐ行動」を目指す俺は、即座にamazonで聖剣4を購入した。購入価格は何と4円(送料含めても254円)。以前itunesで買った本作のBGM三曲分よりも圧倒的に安かった。


●「聖剣4」のどこが酷かったのか


 …20時間ほど費やし、俺は聖剣4をクリアした。以下より、その感想を述べていきたい。


 悪い点に関しては、おおむね評判通りだった。まずカメラワークの酷さが尋常じゃない。主人公に追従するカメラの移動速度が遅すぎるのが原因だろう。そのくせ頻繁な視点移動を要求されるのが辛い。三半規管が弱い俺は酔い止めを飲まないと30分以上のプレイがままならなかった。ゲームを遊んで体調を崩す羽目になるとは…。


 そしてシナリオも噂に勝る酷いシロモノ。大好きな「クロノ・クロス」等を手掛けた加藤正人氏が携わった作品とは信じたくない。この10年間遊んだゲーム中最低の脚本だったと断言できる。キャラクターや世界に唐突な悲劇が起こるのが本作の特徴だが、どんな悲劇が起ころうとも描写不足過ぎて一切感情が移入できない。
 例えば【主人公が異形の魔物と化した親友と対峙する】という展開があるが、その主人公と親友の会話は作中においてたったの二分間程度しかない。仲間キャラクターとして一緒に戦ってくれる訳でもなければ、親友の登場シーン自体もわずか五分程度しかない。そんな彼を殺めたところで、俺の心には何の葛藤も発生しなかった。
 昨今【フィクションに対する想像力の欠如】を問題視する論考が多いが、本作はその【想像力】をもって全ての描写を補わなくてはならない。物語の余白を楽しむのは重要なことだが、余白があまりにも多すぎるので辟易させられる。プロットそのものは悪くないのに…。


●意外な評価点


 とはいえ、俺はそんな本作を投げずにエンディングまで遊んだ。つまらなさ故にプレイを断念し売り払ったゲームも多いが、そんな俺でも最後まで遊べてしまった。吐き気を催したのにも関わらず。



 その理由は、【物理演算で制御されたモノをぶつけて敵を無力化→無力化した敵が落とすドロップアイテムによって主人公を強化する】という独自のゲーム性が、意外にも爽快感があり楽しかったからである。ステージ毎の能力値リセットもさほど気にならず、ステージ毎に一から戦略を立てて敵を倒す→ボス戦に向けて主人公を強化する、というプロセスにも一応の楽しみが見出せる。
 リセットは別として、モノを戦闘に活かすというシステムの方向性自体は恐らく間違っていない。重みのある物体を操り敵の集団に投げる戦術は、かの名作「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」にも通ずる要素だ(比較するのは失礼かもしれないが)。プレイ中にストレスを感じた3Dマップの構成・操作性等が今よりも優れていれば、「ストーリーはイマイチだがゲーム部分はそこそこ面白い佳作」といった評価を獲得できていたかもしれない。



 またフィールドの物体に干渉し戦闘に用いるゲームといえば、以後に発売されたWiiのソフト「ファイナルファンタジークリスタルクロニクル クリスタルベアラー」(いつ聞いても長い名前だ)を想起させる。こちらはWiiリモコンによる直感操作でモノを操り、画面の中にそのまま触れるような感覚を得られるシステムが特徴的だった。マイナー作品である故にさほど言及されない気がするが、この操作性と聖剣4には親和性がある気がする。Wiiならではの直感的な操作体系を導入していれば、かなり良い遊び心地を得られたのではないだろうか。

●結論



 …というわけで、本作は【単なるクソゲー】ではなく、【惜しくも佳作になり損ねた微妙ゲー】として俺の心に残った。結局のところ、何の擁護にもなっていないかもしれないが。


 さて、明日聖剣シリーズは30周年を迎える。本日夜には30周年記念の動画配信が予定されており、多くのファンがその場での新作発表を待ち望んでいると思われる。


少し話は飛んでしまうが、先日発売されたリメイク版の聖剣3には、裏ボスとして本作のラスボスが登場したらしい。本作の存在は、決して抹消されてはいなかったようである。もしかして本作がリメイクされる布石を打っており、満を持してそれが発表されるのだろうか。或いは何事もなかったかのように「聖剣伝説5」が発表されるのだろうか。
 仮にリメイクされなくても、本作が【無かったこと】扱いされていないのであれば俺は嬉しい。仮に不出来なものであろうとも、一度世に出された創作物にとって、存在を抹消=否定されてしまうことは最大の悲劇であるはずだから。



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