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落星物語エピソード集

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ある一晩に見た夢をもとに、たくさんの妄想とも記憶とも言えるエピソードをメモした内容です。夢が元なので、整合性はないでしょうけれど。
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谷底での応戦

谷底での応戦

秀弓一門は牛馬に荷を載せ、松明を掲げて都を落ちていた。

重い荷を運ぶ牛馬たちは、まるで動く黒い大岩であった。彼らの隆々とした筋肉には黒々と影が落ち、それが滑らかに松明によって際限なく前後に動く。その影が風で大きくなった火に照らされると、緊張した面持ちの従者たちの顔が現れ、またすぐ、闇に消えるのである。

馬のいななき声以外、静かに隊列は進む。

都を出てどれくらい経ったか。
4歳の紫月を負いなが

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丞相という男

丞相という男

丞相。人は彼の地位をまず口にする。

いや、私はそのような大層な男ではない。
私はただの、商家の倅だ。

丞相は、ふうとため息をつきながら、夜の都大路を走る馬車の中で、腕組みをする。

彼の名は秀弓。かつては公商として苗字をも国に認められた徐家の三男で、徐紫芳と名乗っていた。

名が変わったのは、10年以上前になる。

秀弓は、富裕な商家の三男であったから、自由気ままに暮らすことはできたが、家督を

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水月の謀反

水月の謀反

和秦女王は焦っていた。

亡夫の忘形見とも言うべき水月王子が、謀反の罪を犯したと言うのだ。
幸いにも内部より密告が行われ、軍を動かす前だったのだが、丞相より私室でその話を聞いた時、まさかと口をついて出た。

紙燭の火が、じじっと音を立てて、一瞬燻る。

水月王子は忘形見と言っても、女王の実子ではない。水月王子は、亡夫が愛妾の間に設けた第一王子で、女王には亡夫との間に第二王子である陽雲王子がいる。

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「序文」

「序文」

遠い過去より、国がいくつも滅び、数多の命が今まで散ってきたけれど、しぶとく残るこの命の系譜に、意味を見出すのは間違いなのだろうか。

人の一生は儚いものだけれど、連綿と繋がる命の物語に耳をすませば、聞こえてくるものが、あるかもしれないーーと。

そう思っていたある晩、夢を見た。

一つの国の終末の時を、私はただ映画でも見るように、その夢を見ていた。

時々、この夢を思い出しては8年ほど前から今現在

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