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マイクロスパイ・アンサンブル~High Jumpの読書記録~(ネタバレあり)

High Jumpの読書記録のコーナー!

今回読了したのはこちら!

僕の大好きな作家、伊坂幸太郎先生の新刊です!
文芸書を発売日に購入し、読了したのは初めての経験でした(笑)

猪苗代湖で行われていた音楽フェス「オハラ☆ブレイク」で小冊子として配布されていた連作短編小説を書籍化したというこの作品。
音楽フェスで配布されていたこともあり、作中にはフェスに出演するアーティストの歌詞が引用されている部分が多く見られました(太字になってます)自分はそんな音楽フェスもアーティストも全然詳しくない中で読みましたが、それでも十分に楽しむことができました

どこかの誰かが、幸せでありますように。
さあ、作戦会議だ!
失恋したばかりの社会人と、元いじめられっ子のスパイ。
知らないうちに誰かを助けていたり、誰かに助けられたり……。
ふたりの仕事(ミッション)が交錯する現代版おとぎ話。

帯より引用

 小人のスパイと失恋したての社会人の二人の視点が交互に移り変わるような構成になっており、あ、こっちでこの行動したからあっちではこうなっているのか、と繋がりを意識しながら楽しめる。相変わらず登場人物が、情けなさがありながらも、しっかりと魅力的に描かれていて、どの人物も好きになれるのが伊坂作品のいいところかなと思う。今回の作品で言えば、門倉課長が印象的だった。いつも人に謝ってばっかりで、まわりから、あの人は何が楽しくて生きているんだろうといわれてしまうような人であるのに、ちゃんと話してみると自分の中に信念がしっかりあり、その信念に従って生きているのが分かる。宝くじで当てた1億円をある子供の病気を治すための募金に全額寄付してしまうんだからとんでもない(笑)でもそれがまわりまわって自分にしっかり返ってくるところも自分は読んでいてうれしくなった。

印象に残った場面を紹介します。

先ほど紹介した門倉課長にどうしてそんなに謝るのか普段から疑問に思っていた主人公の松嶋が、その疑問を口に出してしまった場面。

「課長、謝ってばかりで大変じゃないですか?」と口に出していた。
「え」
「いつも課長、謝ってばかりで」情けなくて、恥ずかしいです、と続けたくなるのを我慢する。
「だけど、悪いことをしたら謝らないといけないから」
「そんなに悪くない時も謝っていませんか」
「そうかなあ」門倉課長はぴんと来ない様子だった。「意識したことはあまりないけどね」
特別なことをしていないのにもかかわらず、ただ普通に振る舞っているだけで、異性からは人気を集めてしまう人物が、その秘訣を訊かれた際に、「いや、自分ではあまり意識したことがないから」と恐縮気味に答えるかのような、言い方にも感じられた。
「でも、謝って済むなら、それに越したことはないよ。まあ、国家間の話とかになると、国と人とは全然違うから、簡単にはいかないだろうけど。ただ、人と人との関係なら、下手に意地を張るよりも素直に謝る方がよっぽど事がスムーズに進むんじゃないかな」
「そういうものですか」
沽券にかかわる!とか言って、怒り出す人間ほど、大した価値を持っていないのかもしれないよ
「そういうものですか」と僕は繰り返してしまう。
「そうだよ」と言い切る門倉課長は、それなりに勇ましく、これはこれで恰好いい、と僕は思った。
 生き方は人それぞれで、信念があるのなら、門倉課長の生き方も立派ではないか、と。
が、猪苗代湖に着くころになると、魔法が解けたかのように、「やっぱり、あれは情けない」と我に返ってしまう。

54~55pより

「沽券にかかわる!とか言って、怒り出す人間ほど、大した価値を持っていないのかもしれないよ」という言葉が印象に残った。本当にそうなのかもしれない。沽券を意識して生きている人は、本当に面目を保つことしか考えてなくて、物事の本質を見落としてしまっている気がする。そんな人の価値は、門倉課長の言うとおり、大したことはないのかもしれない。みんなにバカにされている門倉課長だったけど、その考え方や信念は、まわりで門倉課長をバカにしている人たちよりも十分立派な気がするなぁと感じた。そんな人たちは、物事の本質を見るということがこの先もできないんだと思う。ただ、この場面で門倉課長の株を上げておいて、その直後に、やっぱりそんなことないな、というところまで書いているというのが、伊坂作品っぽさがでていて好きだった(笑)

装丁を見たとき、「アイネクライネナハトムジーク」と似ているなぁ、続編かなと思いましたが、そんなことはなくて、でもこの装丁は共にミュージシャンのTOMOVSKYさんが書いてくれたそうです。僕この絵なんか暖かさがあって好きなんですけど、皆さんはどうですか?

作品にも出てくる、起き上がり小法師は昔から欲しかったんですが、この作品を読んでさらに欲しくなりました。早く買わなきゃ(笑)

やっぱり伊坂先生の作品は好きだなと感じることができました。
次の作品も楽しみです。
ではまた次回、バイバーイ

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