コスプレイヤーさんを守る法知識について


1 はじめに

今年の8月4日~6日、愛知県名古屋市内で世界コスプレサミット2023が開催されました。来年も開催される予定で楽しみです。

8月12日、13日は、東京ビッグサイトでコミックマーケットが行われます。そこでもたくさんの方々のコスプレが盛り上がることでしょう。


コスプレイヤーさんは、最初は趣味から始まっても、たくさんの方から注目されれば、有名インフルエンサー、芸能人、アイドルその他さまざまな形で活躍をすることがあります。希望にあふれた活動だと思いますが、その反面、様々なトラブルに悩まされたりすることもあるのは事実です。

私自身は、コスプレをしたことはありませんし、コスサミもオアシス21で遠くから眺める程度のことしかありません。しかし、レイヤーさんを助けたいな、と思う気持ちは前々から強くありました。
(もう数年以上前になりますが、コスプレイヤーさんの赤裸々な悩みをつづった漫画「コンプレックスエイジ」にハマって読んでいました。)

また、レイヤーさんのコミュニティーに浸かってないないからこそ、気兼ねなく相談や依頼を受けられるんじゃないかと思います。

簡単ながら、コスプレイヤーさんに知ってもらいたい法知識をまとめましたので、ぜひご覧ください。

2 盗撮

上記のような大規模イベントの際には、いたるところで、即席の撮影会が行われることがありますが、どさくさに紛れて、通常は見られたくない身体の部位を執拗に撮影する輩がいます。
一般に、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影する等した場合は、各都道府県で定める迷惑行為防止条例違反にあたり得ます。
民事上も、当然にプライバシー権を始めとする人格権を侵害するものとして不法行為が成立し得ますから、意図的にスカートの中を撮影した者については、しかるべき法的措置を取ることが考えられます。

悩ましいのは、コスプレをした元の衣装が、露出の多い過激な衣装である場合です。アニメや映画のキャラクターを忠実に再現するためには、衣装についても妥協をすることは困難です。
ただ、そのような衣装であっても、恥ずかしい部位を接写したり、ローアングルから無断で撮影をするような行為は、違犯行為であり、違法行為となる可能性が高いです。

https://news.nicovideo.jp/watch/nw10873087?news_ref=60_60


なお、今年7月から、いわゆる「撮影罪」というものが、都道府県が定める条例ではなく、国会が定めた全国に適用される法律レベルで、法整備がされることになりました。
飛行機内の盗撮は、撮影された場所が特定できず条例違反を問いにくい、という難点を抱えており、それを念頭においた法律ではありますが、これもコスプレイヤーさんを守るための法律にもなり得ます。

レイヤーさんの気持ち的にも、盗撮した!条例違反だ!というよりも、盗撮した!盗撮罪だ!法律違反だ!と言った方が分かりやすいんじゃないかと思います。よかったら頭に入れてもらえたら嬉しいです。

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

3 個人撮影(セクハラ、殺人)

カメコさん等と個人でやり取りをして、撮影会を行うこともあるでしょう。信頼できる方ならば問題はないでしょうが、信頼できると思った人が実はそんな人だとは思わなかった、なんてことはよくあります。

また、撮影場所は密室です。間を取り持つ仲介人がいない分、マージンが取られず利益は大きいでしょうが、危険はつきものです。中には生命の危険が生じるトラブルもあります。

刑法上は、(準)強制わいせつ罪、(準)強制性交罪などはもちろん、殺人罪、傷害罪(致傷罪)もり得るでしょうが、何かあってからでは遅いです。

家族には相談できなかったとしても、リアル・ネットの友人に相談し、〇月〇日〇時~〇〇で撮影があるくらいのことは共有しておくのも手でしょう。

友人も、「そういえば撮影をしてるはずだけど連絡が取れない、何かあったのかな」と不審に思い、すぐに駆け付けることも考えられます。

なお、最近は、ヌードを想定していなかったにもかかわらず、その場の流れや金額の提示で、想定外の撮影に応じてしまうケースも見られます。いわゆる個人撮影AVです。当事者が合意の上なら問題ないだろう、という意見もありますが、合意に含まれないようなトラブル(例えば第三者に見せないことを条件で撮影に応じてもそれが流出してしまう等)が生じるのは事実です。そもそも、「真摯な」合意であるかというのは、慎重に検討しなければなりません。

あなたの大切な人生のことです。しっかりと考えて、決断をしてください。

なお、令和4年6月には、いわゆるAV新法が成立しました。
これは、誇りをもってその職業に従事している女優さんの方々を守る観点からは、賛否両論が唱えられますが、個人撮影に関しても同様に、撮影された映像が同法の定める「性行為映像制作物」に該当し、かつ、その制作公表が予定されている場合は、同法による契約の取消し、解除(※損害賠償を請求されない)をすることが考えられます。同法の適用はあり得るか、というのも頭の片隅に置いておいて良いでしょう。

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/pdf/seiritsu_joubun.pdf

4 ストーカー

コスプレイヤーさんは、男性、女性いずれの場合であっても、異性から恋愛感情を伴う応援・支援を受けることが多いです。最寄り駅での待ち伏せ等、付きまとい等を受けることもあるでしょう。

警察は、事案によりけりの部分はありますが、ストーカー事案に関しては割と敏感に、俊敏に対応をしてくれることが多いです。弁護士に相談して対応を、とするのは時間的な余裕もないでしょうから、即座に警察に相談することをおすすめします。

※「事案によりけり」と書いたのは、中には、積極的には取り扱ってくれないと思える事案もあるからです。
私の経験上、もともと交際していた男女の関係にあった、とか、別れる、復縁する、を繰り返す、というような場合は、警察も、「痴話げんかの類だろう」と思い対応してくれない場合があるのは事実です。(警察のマンパワーが足りてないというのは現実ですので、それが悪いとは直ちに言えません)
ケースバイケースの事案は多くありますので、警察、弁護士への早めの相談をおすすめします。

5 SNS上の誹謗中傷

ネットストーカーとも言えますが、コスプレ業界は、逆恨みをしたカメコさん、また嫉妬に塗れた同業者からの誹謗中傷が絶えないようです。
「あいつ無加工だとブスじゃね」「〇〇のコスをする権利はないだろ」みたいな陰口も多いと聞きますが、他人をみだらに傷つけるようなことを、本人に知られるような形で、公然と発言することは、名誉棄損であったり侮辱にあったりします。刑法上はもちろん、民事上も損害賠償の対象となります。

こちらは有名コスプレイヤーのえなこさんのお悩み。

こちらは、実際に弁護士に依頼して匿名の誹謗中傷に関して発信者情報開示を進めているコスプレイヤーのりさまるさん。有料noteですが、支援を込めて買ってみるのもいいでしょう。
弁護士業界的にも、コスプレイヤーさんは、趣味で活動する場合であっても、ご自身のコスプレに対して誇りを持っている方が多く、それなりの費用をかけてでも、しっかりと法的措置を取りたいと考える方が多い印象です。素晴らしいことだと思います。そんな方を助けられたらと思いますので、ぜひご相談に乗れたらと思います。

6 営利活動に伴う著作権上の配慮

以上、コスプレイヤーさんが悩まれるトラブルを上げさせていただきましたが、そもそも論として、これはコスプレイヤーさんに注意してもらいたいお話になります。

個人の趣味でコスプレをして、無償で撮影に応じるのは基本的には問題ありません。しかし、有償で活動をする場合は個人の趣味の範疇を超えることになります。
キャラクターに近似した衣装を作成することは元の作品の著作権者の複製権・翻案権を侵害することがあります。動画配信をすれば公衆送信権を侵害するでしょうし、白か黒かと聞かれたら、黒、と答えるケースが多いです。黙認されている、という意識はしておいて損はないでしょう。

制作者さんによっては、コスプレのガイドラインを設けていますので、確認する癖をつけておくことが大事ですね。以下、いくつか例を挙げますが、ゲームのキャラクター関連のガイドラインは割と充実しています。

※これは、ゲーム実況と似たような状況でもあります。数年以上前は、ゲーム実況は著作権侵害が前提でゲームメーカーから黙認されてきた経緯がありました。それが、実況ガイドラインが公式に出され、徐々に著作権関係の整備がされつつあるところです。

なお、これは結構話題になりましたが、ウマ娘は、たくさんの馬主さんの協力を得て実現したゲームであることから、同人はNGとされているようです。

コスプレイヤーさんがよく利用するfantiaも、第三者の著作権を侵害しないことを条件にしていますね。
https://fantia.jp/help/terms

次に、これは、事案が事案だけに任天堂も大きく動いた事案ですが、マリオの登場人物の格好に扮してカート様の乗り物を走ることができるレンタル事業を行った者に対しては、正式な訴訟が提起されました。明らかな著作権違反の事案です。


色々書かせてもらいましたが、コスプレイヤーさんが安心した活動ができることを心からお祈りします。
他方、不適切なことをする輩が現れるのは避けられないのは事実ですので、何かあったときに、お助けできればと思います。


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