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米国政策金利の到達点は5%超に

米国経済シリーズ3

 12月5日に発表されたISM非製造業景気指数が市場予想よりは、強い数字で、依然としてインフレ圧力が低下していないとの見方が支配的となり、FRBの利上げ姿勢が従来予想よりは長期間続くと見る市場参加者が増加した模様である。今回の引き締め局面における政策金利の到達点(上限)は、5%を超えるという予想が広がった。そして、2023年を通じて、FRBの引き締め姿勢は継続されるものと見られている。
 それと同時に、景気の急速かつ急激な悪化が起こるリスクが高まるとの懸念も浮上しているようだ。不況リスク増大を受け、当面、12月のFOMCを無事通過するまでは、不安定な動きになる可能性が指摘される。

事前予想を上回る経済指標

 表のように、昨日のアメリカ市場では、強い経済指標が発表されている。中でも重要指標として注目されているISM非製造業景気指数は、事前予想の53.4に対して、実績値は、56.5となった。前月の実績は、54.4であり、今回の数値は、それよりは低下すると見られていたにも関わらず、上昇している。
 これは、通常であれば、ポジティブサプライズだが、市場の受け止め方は、むしろ、ネガティブなものとなった。現在の景気が過熱気味であるために、FRBによる金融引き締めが想定以上に長く継続し、政策金利の到達点が、5%超になるとの見方が広がっている。同時に引き締め期間が長くなり、2023年中は、引き締め政策が維持されると予想する市場参加者が増えている。

市場の受け止め方

12月5日終値ベース

 政策金利の先高観を受けて、長期国債の利回りは、上昇している。2年物金利は4.4%台、10年物金利は3.6%程度まで上昇した。また、株式市場は、主要3指数とも下落している。とりわけ、ハイテク株中心のナスダックの下げが目立っていた。ナスダック上場の新興企業の中には、金利上昇の影響を比較的大きく受けてしまう企業が含まれていることが影響している。また世界的な事業展開を行っている巨大IT企業の業績予想についても、ドル高の影響に加えて、世界的な景気後退リスクを懸念している面もあろう。
実際、最近、巨大IT企業の多くが、大規模な人員整理を行っている。これまで、アメリカ経済の活況を象徴する存在であったが、最も早く業績懸念が生じているという解釈もあり得る。
 ただ、IT企業が従業員、スタッフを解雇しても、IT技術者などの人材に関しては、ほとんど切れ目なく、次の職場が見つかっているという話もある。むしろ、いままで、必要な人材を確保できなかった他業種の有力企業が、こぞって採用を強化しているという状況だということも伝わってきている。
先日の雇用統計も強い数字になっていたが、労働市場の逼迫感は、まだまだ続くという予想が多く聞かれる。労働市場が強くて、賃金上昇がハイペースで進む限り、インフレ圧力は強いままであろう。そうした意味では、アメリカ経済の過熱感は、まだ残っている。FRBの引き締め姿勢が、大きく変化することは、当面考えにくいのも事実であり、多少のペースダウンはあるものの、基調としては引き締め継続になるものと見られる。

先々のリセッションリスクは高まっている

 問題は、金融引き締めの程度と、継続期間だが、前述の通り、2023年中の政策転換の可能性は低いと見られている。そして、政策金利の到達点は、5%を超えていくとの見方が広がっている。
 ただ、そうした金融引き締めが長引き、金利も高止まりした場合、臨界点を超えた後、急速に景気が後退し、大不況になるのではないかという懸念も同時に存在している。株式市場などの反応は、まさに将来の不況リスクを織り込むものであったとも見られる。
 アメリカ国内はまだ不況に陥ってはいないが、EUなどヨーロッパ諸国は、エネルギー問題とロシア制裁の影響が重くのしかかっているため、景気後退が始まっている。
 中国もゼロコロナ政策を続けている限り、経済活動が本格的に拡大することは、基本的にないだろうと考えられる。既に深刻な影響を受けているとの見方もあるが、経済統計等の信頼性が低いため、正確な状況を把握することも難しい。透明性が確保できないために、さらに疑心暗鬼になりがちではある。最悪を想定する必要もあろうかとは思う。
 世界的な景気後退リスクが高まる中、経済政策に対する注目度は上がっている。金融政策だけでなく、財政政策の重要性も指摘される。


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