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金鉱山買収の狙いは銅鉱山取得

ニューモントによるニュークレスト・マイニング買収提案の目的

金鉱山世界最大手が第7位企業の買収を提案

 元々は、2023年2月に金生産で世界シェア第1位のアメリカ企業ニューモントが、世界第7位のオーストラリア企業ニュークレスト・マイニングに対して、買収提案を行ったものである。その際は、ニュークレスト側から、買収価格が安すぎるということで拒絶されたが、4月10日に買収価格を1割程度引き上げて、再度提案を行ったものである。
 4月の提案ベースで計算すると、買収額は2.7兆円に達する大型のM&A案件となっており、その行方が注目されている。ニュークレストは、5月中旬にも買収提案を受け入れるか否かを決定するものと見られている。これは、金鉱山としては、過去最大規模のM&Aとなる。

 表のように、売上高規模で見ると、ニューモントは、119億米ドルということで、ニュークレストの42億ドルに比べると3倍近い規模となっている。ただ、その内訳は、大きく異なっている。ニューモントの売上高の87%は金鉱山によるものであり、銅の比率は3%に過ぎない。それに対して、ニュークレストは、金が75%、銅が25%となっている。銅だけを見ると、ニュークレストの方が、ニューモントの3倍以上の売上規模となっている。

 実は、買収提案を行っているニューモント側の真の狙いは、金鉱山ではなく、銅鉱山にあるのではないかと見られている。もちろん、金鉱山についても、昨今の金価格高騰で、価値が上がっているのは事実だが、ニューモントの事業構造が、金一辺倒であることに対する、経営陣の危機感は強い。
 金相場次第で企業価値が大きく左右される構造になっている。金相場の先行きに関しては、底堅いものが予想されているが、事業としての安定性や将来性を考えると、何らかの多角化が必要だと感じているようだ。私自身は、金については、長期的に明るい見通しを持っているので、必ずしも事業ポートフォリオを多角化する必要性は高くないとも思うが、経営陣が事業の安定性や長期的な成長性を願うことも理解はできる。しかも、ニューモントの事業採算性は、決して良好とは言えない。金相場が上昇したのにも関わらず、生産コストの上昇ペースが目立っている。2022年12月期の1トロイオンス当たりの生産コストは、1,211ドルとなっており、5年前に比べると36%も上昇している。そのため、2022年12月期の同社の継続事業ベースの損益は、4億5900万ドルの赤字となっている。この状況を打破するには、低コストの金鉱山取得が欠かせないと見られる。
 金の採掘コストを劇的に引き下げるような技術的イノベーションがあれば、金事業の収益性は、改善する可能性はある。ただ、技術的に飛躍的進歩を遂げるためには、時間と資金を要するものであり、簡単な話ではない。
 また、金の採掘に関して、今後も安定的な事業が継続できるかどうかは、不透明な面はある。アメリカの地質調査所によれば、金の確認埋蔵量は、全世界合計で約5.2万トンだという。これは、現在の採掘量の16-17年分に相当する量であり、新規開発の必要性が高い。
 しかしながら、新規開発に関しては、環境保護の観点から、抵抗が強いため、なかなか進まないのも事実である。そこで、金鉱山会社としては、既存の鉱山、つまり同業他社を買収するのが、合理的選択肢ということにはなる。
 ここ近年でも、2021年のノーザン・スター・リソーシズによるサラセン・ミネラル・ホールディングスの買収(約41億ドル)や、2022年のアグニコ・イーグル・マインズによるカークランド・レイク・ゴールドの買収(約100憶ドル)といった、大型のM&Aが相次いでいる。
 今回もそうした流れの中で、より大規模な買収案件が提案されたという見方もできる。

銅の将来性は非常に高い

 しかし、今回の案件のさらに大きな目的は、銅鉱山の取得にあると見られる。銅については、用途の拡大による需要拡大が、長期的に継続する見通しがある。
 銅は、例えばEVの部品等に大量に使用されることになる。また、いわゆる再生エネルギーの送電線としての需要も大幅に拡大する可能性がある。いわゆる脱炭素化で、最も需要が伸びる資源の一つが銅ということになる。
 イギリスの調査会社ウッドマッケンジーの予想では、2040年時点の世界の銅消費量は、2022年の1.4倍に相当する3,254万トン達するとされている。銅は、産業用に使用されるため、相場は、景気に左右される面がある。その意味では、数10年単位の超長期において、非常に魅力的な存在だと解釈される。短期的には、そのときの景気見通し等によって、価格が上下することもあるが、数10年の期間で見ると、右肩上がりの価格形成が見込まれる。
 ニュークレストの本拠地であるオーストラリアは、銅の確認埋蔵量が9700万トンに達しており、チリに次いで世界第2位の規模になっている。ニュークレスト自身も、オーストラリア東部の鉱山で銅の増産を計画している。また、未開発であるが、パプアニューギニアでも有力な鉱山の開発が予定されており、計画通りに進展すれば、将来的には、現在の倍の規模での生産が見込まれている。

金と銅の将来性を判断する上でも重要な案件

 ニューモントが、今回の買収に前のめりになっているのは、金鉱山だけでなく、銅の資産価値を評価している面もあると考えられる。
 このM&Aが合意に至るのか否かという点が、金及び銅の将来性に対する評価という点でも大いに注目されている。

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