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持続可能性の具体例をこの目で確かめる(岩手県・オガール紫波)

神戸空港から仙台空港へ。そこからレンタカーで岩手県を訪れたのは2019年5月中旬のこと。

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10年ぶりに東北を訪れた目的は、東日本大震災からの復興状況をこの目で確かめたかったということと、岩手県にあるオガール紫波の空気感を現地で感じることだった。

東北旅レポは気が向いた時に書くとして、ここではこれからの人口減少社会の中における持続可能性の一つの答えと思えるオガール紫波について書いていきたい。

1.オガールプロジェクトとは

オガールプロジェクトのことは「町の未来をこの手で作る」という本を読み詳しく知った。

オガールプロジェクトは、公民連携(PPP)の先進事例と言われている。

その概要を自分なりに要約すると、

紫波町が1990年代に購入した駅前の広大な遊休地。役場は財政も厳しく、将来の改善の見通しも立たない中でその遊休地の活用法に困っていた。そこで立ち上がったのが地域(出身)の方。制度を活用して必要最小限の資金を調達し、そこに地域住民や民間の知恵と力を最大限活かすことで、住民が強く願っていた図書館などを建設しただけではなく、外部から人を呼んでくる仕掛けも作り、施設の収益だけで図書館などの公共施設の運営費を捻出

という感じだ。

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本を読んで思ったのは、地域のまちづくりに対して熱く真摯な思いを持った様々な立場の人たちが力を合わせることになった時、PPPという形になるのは必然だということ。
何となくなPPPのイメージは、例えば災害時の支援などで企業が協力するので行政と企業で協定書を締結し、企業と行政のトップがパネルの前で協定書を掲げて握手しメディアに少し取り上げられてめでたしめでたしで終わり、みたいな感じ。形が重視され、協定のその後を誰がどうやってメンテナンスしていくのかということが見えないものが多いように感じていた。
オガールプロジェクトは、順風満帆にここまできたわけではない。地域のありたい未来に思いを馳せ、その未来を実現するための覚悟を持ち、特別な熱量を放ちながら行動した人たちが、その熱で共感者を増やし、気がつけばすごいことをやっていたという感じだ。決して形から入った訳ではない、本物のPPPとはこういうものなんだと理解した。これは、制度を持って全国に一律展開できるものではなく、オガールには紫波町でしか紡ぐことのできなかったストーリーがある。
素敵なのは、オガールプロジェクトは施設が完成して終わりではなく、そこがスタートなんだと皆んなが考えていることだ。

2.この目で見て感じたオガール

仙台空港から、石巻市経由で向かった岩手県。東北自動車道を出て、美しい田園風景の中で車を走らせていると突然出現した洗練された街並み。それがオガール紫波だった。

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訪れた者全てに、押し付けがましくなく理念が伝わってくる、空間構成からサインなどの細部に至るまでのデザインの質の高さ。そこに集う人達が醸し出す自然体の空気感と幸せ感が溢れている場所、というのが第一印象。

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税金を使わないことで公共施設の持続可能性を確保している稀有な施設。オガールから醸し出される空気の気高さは、施設を作って終わりではなく、それをどうやって維持し、次の世代に伝えていくかという事がしっかりとデザインされていることに起因するのだと思う。

日本のどの場所であっても人口はこれからどんどん減少し、少子高齢化が進む中で地方自治体の財政はますます硬直化していく。そんな明白な事実の中で、税金をいかに使わずに公共施設を維持していくのかという前提で議論できているところは意外なほど少ないのが現状だ。

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オガールを訪れた日も、おそらくどこかの自治体か地方議員の視察団だろうと思われる団体が来て、職員の方からの説明を受けていた。
オガールの正しい見方は、そのまま自分の自治体でも実現できるかどうかという事ではなく、結局物事を動かすのは人の熱だよね、ということを改めて肝に命じること。そして、特別な産業があるわけでもなく、自治体として財政危機に陥っていた紫波町のような町であっても、そこに暮らす人々と共に真摯に実現したい未来と向き合い、試行錯誤しながら丁寧に歩めば、その歩みはやがてその地域の文化となって持続していくという事例から勇気をもらう事の二点ではないだろうか。
もし、高度なサービスや高規格な施設を求めてオガールに行くのであれば、がっかりするかもしれない。紫波町には、色々と見所はあるものの、派手な観光名所があるわけでも、温泉などの娯楽施設があるわけでもない。観光目的だけで紫波町を訪れるという方は少ないだろう。でも、オガールの背景にあるものと、それが示す持続可能な社会のあり方を知ろうと思えば、あの場所に行ってその空気感を感じる以上の説得力はない。空気感を感じるだけで価値がある場所だと思う。

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聖地、とも言われるオガール。聖地である理由を理解できる方にとっては、「オガールを見て死ね」的な場所であることは間違いない。また、東北旅行の際に再訪してみたい。

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3.愛の神社

訪れたまちを走ってみるということを2019年4月から始めている。オガール以外のまちの様子も見てみたくて地図をチェックしたところ、城山公園という場所が目に付いたので走りに行ってみた。

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「クマに注意」の物騒な注意書きに少しビビりつつ鬱蒼とした道を登って行くと、なんとも可愛らしい愛の神社があった。あの「愛」で有名な直江兼続や上杉謙信にも信仰された神社で、愛の聖地らしい。

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オガールに満ちていた幸せな感じは、もしかしたら歴史的にこの地のDNAとして受け継がれているものなのかもしれないとも思う。

個人的にはそれぞれの地域が持つ独自の風土というものにとても興味がある。その地域の方にとっては当たり前すぎることでもよそ者の視点から見ると興味深く、それがまちの源流として脈々と流れているものなのではないかという発見があったりするとワクワクする。旅をする時には、そのような視点で訪れた場所を見るのも楽しみにしている。

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