小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 7 原本
一行は、それから武蔵国に入り、これを北上し、下野国に至った。
武蔵野という所も、それまでになく木立が生い茂り、草原(くさはら)も豊かで、かような土地は今まで見たことが無く、また、その情趣深さが一行の者達の感興をひどく誘ったが、下野国も、那須なる原野において、武蔵野におけるものとは一味も二味も違うところが、皆の心底に強い印象を植え付けたものであった。
確か、富士の頂からも、煙りが東の方へ長々と棚引いているのが目に出来たはずであるが、那須の連山の武骨な山容のどこぞの裂け目から