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ふじはらの物語り《第二巻》陸奥(むつ) 原本

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時は平安朝(架空)。 運命の為せるわざにより出会った男と女。 そしてそれを取り巻く数多の人間群像。 愛。友情。闘争… 第二巻 藤原明国は左遷させられた。 そこで出会ういろんな背景… もっと読む
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記事一覧

小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥(むつ)》 1 原本

藤原明国(あけくに)は、北家の流れを汲み、氏の長者、すなわち、閑院左大臣を中心とする嫡流と…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 2 原本

受領階級にとって、陸奥への赴任は、実のところ栄転とも思われる。 金が採れるので。そこは。…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 3 原本

陸奥介は、今回の赴任に際し、戸惑うことなく、妻子の同伴を希望した。 妻女も、全く同様であ…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 4 原本

陸奥介が逢坂(おうさか)の関を東に越えるのは、これが初めてであった。 家族もそうであった。…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 5 原本

当初は、陸奥介のまだ四歳でしかない姫君が、この長い長い旅路に耐え得るかが、最大の懸案であ…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 6 原本

大井川を東に渡った頃より、一行の者達の最大の関心事であって、懸念であったところは、彼らが…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 7 原本

一行は、それから武蔵国に入り、これを北上し、下野国に至った。 武蔵野という所も、それまでになく木立が生い茂り、草原(くさはら)も豊かで、かような土地は今まで見たことが無く、また、その情趣深さが一行の者達の感興をひどく誘ったが、下野国も、那須なる原野において、武蔵野におけるものとは一味も二味も違うところが、皆の心底に強い印象を植え付けたものであった。 確か、富士の頂からも、煙りが東の方へ長々と棚引いているのが目に出来たはずであるが、那須の連山の武骨な山容のどこぞの裂け目から

小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 8 原本

本来、国司の最上席は、『守(かみ)』である。 そして、親王による任国は別として、守たる者が…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 9 原本

陸奥国府には、鎮守府も置かれていた。 鎮守府将軍は、文室(ふんや)氏であった。 その弟の一…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 10 原本

陸奥介は、国府で実際にその任に就く前に、国府の東向かいにある鎮守府に、文室将軍を訪ねた。…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 11 原本

陸奥介と文室将軍との初会談は、恙(つつが)なくというか、無駄なく終了した。 これを膳立てし…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 12 原本

陸奥介は、文室将軍との初めての面会を無事に終えて、その帰りしな、鎮守府の門を出るまでに、…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 13 原本

陸奥介は、一国の実質上の長として、これを統治するに当たって、幾つかの格率を意識していた。…

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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 14 原本

陸奥介は当時、政(まつりごと)の“ま”の字も念頭になかった。 彼のおぼろ気なその頃の思いとして、立身出世、つまり、位階の上での上昇、役職の累進は、彼のような者にとって、単なる通過儀礼に過ぎないというのであった。 そんな彼の心の中に、この上司の謦咳(けいがい)に接し得たことで、一本の道がうっすらと浮かび始めていた。 彼が当時において、自らこれを意識していたか、そこは何とも言えなかった。 元来、彼は余所から感化され易く、その変化を、自分としてあまり深く認識していなかったの