短歌連作「固有種」
初出:いろんなところ
いづこかの実験室に飼はるてふねむられぬため短命の蜂
雷雲の過ぎ去りてのち形而下に取り残されし龍はをらぬか
鉛は骨に蓄積しつつ十二年かけて訛りは漂泊されむ
音をもて我が語れども香りもて蓬(よもぎ)は危機を語りたるらし
手術の際にひらかるる皮膚を窓とよぶ 硝子の薔薇は茎まで硝子
そのための文字もたぬゆゑふるさとの果実は表記揺れて出回り
蛤(はまぐり)や蜆(しじみ)や蛸(たこ)ののちに知れば「蜩」の字にいまだ海見ゆ
まれに大きく揺るる地面や海面にふれたれば霧ふれざれば雲
蒸散のはげしき真夏 人類も藤も身に流体をめぐらせ
蛇口より流るる水が海水や雪たりしとて華やぐはなし
蕎麦茹でて都市ガス管の最果ての港に来るはガス積みし船
射手座、矢を放つことなく地上には花の裂開とどまり知らず
逃れゆきグリルへ入れば火を点けてゴキブリ燃ゆるらむけむり立つ
ふるさとに風葬のならはしありき 街とは雨の轍にすぎぬ
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