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バスティアン・ハイン『ナチ親衛隊(SS):「政治的エリート」たちの歴史と犯罪』(2024[2015])

ナチ親衛隊の概説書。
親衛隊の全期間+全側面について、近年の研究動向も踏まえてざっくり知ることができる本、と思う。

類書だと武装親衛隊特化だったり、戦中の話特化だったりするので、へ~って思う話が多くてとても勉強になった。
特に戦後の元親衛隊員の話に1章が割かれているのがよい。

目次は以下の通り。

まえがき——ナチ親衛隊とは(芝健介)
第1章 闘争組織の目立たぬ発足——1923〜29年
第2章 ナチの中での特別意識——1929〜33年
第3章 「黒色軍団」の人材とイデオロギー
第4章 警察組織の併呑——ナチ国家防衛の使命
第5章 第二次世界大戦下の膨張——1939年〜45年
第6章 戦後ドイツ社会と親衛隊——1945年〜
訳者あとがき(若林美佐知)
解題+ナチ親衛隊研究の軌跡(芝健介)

目次

見てわかる通り、斯界の権威の芝健介先生の解題+ざっくり研究史付きなのが大変お得。
むかしミリタリー雑誌とかで刷り込まれた親衛隊観の、どのへんがobsoleteなのかとかが分かってためになる。

だいたい以上が、どういう本かとセールスポイントの紹介。
以下、個人的に面白かった部分のメモ。


p.17。「ナチのエリート部隊」っていうヒムラーその他の自己神話化に反して、33年~34年くらいまでは組織的にもやってることもほぼSAと渾然一体だった。

pp.23-5。ヒムラーの「4つの資質」。1.優れた組織者;2.実は部下の面倒見がめっちゃいい;3.ヒトラー同様の二重性格。すなわち、ナチ世界観への狂信と、時と場合に応じてそれを隠せる政治的嗅覚;4.誰からもナメられていたことが逆説的にナチ内権力闘争で優位に作用。

p.28。ワイマール期のナチも、多頭で相争うカオスさは政権獲得後同様(否、ヒトラー権威が盤石じゃないからそれよりヒドい)。親衛隊は30年夏のシュテンネスの党内叛乱鎮圧でのし上がる。

pp.37-9。ヒムラーに影響を与えた理論家たち。ダレ経由の影響大。

pp.50-4。入隊に当たっての人種要件の厳格化とその現実。政権獲得後、ナチ内で最もガチで「北方人種」の選別をやっていたが、古参隊員についてはザルだし、35年あたりにはヒムラーもあきらめてユーゲント囲い込みに舵を切った。

pp.55-7。隊員たちの出身階層とか。「エリート集団」という自己宣伝に反して、大卒者が多少多い程度でそんな実態はナシ。特筆すべきは、ワイマール期の街頭行動から受け継がれた暴力指向で、暴力的で酒癖悪い隊員というのが明らかに多かった。

pp.71-9。異教趣味とキリスト教関係について。異教っぽいことを実際やっていたが、教会政策の邪魔に感じたヒトラーに怒られて尻すぼみに。

p.79。アーネンエルベ協会。

Ch.4(pp.88-114)は、SSがドイツ国全体の警察権力を握るに至るまでの話。アイケを人格的象徴とする収容所体制と、ハイドリヒの秘密警察(SD)。この二本柱で、フリックの内務省から30年代を通して徐々に警察権力を奪っていった。その流れを、組織的変遷(ゲシュタポができたり、国家保安本部ができたり)と織り交ぜながら解説。めっちゃ勉強になる。

p.107。アイヒマン自己弁護の「机上の犯罪者」論には非常に注意が必要で、多数の親衛隊員が強固なナチ・イデオロギーを確信し、アインザッツグルッペン等で現場に出て「実践」していたことを認識する必要がある。

p.113。アイケによる収容所体制確立の後、30年代末からのO・ポールによる収容所の組織化・経営体化も重要。

Ch.5は武装親衛隊や戦中の話。

Ch.6は戦後社会における元SS、みたいな話や、戦後の研究史。アレントのアイヒマン論に、実証史学から反論が出た等々。


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