num_ami_dabutz

南無さんは死なんよ、何度でも蘇るさ。

num_ami_dabutz

南無さんは死なんよ、何度でも蘇るさ。

マガジン

  • 連続ブログ小説「南無さん」

    あなたが深淵を覗くとき、深淵もまたあなたを覗いている。

最近の記事

連続ブログ小説「南無さん」第十四話

陰茎! 怒張! 陰茎! 怒張! 聖蹟桜ヶ丘の夜に奇声が響くようになったのは木枯らし一号が吹き渡ったころであっただろうか。皆人が恐れをなしてその奇声の正体を探ることもできなかったのは致し方ないにせよ、かといって官憲へ通報することもできなかったのは昨今の住民意識の低下と見て取るべきであろう。 そういう日常の隙を突いて南無さんは現れるのである。 陰茎! 怒張! 怒張陰茎! 彼が発している言葉には特に意味はなかった。修二と昭。傲慢と偏見。陰茎と怒張。この場合彼の陰茎が怒張して

    • 連続ブログ小説「南無さん」第十三話(後編)

      https://note.com/num_ami_dabutz/n/n02d0de7aae9c (承前) 唐土より偉いお坊様が来るのだということで、なにやら都は騒がしい日が続いている。隠居風情とはいえ、清魔羅は今もなお耳聡い。その僧正についてはひと月も前から知人らの口吻にたびたび上っていたため、何くれとなく知っている。 というのも実は、当の僧正が港へ着いたのがふた月も前のことなのだ。なんでも、都へ至るまで車を使わず、徒歩で道々説法をされながらのたりのたりと牛の歩みで参ら

      • 連続ブログ小説「南無さん」第十三話(前編)

        尿道の分裂が始まったのは、今よりおよそ1000年ほど前と伝わる。というのも、これまでその経緯は口伝に頼ってしか伝わってこなかったため、現代に至るまでに種々様々、宗門によって脚色され枝分かれしており、もはや史実の原型を明らかにすることはできなかったのだ。現在主流である表千摺家と裏千摺家の示すものはその門徒拡大のため活字となって久しくして世人の多く知るところではあるが、あくまで伝説の域を出ない。 ただ1000年前にも記録はある。 もっともそのころは尿道という名前もなく、ただ尿

        • 連続ブログ小説「南無さん」第十二話

           カチャーン。という音が屋敷中に響き渡り、庭で囀っていた雀にもこれは聞こえたらしい。彼らは驚いて塀の上へ飛び上がった。  しかし、南無さんの家には割れそうなものはもうないはずである。というのもすでに、いずれの茶碗も南無さんが己の雁首にひっかけてぐるぐる回しているうちに戸外へ飛び出して行って、待てど暮らせどひとかけらも帰ってこなかった経緯があるからだ。  カチャーン。カチャーン。  では何の音かと問われれば、畳に座す南無さんの姿を見ればこれは一目瞭然である。南無さんは間の

        連続ブログ小説「南無さん」第十四話

        マガジン

        • 連続ブログ小説「南無さん」
          15本

        記事

          連続ブログ小説「南無さん」第十一話

           両の乳首から抜け落ちずに伸び続けた一本ずつの長い長い乳毛を胸骨のあたりで蝶々結びにして愛でていた南無さんが、往来でつまずいた拍子にすべてを無に帰してからすでに一月が経った。南無さんは己が蝶よ花よと育て上げた乳毛が道半ばにして千切れてしまったことでショックのあまりその場に倒れこんだままその月日を過ごしていたのであるが(道半ばとは言うが終にはどこへ向かおうとしていたのかは南無さんのみぞ知ることである)、蝶々乳毛は南無さんの両の乳首を離れる際にその毛根を連れ立っていったため、往来

          連続ブログ小説「南無さん」第十一話

          連続ブログ小説「南無さん」第十話

           陰毛散らしと残尿さらいが犬猿の仲であるのは、この界隈ではもはや語るに及ばざる事実である。とはいえ、いざ目の前で争われると、かくも厄介なものかと南無さんは嘆息した。  紫陽花がぽんぽんと花開き、南無さん宅の庭を赤紫に彩るころ(南無さんの尿酸をたっぷり吸った土壌で育ったのだ、無理もない)、雨上がりに陰毛散らしが例の回収にやってきた。ごめんください、回収です、と敷居をまたいだときから、南無さんはすでに玄関先で一糸まとわず待機している。小汚く伸び散らかした南無さんの股間の毛を一瞥

          連続ブログ小説「南無さん」第十話

          連続ブログ小説「南無さん」第九話

           師走、雪。静まり返った山中の境内に、ただひとつ響く音がある。  パアン、パアン、と数秒ごと、空を割るがごとき破裂音。草木を震わせ禽獣を目覚ますその音は日の出とともに始まり、鳴り続くことすでに一刻あまりが経とうとしていた。  先頃、麓の本寺での行を終えた僧が、末寺であるところの山中へ務めに参り上がろうとしたところ、やはりこの音に気がついた。  はて、一度は杣人の何ぞ生業と思ったけれども、木こりにしては時季外れ、火縄を撃つには頻りにすぎる。賊に盗られる物もなし、さては流れ

          連続ブログ小説「南無さん」第九話

          連続ブログ小説「南無さん」第八話

           平生から長らく近所の公園で用を足していた南無さんが、官憲の手によってそのところを追放されて久しい。  いかに用を足し習わしたかわやが無くなったとはいえ、往来で放尿することの不届きさを奇跡的に解していた南無さんは、そのころから致し方なく自邸の垣根へ用を足し続けていた。  黄金色の打ち水は今日も垣根のシキミを濡らし、葉は水を弾いて玉の輝きを放っていた。ようようと登り始めた朝日に、飛沫がキラキラとまばゆく光る。  垣根にやってきた雀と問答をしていた南無さんがふと目を下ろすと

          連続ブログ小説「南無さん」第八話

          連続ブログ小説「南無さん」第七話

          時は平成、世は太平。 アスファルトは熱射を照り返し、南国もかくやとばかりに往来人の肌を焼く。 さながら地獄の様相で沸き立つ陽炎の奥、ビルの影から一糸とまとわぬその身をゆらりぬるりと現したるは、南無さんである。夏なので時流に合わせ、クールビズだ。 さて、かような日照りに半袖を選ぶ人間が多い中、なんの故にか暑苦しく胸元を締め、そのうえ上着まで羽織った黒装束の若者の姿を、さきほどから南無さんは目にしていた。 暑かろう、と南無さんは思う。 心頭を滅却すれば火もまた涼しという

          連続ブログ小説「南無さん」第七話

          連続ブログ小説「南無さん」第六話

          ついに渾身の我を世に晒す時がやってきたようだ。南無さんは回覧板の文字を見てそう解釈した。 そこに書かれていたのは英語らしかったが、なにぶん南無さんは義務教育を放逐された身である。横文字が読めなくて当然だ。南無さんの識字はサンスクリットで止まっていた。 どうにかヘボン式で読むことはできたが、南無さんにはどうにも聞いたことのない言葉だったので、より近い自らの理解が及ぶ言葉に変換することにした。 記憶の深層に染み付いた言葉は、その者の生涯で折に触れて目の前に影を現すものである

          連続ブログ小説「南無さん」第六話

          連続ブログ小説「南無さん」第五話

          秋は夕暮れ。弓なりになって雄叫びを上げた南無さんは、フッと糸が切れたように後ろへ倒れこむと、やがて静かに射精した。 寝転がっていると、公園の芝生が背中をちくちくとくすぐるようで、それが気持ちよくて、南無さんは二度目には勃起もせずにサラリと流し出した。さながら乳白色の泉が湧いて出たようである。 山に帰るカラスの一羽が、通りざまに糞を落としていった。南無さんの少し手前より投下されたそれは、慣性にしたがって南無さんのヘソへ飛来、着床した。 自分の体から出たものと同じく白いソレ

          連続ブログ小説「南無さん」第五話

          連続ブログ小説「南無さん」第四話

          春はうららか、南無さんの朝は起き抜けの放尿から始まる。 寝床からかわやへ向かう間に、申し訳程度に身につけていた布はすでに脱ぎ捨てられている。生まれたままの姿で放たれる黄金色の水は、ジョボジョボと深淵の闇へ吸い込まれていった。一糸乱れぬ大放尿。梵我はここに一如である。 日課を終え、南無さんはかわやを後にする。その表情は穏やかでありながら、澄み切った鋭さをもたたえていた。 残尿はない。陰茎を振るうなどの女々しい行為は、南無さんにとって必要なかった。 南無さんが己の陰茎を手

          連続ブログ小説「南無さん」第四話

          連続ブログ小説「南無さん」第三話

          バシッ! と、空をはじく音があたりにこだまする。 乾坤一擲、放たれた南無さんの一撃は空を裂き、彼方へと飛来。日本列島を上空より俯瞰したのち、遠く琵琶湖へ着床した。 フゥ、いまのは、なかなかの抜き手だった。 自身でも頷くほどの、勢いのある射精。 標高3,776米、富士山剣ヶ峰。吹きすさぶ烈風に身を晒しながら、南無さんの体からは汗が吹き出し、湯気が立ち上った。どれほどのカロリーを消費したのだろうか。しかしなお、南無さんの顔には、疲労を覆うほどの精気が満ち満ちている。 ヤ

          連続ブログ小説「南無さん」第三話

          連続ブログ小説「南無さん」第二話

          ひどく冴えた冬の朝のことである。南無さんの体に異変が起きた。 すなわち、徐波睡眠下における下腹部海綿体への過剰送血、いわゆる朝起ちである。 これを必定、生命の危機と感じた南無さんは、取るもの取り敢えず、穿くもの穿き敢えず、枕を引っ掴むや否や、キラキラとカウパーの尾を引きながら、家を飛び出してしまったのだった。 全裸の南無さんを見かねたのか、道行く青年がこれに声をかけた。 おいおい、あんた、そんな格好でどこへ行くんだい。ここは天下の往来だ。人目もあろうに、ちょっとこちら

          連続ブログ小説「南無さん」第二話

          連続ブログ小説「南無さん」第一話

          南無さん、南無さん。 白昼往来、己を呼ぶ声に南無さんが振り返ると、そこには一人のTENGAが立っていた。南無さんはこれに何用かと尋ねる。 南無さん、いまあなた、いやらしいことを考えていた。そうでしょう。そこでゼヒ、ぜひわたしを使ってもらいたい。いかがだろうか。 南無さんはこの手の押し売りには慣れていたので、社交辞令としてTENGAをひと撫でふた撫でぐらいしてから、やっぱりいいよ、今日は気分じゃあないんだ。などと言ってTENGAを退けた。そうですか、ではまた、いずれ。とぼ

          連続ブログ小説「南無さん」第一話