見出し画像

#38 『LIFE SPAN - 老いなき世界』を読んでみて

こんにちは。なびです。

突然ですがみなさん、「老化」がなくなると言われたらどう思いますか?

ポジティブに感じますか?それとも、ネガティブに感じますか?

人生を長く過ごせるようになって素晴らしいことだと思いますか?それとも、自然の摂理に反していてなんか怖いって思いますか?

人生100年時代と言われてから久しく、人生が長くなることでやりたいことや挑戦できる時間が増える一方で、ただ老後が長くなり不安に思うこともあるでしょう。今回紹介する本は、そんな人生100年時代と呼ばれるにあたり、「人類は自身の寿命を操る術を手に入れた」と紹介する驚愕の事実を提供してくれる本です。これを読めば、現在医学的かつ生物学的に行われている「寿命」「老化」についての最新の知見が手に入ります。


【読んだ本】『LIFE SPAN - 老いなき世界』
【著者 / 訳者】デビット・A・シンクレア, マシュー・D・ラプラント / 梶山 あゆみ
【発行所】東洋経済新報社
【初版】2020年9月16日

本書はハーバード大学医学大学院で遺伝学の教授を務める著者が、自身の研究テーマである老化の原因や若返りについて科学的な説明と最新のトピックを紹介しています。加えて、「老化」を克服しうる将来の人生観や倫理観など、より「一般化」した話題についても触れています。

「老化」とは一体何なのか、そしてそれが克服できた時に、人間はいったいどのようにアップデートされるのか。そんな少し未来のお話に興味があれば、是非とも読んでみてください。

本書の目次

はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気

第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬
第6章 若く健康な未来への躍進
第7章 医療におけるイノベーション

第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来

おわりに――世界を変える勇気をもとう


ーーなぜ読もうと思ったか

一言で言ってしまえばジャケ買いですw

前評判もなしに単純に面白そうだから買ってみました。もともとこういう科学的な本は好きだったのと人間が平等に経験するであろう「老い」というものが「なくなる!」って一体どういうことなのか、ということも知りたいと思ったという感じです。まあ、純粋な知識欲ですね。

ーーどんなことが書いてある?

先に述べちゃいましたが、改めて書くと、この本は「老化」に関する現在までの研究結果や「老化」を克服する可能性が見いだせたこと、さらには克服した後の世界線について語られています。著者が医学大学院の教授ということもあり、内容は研究に関することが多い印象です。

そのため、専門用語が頻出しているため読解にはやや時間がかかりました。「サーチュイン」「エピゲノム」「AMPK増強分子」などなど所見の単語が数多く出てきます。

しかし、専門用語の説明は本文中で丁寧にされていますし、巻末の付録に専門用語の詳細な説明が書かれているので、予備知識は特に不要かと思います。まあでも見慣れない言葉が乱立してくるので読むのはけっこう大変でした。。

本書は大きく3部構成となっています。本書では以下のようにまとめられています。

【第1部】私たちは何を知っているのか(過去)
なぜ老化という現象が生物に備わったのかについて新たな視点から斬り込み、それが私のいう「老化の情報理論(Information Theory of Aging)」でどう説明できるかを見ていく。また、どうして私が老化を「病気」だと、しかも最もありふれた病気だと捉えるようになったのかを解説するとともに、それを積極的に治療することがたんに できるだけでなく、そうすべきであることも示していく。

第1部では、これまでの研究結果を通じて実現できること実現できそうなことが語られています。

【第2部】私たちは何を学びつつあるのか(現在)
今あるような老化に終止符を打つ ために、すぐにでもできる対処法や、現在開発中の新しい医学療法を紹介する。これらを用いれば、老化を遅らせ、食い止め、あるいは逆転させるのも夢ではない。

第2部では、第1部で語られた研究結果をもとに「老化」に対する対処法や医学療法を紹介しつつ「今からできること」を紹介しています。

【第3部】私たちはどこに行くのか(未来)
実際に老化を治療できたら未来がどうなりそうなのかを、様々な角度から考察していきたい。同時に、私たちが楽しみに待てるような世界を築くにはどうすればいいのかも提案する。つまり、ただの寿命ではなく健康寿命が延びて、病気や体の不自由に苦しむことなく長く暮らせる世界だ。

第3部では、老化が治療できた未来における考察として、我々人類がどのように過ごしていくべきか、ということについて考察しています。前2部と比べて若干哲学的な話も含んでいきます。

ーー印象に残ったこと

この本の主題にもなりますが、この言葉が非常に印象的でした。(実は上でもう述べられちゃっていますが。。)

老化は 1 個の病気である。
私はそう確信している。
その病気は治療可能であり、私たちが生きているあいだに治せるようになると信じている。

「老化」は「病気」と捉えており、それは「治せる」というのです。この提言を受けて私は「老化」というものがなんか一気に身近な問題に感じられました。「老化」とは誰しもが平等に仕方なく経験するもの。時間によって支配されるもの。この世における普遍の真理の一つみたいな高尚なものみたいな奉り方してたんですけど、「病気」ってなるとすごく身近に。てか「治す」だなんて想像すらしなかったけど!みたいな感じですw

「病気」に対する印象は人それぞれで、それによってこの提言の捉え方も変わってきそうですが、皆さんはいかがでしょうか。

別軸で「老化」を「病気」とするということは医学界では挑戦的なことなんでしょうかね。現役のお医者さんの意見も聞いてみたいところです。

著者は本書を通じて「老化」は「病気」であるという説を一貫して主張しており、その理由を医学的なアプローチで解明しようとしています。具体的な内容はぜひとも本書で。と言いたいところですが、せっかくなので超簡単に紹介すると、

老化の原因はDNAが損傷することと、それに伴って遺伝物質が失われること。
DNAの損傷は「生きていること」で発生する。
有害な化学物質や放射線と言った外的要因や正常なDNA複製プロセスでも損傷の原因になる。
DNAが損傷することでエピゲノム(どの遺伝子を使うか使わないかを取り決めるスイッチ的な役割)が混乱する。
エピゲノムが混乱すると細胞が正常に機能しなくなり、混乱状態に陥る。(アイデンティティが喪失する、という表現が使われている)
混乱状態に陥っている状態を具現化したものを「老化」と呼んでいる。

どうでしょうか?今まで概念レベルでしか認識できなかった「老化」というものが「原因」や「プロセス」があって発生していることが指摘されると、一気に身近になる気がしませんか?(私だけでしょうか。。笑)

加えて、「老化」はどうやって治すのかというと、

著者が研究対象としている「サーチュイン」と呼ばれる遺伝子はDNA修復を調節している。
他にも成長や代謝を調節する役割を持つ「TOR(ラパマイシン標的タンパク質)」や、酵素を作る「AMPK( AMP 活性化プロテインキナーゼ)」と呼ばれる遺伝子が着目されている。
マウスによる実験はすでになされており、期待通りの結果が得られている。
これらの仕組みをコントロールできるようになれば、老化の修復はもちろんのこと若返りも実現できるとされている。

もはやSFの世界ですね。。。遺伝子操作で「老化」を修復し、若返りまで実現できるという。。この世の話かどうかちょっと信じられないくらいですが、研究ではそこまで進んでいるようです。

ここまでの理論を「老化の情報理論」という言葉で表現されています。老化というものが一つの情報として取り扱われており、その情報の伝達や欠落が老化というものに表現されているという。まあなんかいろいろ難しいので、そのへんは是非とも本書を読んでみてください笑


印象に残ったことをもう一つ。「老化」を遅らせるために「今できること」を研究者目線で紹介されている、ということです。老化は病気である、病気は治すことができる。すなわち、老化は治すことができる、というのが著者の見解で、本書には治すためのヒントとなる項目をまとめています。具体的にどういうことかというと、

・食事
→野菜や豆類、穀物を多く取り、肉や乳製品、砂糖を控える
 カロリー制限や断続的断食

・運動
→高強度インターバルトレーニング(HIIT)が理想

・環境
→あえて寒さを感じるようにする(冬にTシャツ一枚でボストン。。)
 寒い中で運動したり、眠る時には毛布を使わない、など。

色々と書きましたが、これらに共通していることとしては身体にある程度負荷を与えるということです。専門用語でいうとホルミシス効果と言ったりするそうですが、こうすることによって人間の原初に備わっているサバイバル回路を動かすことができ、結果長寿遺伝子が活発になるということのようです。

もちろん、負荷が大きすぎると身体に負担がかかるので逆効果につながるとの指摘があるので、バランスが大事と言います。まあそのバランスが難しそうですが、、、

また、もう少しSFチックな話になると老化に直接効く薬(セノリティクスと呼ばれている)が開発されていると著者は述べています。もうなんか怖いですね笑。

この薬はどのような作用をもたらすのかというと、正常に機能しなくなった細胞を除去します。前述したとおり、老化の原因はDNAの損傷により正常に機能しなくなった細胞(老化細胞)であると述べています。そこで原因である細胞を直接除去することで老化の抑制、さらには若返りを実現しようというのです。まさか、そんなことできるわけがない、と思う人もいるかも知れませんが、マウスによる実証実験は成功しているようで、効果には期待されているそうです。


ーー本書を読んで

「老化」といった誰しもが平等に経験する普遍の原理と思っていましたが、その認識を大きく崩される、そんな本でした。「老化」は「病気」である、という著者の主張が数多くの実験や医学的示唆を根拠に語られている本書は知的好奇心を大きく刺激し、将来の医療に対して明るい未来が期待できる、そんな内容でした。

ただ、人類の老化を抑制し結果として寿命が伸びることになれば、あらゆる人が喜ぶことかというとそうではないと思います。むしろ、不安や心配を助長するケースが増えるかもしれません。

例えば。

寿命が伸びることで、日本で言う年金システムがより危ぶまれるのではないか、定年がさらに伸び企業や組織には高齢者がより長い時期まで居座るようになるのではないか、人々の貧富の差をさらに押し広げてしまうことになるのではないか、など。

単に寿命を伸ばして「人類皆幸せ!」といった単純な話ではないことは皆さんご想像の通りです。著者もこのようなことは危惧しており、本書の第3部に老化を克服した未来について様々な視点で書かれています。

科学技術の発展とそれに伴う社会のアップデート。老化研究によらず、どの基礎研究でも直面するテーマだと思います。未来の話なので仮説ベースでの展開のため、著者の意識バイアスがありますが、是非ともその目で読んでほしい内容です。


いかがだったでしょうか。今回紹介した本は内容がキャッチーではあるものの、専門用語が多数登場し、話の流れも比較的難しくまとめるのがやや大変でした笑。ただ内容はとてもおもしろいので興味を持っていただけたら幸いです。

いつも読んでいただきありがとうございます。
それでは!

TOP画像:Vladimir Soares on Unsplash

この記事が参加している募集

推薦図書

いつも記事を読んでいただきありがとうございます! 私がもっと頑張れるためにはあなたのサポートは非常に強力です。noteでもっと記事書いてほしい!と思ってくれるのであれば、ぜひともサポートお願いします