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氷づけの娘に恋する鬼4(切り絵)

………

………春香、何故…?
何故、私以外の奴と…体を交えた……?
私はすぐにお前の異変に気づいたぞ。

春香の生気の中に突然感じた、恐怖に慄く生気…!
妖魔に襲われたか!?と春香を助けにむかった。

私はいつでもどこでも春香の生気を感じることが出来る。
妖魔は愛する人の生気に敏感だ。
生気に異変を感じればすぐに助けに向かうことが可能だからだ。

助けに向かう途中で春香の生気にまた異変を感じた。


…恐怖からだんだんと変わっていく春香の高揚した…淫らな生気…。


な…なんだ?春香の生気が再び変わっていっているぞ…?
何か、こ、これは…"誰か"の生気か…?
そんな、まさか…、しかし何かが混じっていっている…?

体を交えている…!?
…!…もしかしたら無理矢理……
急いで向かわねば!


"誰か"の生気を確実に感じることは出来ないが、春香の生気に何かが混ざり、いつもの春香の生気でなくなっていっていることは確かだった。




だが、……私はその場で足を止めて助けに向かうのをやめてしまっていた。

春香の生気の中に混じっていっていた何か…?
いや、…"誰か"の生気を、春香が受け入れてしまったから…。


恐怖はなくなり、今はただ快楽に溺れている春香。

こ、こんな春香の生気、感じたくない!!


そして…、何だ…この憐れみの生気は…?
哀しみの中にある慈しむ生気は……?
"誰か"を想っているのか…?


無理やり、抱かれているのでは…ない…?

そしてそれを意味するのは…。


春香を信じたかった…いや、春香が私以外の奴と交わっている姿を見たくなかっただけかもしれん…。




………ポタッ、ポタッ、と血が滴りおちる。

セツの噛みしめている唇…、爪がくいこみブルブルと震わせている両手の拳……。


お前の生気に"私以外の誰か"が混じっていくことに、そんな春香の生気を感じたくなかったが、心から深く愛しているからこそ意識をそむけることが出来ない……。

私はその場から動けず、ただ呆然とお前が果ててしまうまで見届けるしかなかった。



そして、異変を感じた次の日の朝、お前に会って、その異変は確信に変わった。

春香の体から香る、昨日感じた別の誰かの生気…。
感じたくもない、お前の下腹部から感じた生々しい香り…。

約束をしていたのに…。

春香が、私に会うために、私のところへ向かってきていたことはすぐ気づいた。

いつもの春香の生気でなくなっており、そしてその生気から後悔や自責、私への愛を感じる…。
私に、悪いと思っているのか…!


いつも私からの身体の契りを断るときに、微かに感じていた…、決して理由を言わない春香の生気の中にあった…自責の生気…。


昨夜、お前を抱いた"誰か"が関係しているのか…?
私を愛しているのなら、理由を話して欲しい。

しかし春香は、私以外の奴と体を交えたことを言わなかった。

…いや、何か事情があったはずなんだ!
お前は、その事情も私と身体の契りが出来ない、
本当の理由も言ってくれなかった。

本当の理由があると…信じたい…。


こんなにも愛しているのに。
何故、私に打ち明けてくれないんだ!?


あぁ!春香を抱いた奴が憎らしい…。
見つけ出して、そいつから何か聞き出してやる!
理由しだいでは……殺してやる…!



セツは、春香を氷づけにした後すぐに洞窟から飛び出し、氷づけの春香が他の妖魔達から襲われないように、洞窟の入り口に結界をはった。

そして、春香の体から感じた"誰か"の生気…違和感な生気をたどり、向かっていた。


くっ…春香以外の生気など意識したくない…反吐が出る……しかし、昨夜のあの場所へ向かわねばならん…。

こんなことで、初めて春香の里へ向かわねばならないとは。





………初めて春香と会った時、森の中で迷子になっていた、お前はうずくまって泣きじゃくっていたな。


ここでとれる木の実が美味しいと、たまたま妖魔の動物達の話で知り、人間を怖がらせないようにあまり人里近くの森には行かないようにしていたが、美味しい木の実を食べてみたくて、私は初めてこの森に来ていた。

着いてそうそう、泣きじゃくる幼子の声が聞こえ、

『おい、そこの幼子よ何故、泣いている?困り事なら助けてやるぞ。』

と思わず声をかけた私を見て怯えるかと思いきや、


『…!?…わぁ、何て綺麗な人なの!』

と涙もとまり目を輝かせながら私に言ったな。

『いや、私は妖魔だが…。雪女の妖魔だ。』

『妖魔…!?…私を…喰らう?わ、私、甘菓子ばかり食べてるから不味いです!お腹壊しちゃうかも?……食べない方が良いですよ…?』

と上目遣いで言うその姿が、たまらなく可愛かった。


『……!!…ハハハッ!甘菓子ばかり食べてるのか?ならお前はさぞかし甘くて美味しいのだろう?
しかし、私は喰わんよ、…私はな。…お前、可愛いな!名前は何と言う?』


『??…私、春香と言います…迷子になっちゃって。……人を喰わないの!?』

『妖魔にも、人を喰う奴と喰わない奴といるのだ。どれ、人里近くまで送って行こう。』

私と手を繋いで歩きだし、お前はずっと不思議そうに私をじっと見上げ見つめていたな。

森を抜け出し、人里に繋がる道に連れて行こうとしたが、

『ここからは分かります、ありがとう!雪女さん!』

『大丈夫か?』

『はい、大丈夫です!あ、あのお名前、聞いても良いですか?』

『いいぞ。私の名前は、セツだ。お前は?』

『私は、春香です。セツ様……また会えますか?』

『!、また会おう!』

『やったー!』

私も、また春香に会いたいと思っていたから、いつでも何処でも、春香がどこにいるのか分かるよう、もし妖魔に襲われたときは、春香の生気の中の焦りや恐怖ですぐ異変を察知し助けに行けるよう、手を繋いでいる間に密かに、春香の生気を感じていた。

甘菓子のように、甘く、そして春の香を感じる生気



『春香、また先程の森に来れば、私は必ず会いに行くぞ。』

『はい!…あっ!次に会う時は、兄さ……』
(兄様も連れて、優しい妖魔もいるって教えたいけど…抜け出したことバレちゃうよね?怒られる…よね…?)


『ん?』

『……いえ、次に会えるの楽しみにしてます!!』


『あぁ、私もだ!!』

(セツ様には妖魔嫌いな兄様がいるって知られたく…ないかも?嫌われちゃう…かな…?)

春香が何かポツリと言ったが、心躍り浮かれていたセツには聞こえていなかった…。



それから会う回数が増えるたびに、春香が私に何か隠したいことがあるんだなと分かってきた。


春香から、人里に近い森よりも人目につかない場所で会いたい、はやく帰れる場所が良い、自分の住んでいる里や都には決して来ないで欲しい…。と話され承諾した。

春香が隠しておきたいことがあるなら、無理に聞き出すことはしなかった。いつか春香から話してくれるまで待つことにしていた。

だから、人目につかないあの洞窟を見つけだしたし、お前の生気を感じれる私は、いつでもお前のいるところに行けたが、春香は住んでいる場所を知られたくなさそうだったから、その力で春香の居場所が分かることをあえて言わず、春香が私に会いに来てくれた時は、生気をたよりに春香を迎えに行くが、毎回、動物達や鳥が知らせてくれるようにしていると話した。


……春香を不安にさせたくなかった。
私からいつも見張られていると思われたくなかったのもある…。

だからといって、春香の生気を感じないようにするのは出来なかった…感じずにはいられなかった…私はすでに恋していたから…。

初めて会ったあの日から、恋に落ちていたのだ。
愛しい春香…愛さずにはいられない。



そして、月日が経ち、私から愛の告白…口づけをし、春香も私を受け入れてくれて恋仲となった。

……が、それからいつまでたっても、身体の契りをかわせず、理由も聞けず大喧嘩をしてしまった。
初めて春香を氷づけにしてしまい、たった数日だったが、その数日間後に術を解いた日…お前はかなり焦っていたな。
いつも帰る時間を気にしていたが、その日の焦り方は尋常じゃなかった。

後日、仲直り出来たが、それでもやはり身体の契りが出来ない理由を言ってくれなかった…。



結局、今日に至るまで、身体の契りを断る理由を教えてくれなかったが、私以外と体を交えないと約束してくれたから……。

春香も私もお互い約束を守っていたし、何より春香を信じていた。

しかし、今回ばかりは…私も約束を破るぞ、春香。


春香、お前が住んでいる里に行く……。


お前を抱いたであろう"誰か"の生気が…、

…甘菓子のように甘くそしてあたたかな春の香を感じる生気に混じってしまった苦く…黒く冷たい冬の生気が……

お前がいつも帰って行く里から感じるのだから…!






たどり着いた里は、里とはいえないほど荒れていた。たくさんの家屋が壊れていて、そのままになっており、人が住めそうな家屋が一つだけたっていた。

"誰か"の生気は、その家屋から感じる…。


……この荒れ方…この里は、まさか…。
数十年前に妖魔達が襲って、全滅させられた人里…?
人里を襲った妖魔達も不可解な死をとげ、全滅したと、妖魔達の間で噂になった。
確か、その里に住む妖魔を倒す力を持つ坊主達やその家族が皆殺しにされたと……。


……春香は、この里の生き残り…?
では、春香と体を交えた"誰か"とは……



『……雪女様が、こんな荒れた人里まで何のご用かな?』


少しの間だが考えこんでしまい、生気を感じるための集中力が途切れていたセツは、ふいに背後から声をかけられ、慌てて振り返った。

先程まであの家屋から感じていた生気の持ち主の
"誰か"が、急に背後に立っていたものだから心臓がドッドッドッと波打っている。


『お前…いつの間に。いや、そんな事より単刀直入に聞く。お前は春香とどんな関係だ?春香の何なんだ!?私は春香を誰よりも愛している。理由次第ではお前を殺す!』

『…!…そうか、貴様が……灰音が言っていた…。今まで俺の居留守の間に、俺の言いつけを破り家を抜け出し、こっそり会いに行っていた……春香が恋しているセツという雪女の妖魔か…。
何故、そんなに怒っておる?』

『…しらばっくれんな!質問に答えろ!』


『ふっ…。……俺は春香の実兄だ。』


怒りで声を荒げるセツとは対照的に、質問を投げかけられている男は、左手を口に添え、少し笑みを浮かべながら淡々と答えた。


『なっ!?…お…お前…実の妹と体を交えたのか!?実の妹に手を出したのか…!?』

…春香に兄がいたのか……

『?…何故、貴様がその事を知っている?
…春香から聞いたのか?春香が貴様に言ったのか?
ちょうど良かった…朝から春香が見当たらなくてな…。昨夜の晩に俺たちはひとつになれた。
少々抵抗されたが……はぁ、今想い出しても、
…可愛い俺の春香。だいぶ熱くなりすぎてしまった。
貴様のところに行っていたのか。身体の具合も心配だから……春香の居場所を教えてくれないか。』


驚愕しているセツに、落ち着いた様子で兄は続けて話し、春香の居場所を聞いた。


『知っていても教えるわけないだろ。…お前、自分がやったことの重大さが分かってないのか!?』

『ことの重大さ…?何が悪い?たった2人の兄妹。両親を妖魔から目の前で惨殺され、里のみんなも…。
幼かった春香は、はっきりと覚えてないが…俺は今でもあの無惨な両親の姿が目に焼きついている。
春香には、幼子の頃からいかに妖魔が残忍で悪かを口酸っぱく聞かせてきた。両親の死に様も…。
明るくて優しい春香…穢れのない春香。
そんな春香がいたから今まで生きてこれた。
そんな春香が誰かに恋していることに気づき、初めは、俺から離れることに不安になったが兄として、春香の幸せを願ったさ。…しかし、相手が妖魔だったとは。妖魔に穢され、春香が妖魔になってしまうくらいなら、俺と結ばれ、子を産み、命を繋いでいく方が良いと思ったまで。そして何より、俺は春香をずっとずっと愛していた。今でも、誰よりも深く愛している。』



『春香が愛しているのは私だ!私も春香を愛している!春香の気持ちを……』


考えなかったのか?そう言いかけて、セツは口をつぐんだ。
……私も、春香の気持ちを考えてあげれなかった。


自分の手を強く握りしめて、ギリギリと睨みつけているセツに対し、

『このままでは埒があかないなぁ。…よし、力づくで聞き出すことにしよう。』


と、春香の兄は笑顔で、左手を前に出し人差し指をクイっと上げた。



『力づくだと?お前、この私に言っているのか?
妖魔の中でも上位に…いる……こ…の…私に……』

………!?

そう言いかけたセツだったが、手も足も動かすことが出来ず、力が入らなくなっていた。



何がおきた!?一瞬、首元に痛みを感じたような……?
ち、力が出ない。
……頭がボーッとする…。




『何が起きたか分からないでいるな。俺は、里の中でも唯一、妖魔や人を操れる力をもつ坊主だったのさ。あの殺戮の中、"俺と春香だけ"生き残れたのもこの力のおかげさ。幼い春香は覚えていない。春香さえ知らない秘密の力。知っているのは殺された両親だけ…ずっと隠し続けている。誰も知らない能力。こうやって不意をつけるのさ。
俺の長話を聞いてくれてありがとう。』


ニコっと微笑む春香の兄の左手から、キラキラ光る蜘蛛の糸がかろうじて見えた。


『この糸はね、初めて俺が使役した妖魔の蜘蛛の糸。妖魔の中では最弱すぎて見向きもされない妖魔だけど、使役される事で力を発揮出来るんだ。この子はね、毒針を持っていて自分の意思では毒針を出せないけど、俺が操る事で出せるんだ。そしてこの毒がね…どんな妖魔にも人にも効くんだよ。全身が痺れて動けなくなるんだ。俺の操る力と相性が良い。
妖魔を使役できる人が今までいなかったから、この子自身も自分の力を知らなかったみたい。』


『……そ、んな馬鹿…な。さっき…まで、い、糸も、気配す、ら…感じ、なか……』

この、私が…こんな、…こんな馬鹿な…!?


『うん、だから言ったでしょ?妖魔の中でも最弱って。だからなのか妖魔達はこの子の気配感じることが出来ない。糸も相手に毒針が刺さるまで見られたことないよ。意識して初めてやっと見えるみたい。
俺の長話を聞いている間に、よじよじ君の首元まで登っている、この子可愛かったよ。』


『お、お前……親の仇の、…妖魔…使っ、て、…は…恥ずか、しく…ない、の、、か………!?』


『仇…?あぁ…別に…。この子が直接、父や母を殺したわけじゃないし…。
うーん…まぁ、いいか。この子がね、妖魔達を憎んでいて。…だから"恩返し"も兼ねて、この子を使って妖魔をたくさん殺しているのさ。動けなくなった妖魔を操るのも殺すのも簡単。一言、『自害して』でさようなら。
この子のおかげで色々と上手くいったし…。
……灰音、ありがとう。戻っておいで。』


妖魔の蜘蛛、灰音




『はい!…冬真様にお礼を言われると恐縮しちゃいます。照れちゃいます!』

痺れで動けないセツの首元から、か細いけど、キラキラして可愛らしい声が聞こえた。


自分の首元から冬真の左手へ、かろうじて見える蜘蛛の糸を、両手の掌におさまるくらいの灰色の蜘蛛がつたっていた。



なんだ、あの蜘蛛は?初めて見たぞ!?



『雪女さん、ビックリしたでしょ?ボクなんかに
不意打ちくらって。生まれてからずっと妖魔達から存在すら知られず、声をかけても気づいてもらえず……無視されてて…。
いつも独りぼっち。ボクに気づいてくれたのは冬真様だけ。
冬真様のおかげで、憎い妖魔達に存在を気付かせる事が出来た!ボクの生まれた理由、生きる意味を見つけた!!』


灰音が左手から冬真の肩によじ登り終えた後、微かに見えるキラキラと輝く蜘蛛の糸がスッと消えた。

『さて、あとは、痺れて動けない貴様を操るだけ。春香の居場所を聞き出して、自害してもらう。
ふふ、春香の目の前で自分の心臓を貫いて貰うのも良いな。』


『な、何だ、…と、…、お…教え……か…』

教えるものか!!

!…まさか、昨夜の情事…春香は操られていたのでは…?

『…春香も、……操った、のか…?』

『ん?ああ、そうだ。それがどうした?セツ様、セツ様と貴様の名前ばかり叫ぶのでな…。一緒に果てる時は、兄様と読んでくれた…あぁ、最高に可愛かった。
最後に果てた後、術を解いたが操られていたとは気づいていなかった。春香は俺の能力を知らないからな。次の日の朝、俺と"愛し合った"ことは覚えていたみたいで涙をポロポロ零していた。嬉し涙だろうな…しかし、いつの間にか春香がいなくなってしまっていた…。』



く、狂っている。
こいつの春香への愛は異常だ!

………春香…ごめん。実の兄から無理矢理…体を…。
操られていたとは…!

昨日、私は助けにむかわなかった…何てことを、私は
、助けに行かねばならなかったのだ!

春香を信じてあげれなかった…。

辛かったな…だから私のところに。


それなのに私は…、私は!
春香から"誰か"の生気を感じ怒り狂ってしまった。怖がらせてしまったな…。

何も聞かず優しく抱きしめてあげられなかった……。


……春香、すまない。
……氷づけのままにしてしまうな…。


操られて春香の居場所を知らせてしまうくらいなら……。

知られてしまったら……こいつは操った私を使い、
氷づけを解くはずだ。
春香はこれから一生…あの狂った兄の支配により操り人形にされてしまう。



…………あの洞窟は誰にも、妖魔にも気づかれないように結界をはっている。特殊な結界を…。
春香が操られる人生をおくるくらいなら、氷の中で眠っている方が良いのかも知れない…。

こんな男に渡したくない!

渡すくらいなら、氷づけのままに……



春香、ずっと愛してる。





『………ゔっ!!』

セツは痺れる身体から、意識を自分の胸に向け、
かろうじて心臓の前に力をあつめた。
そして、氷の刃をつくり心臓を貫いた。


真っ白な着物がどんどん真っ赤に染まっていく。

セツは痺れと激痛により立つ事ができず、前のめりに倒れ込んだ。

……と、同時に風が強く吹いたかと思うと、何か獣のような妖魔が数匹、何処からともなく現れセツを連れ、風とともに過ぎ去って行った。



『……!?…何が起きた?ほんの一瞬だったが…、
雪女が氷の刃で、自分の胸を貫いたのは見えた……。そして、風とともに消えた…?
しかし、まさか、あの状態で力を使い自分の胸を貫くとは。驚いたな。俺を狙ったところで避けられると思ったか。賢明な判断だな。』


『冬真様!!あの雪女を追いかけなくては……
春香様の居場所が…。いかが致しましょう?』


『今朝からの時間で考えると、春香の足ではそう遠くには行っていないだろう。いくら妖魔でも、心臓を貫いたあいつはもう助からない。あの雪女さえ消えてしまえば、春香を惑わす奴はいない…。春香が他の妖魔に襲われてないかが心配だ。手下の妖魔達と手分けして急いで探そう。』


『かしこまりました!』



一瞬の出来事に何が起きたか理解出来なかった冬真達だったが数匹の妖魔を従え、春香を探し始めた。







………


『はぁ、はぁ、…ここまで来れば大丈夫だ!
セツ、セツ!あぁ、血は止まったけど、傷口から氷化してきてる!!』


『お前…達…何故あの場所に…?……かくさんたに…
…あと、他。』


『おいっ!るたまに、かくたし、だ!!って冗談言ってる場合か!オラ達の気を送っているけど、氷化が止まらない!』


全ての血が抜けきり、セツの命はあと残りわずかだった。


『オラ達、久しぶりにセツに会いに、シュラと一緒にこっちに来てたんだ。手土産の木の実をとりに人間の里の近くの森に遊びに行ってたんだが、途中でセツを見かけて。』


『セツを驚かそうとついて行こうとしたら、シュラが騙し討ちみたいなことはするなって、後から手土産持って行こうって。』


『…でもオラ達、セツの様子がおかしいと思って、
シュラに黙って行っちゃった。セツを見失っちゃって…。探し回ってやっと見つけたら…!!
何故あんな事した!?無我夢中で連れ出したけど、あの男はいったい??妖魔殺しの坊主か…!?』


もう、セツが助からないと気づいた、かくさんた、るたま、かくたしは、それぞれ涙声で言った。


『昔から…たぬきの三兄弟は、逃げ足が……速かったなぁ…。シュラ…、シュラが、来ているのか………!?お前達、仲直り……した、んだな。
良かった…。シュ、シュラのところ、、に連れて……行って、くれない…か…?』


……春香を助けてやれるかもしれない。


『最初からそのつもりだ!!もぅ、喋るな。オラ達の限界まで気をおくってやるから!』



………


自分達の限界の力を使い、セツに気を送りながらも凄まじい速さで移動していた、たぬきの三兄弟達はほんの数分でシュラのもとにセツを連れて行く事が出来た。

なだれ込むように、かくさんた達がシュラの前に現れ、突然の予期せぬ出来事に驚いていたシュラだったが、セツの姿を目にしてすぐに駆け寄った。

『セツ!?いったい何があった!?その傷は…!!
まさかと思うが……お前達が原因か…?』

『『『なっ!?違うぞ!オラ達は変な男?…坊主?からセツを助けだしたんだー!たぬたぬたぬーっ!!!』』』

『ゴホッ…!…うっ、、か…かくさんた達…の言う通り、…だ、坊主に、やられ…た…。』

『セツ!?大丈夫か?』

セツの口元に、血がこびりついて固まっていた。
かなりの血の量をはいたんだな…………。

『…かくさんた達に、…助けられた……お前らに、…助け、、られ…るとはな、……礼を言うのが、遅く、、…なった、……ありがとう…。』


『あまりしゃべらない方が良い…。かくさんた達も疑って悪かったな…。
すまぬ。…しかし、ひどい傷だ……手の施しようが……。』


かくさんた達から気を送ってもらっていたが、心臓が破壊され、気をとどめることが出来ないセツは、口を動かせる力しか残っていなかった。

ヒュー、ヒューと息をして、目も虚になっていた。




春香…!春香……!!


『あ、…ある洞窟に、氷づけの、、娘が……い、る。助けに……行きたい、、…が、もう…私には、無理だ……。洞窟、の…入り口に、、けっ…結界が……。こ、この札…で、解ける…。シュ…ラ、お前の、火の…力で、、氷づけの…娘、、を…助けて、やってく…れ……!!』


セツは懇願するようにシュラに話し、最期の力を振り絞って、氷の札を作りシュラに託した。
氷づけにされている春香がいる洞窟の入り口の結界を解くまで、決して溶けない氷の札。


氷づけを解いてやる札も作ってやりたいが、もう、力が…出ない……。
もう…話す、ことも…。


シュラの火の力なら、大丈夫だ。


あぁ、寒い…。
ふっ、雪女が寒さを感じるとは……。
死ぬとは、こういうことか。


今想えば、誰とも体を交えていない春香も、兄と体を交えた春香も、
……春香は春香。

私の愛した春香だったんだ。

何か理由があろうが、なかろうが、春香を素直にそのまま受け入れてあげれば良かった。

今まで、何度も何度も、氷づけにしてしまってごめんな。

私の幼稚な嫉妬心で、最後も春香を深く傷つけてしまった。


シュラ、すまないな。
苦労をかける………。

春香、、シュラは良い奴だ…。

いつかシュラがお前を見つけだし、氷づけを解いてくれる。


シュラには伝えれなかったが…あの洞窟には二重結界が張ってある。
一つは入り口に、もう一つは存在自体を気づかせないように洞窟に張っている。

入り口の結界は、術を解くまで消えないが、洞窟の存在自体を気づかせない結界の効力は、私が死んでも数百年続くようになっている…。

人の一生は…人の命は儚い…

数百年たてば、その時は……。
その時には、お前を苦しめ悩ます兄はいないから……安心しろ。

そして、シュラと共に生きるんだ。
幸せにな。
いつまでも、春香の幸せを願っている。



春香のことを、いつまでもいつまでも…心から想っているから……


シュラ、頼んだぞ…。と訴えるセツの目から、ひとすじの氷の涙がこぼれ…目元からパキ、パキ…と音が鳴り響く。


『セツ…必ず、必ず、その娘を助ける。』

シュラは約束の言葉をかけた。



ありがとう、シュラ…。
最期に、もう一度…春香の笑顔が……見たかっ……


シュラの言葉を聞くと同時に、セツは目を見開いたまま…氷化している全身に亀裂が入り砕け散った…。


シュラの腕の中で、たぬきの三兄弟達から見守られながら、雪の結晶となり大気に還っていった。


『『『うわーん!!セツー!死んじゃ嫌だぁ〜!!』』』

『セツ、お前が助けたかった娘…。必ず探し出して助けてやるからな。』


シュラは、たぬきの三兄弟達から訳を聞き、坊主が何らかの力を使い、セツを倒したほどの強い力を持っていることを知った。



しかし、たぬきの三兄弟達は、セツが自分で心臓を貫いたほんの少しの前後しか見ておらず、只事ならぬ出来事だと思い、咄嗟に無我夢中で助けだしただけだった。坊主がどんな力を使うのか、セツとの関係、そして春香の存在を詳しく知ることもなかった。


『お前達は、自分達の妖魔の里に帰った方が良い。姿を見られたかも知れん。里まで送って行くぞ。
それから私はセツとの約束をはたしに…。洞窟を探し出して娘を助けに行く。』

『オ、オラ達も、一緒に行くぞ!!オラ達、小さい頃からセツのこと大好きだったんだ!セツはシュラにかまってばっかりで、…いじわるしちゃったけど……。ほんとすまんかった!だからオラ達にも手伝わさせてくれ!』

『そのことは、和解したからもう謝らなくても大丈夫だぞ。仲直りした姿をセツに見せたくて、セツに会いに行ったんだもんな。…でも、セツを倒したほどの坊主だ。お前達が傷つけられたら、セツは悲しむと思う。あとは私にまかせてくれ。』


昔、たぬきの三兄弟達は、嫉妬心から私をいじめ、私の赤面症をからかっていた。


私は、身体も大きくなり、厳しい修行をし、赤面症で顔から火を吹く症状もだんだんと抑えれる様になった。どんどん火の力をつけ以前より強くなった。

ガラの悪い妖魔に襲われていた、たぬきの三兄弟達を助け、仲良くなり昔のことを謝ってくれた。

『オラ達が間違っていた。申し訳なかった。シュラは優しいな!セツが好きになるのも分かる。』

その言葉を聞き、私もセツもお互いに恋心はなく、友達だということを話すと、さらに謝ってくれた。

和解したが、それでも小さいときのトラウマが甦ることがある。

心の痛みはやっかいだな。

それはゆっくり乗り越えていこう…。


何とか説き伏せて、たぬきの三兄弟達を自分達の里に帰した。道中、坊主や妖魔達から襲われないように気をつけながら、里に帰ったのを見届けてから、洞窟探しを始めたシュラだった。


………



セツとの約束を守るため、自分の命をおとすようなことや殺されることだけは避けたかったシュラは、少しでも危険と感じたら、逃げるようにしており、慎重に慎重に洞窟を探した。


10年、20年と時だけが過ぎ…全く見つからない。


諦めきれず、セツとの約束を守るため、ずっと長い間、探し続け……ひたすらひたすら探し続けた。


そして、数百年たった頃に氷の札が輝きだした。
…輝く札から道を示す光がのび、光がさすほうへと、さすほうへと歩いて行くと、セツの言っていた結界をはってある洞窟へと辿り着いた。

その場所は何度も何度も通っていた場所だっだが、セツの結界の効力から、洞窟の存在を感じさせないように見えないようになっていたのだった。

数百年がたち、その効力が消え、入り口にだけ結界が残っている状態だった。
洞窟の入り口は、分厚い氷で覆われており、札を持っていない人や妖魔が入り口に接近したり触れると、氷づけになるように結界がはっていたのだったが、そもそも今まで誰も洞窟の存在に気づけなかった為か、氷づけになっている人や妖魔はいなかった。

もしも洞窟の存在が気づかれた時のためにか…かなり厳重な結界だったのだな。


こんなに見つけ出すのに苦労するとは………。
この洞窟にいる氷づけの娘は、セツにとって本当に大切な存在なんだな。


シュラが輝く氷の札を入り口の結界に近づけると、
入り口を覆っていた分厚い氷が溶け出し、接近すると氷づけにする結界も解かれた。

氷の札も溶けて消えていった。

洞窟の中に入ると、辺り一面氷に覆われていた。
氷は自ら淡く輝いていて、明かりの必要がないほどキラキラ光って道を照らし美しかった。

急な下り坂で足元は滑りやすく、道は険しかった。
深く、深く下に続く道を進み、娘を探した。

しばらく進むと、ひらけた場所に出た。

そこに氷づけの娘がいた。
氷の龍が、娘を抱きしめているように見えた…。
この娘は私のものだ…と主張しているように…。

娘に対する深い愛を感じた。


そうだったな…セツは氷の龍の力を使っていたな…。


氷の龍の中にとらわれている娘



シュラは、深い洞窟の奥で、氷の中にとらわれている娘を見つけた。

「あいつが言っていた娘だな。…やっと……やっと見つけた…。」


………つづく。


1に繋がる物語りでした。
次は最終回です。
3の終わりからの続きです🧊



下書きです


白黒バージョン


下書きです


ここまで見ていただき、ありがとうございます😊🌸
切り絵は、みんなのフォトギャラリーに登録しましたので良かったらどうぞ😊✨


更新するのに、だいぶ日にちが経ちました🙇‍♀️💦
先月、息子君達のインフルABダブル🦠
長引きました〜😂
でも元気になって安心しました🌸

からの…そのあと私の右手人差し指のケガです😂
(たいしたケガではないですが、切り絵がいつもより時間かかっちゃいました💦)


痛いの苦手な人はここから先は読まない方が良いです🙏
大丈夫な人はどうぞ👍✨↓スクロール↓












右手人差し指をケガしてしまいまして😂

体操服のゼッケン縫いで、針を爪と指の隙間にプスリ🪡🩸
まっいっかで、水洗いせずに放置したところ、爪の中から少し痛みとちょい腫れが…?🤏

大丈夫、大丈夫!😚で絆創膏を貼ってましたが、
みるみる指が腫れ上がり🩹
絆創膏をとって見たら、かなり化膿していて皮膚の中にかなりの膿がコンニチワ🙄


皮膚科🏥で、たくさんの膿を指から出すために切開しました✂️⚡️
その指というのが、小学生の頃に鉛筆を突き刺し、水洗いせず←オイッ💦
人差し指の爪の右側に、黒い後が残ったまま皮膚に覆われて、中にうっすら黒い色が見えていたので(その上にも膿がたまっていて)

先生が、
「だいぶ、膿がでたよ、…ん?この黒いの何だろね?取ろうね?…切るね?」

「!?そ、それは小学校の頃に、鉛筆の芯をさした跡かも?…です!」

「跡…?んー芯かも。芯なら抜かないとね。奥にあるね。」

チョキチョキ✌️
つまみ、つまみ、グリグリ…

麻酔無しだったので、脳内で▶️イタタタ…イダーーッ❗️…こ、これは痛い!…ので、

痛覚遮断開始…!!


『ひっこぬかーれてー、きられーーてー、しばーられてー、、、指の、痛みなーんて、きっと気のせい、気にーしないー……あーあ、ああーあ、さいしょーおーにー、みずあらいー、、しーたらー…(良かった………イダーーッ!!)⚡️』

🕰️……数分後……🕰️

「ん、なかなか取れないね。跡だね!」

みんな、ちょっとの傷でも水洗いしようね!
(私もね!🫣)


小学生のころから、人差し指の中に鉛筆の芯の跡を残したまま放置してる私って…、でも記憶が曖昧なんですよね💦


この指の黒い跡に関する記憶が2つありまして…↑↓
(信じてもらえないと思いますが💦
続きが、気になる方はどうぞ🙇‍♀️)


高校生のときに、夜寝ていたら金縛りにあって、
カーテンから眩い青光がブワーッて入ってきて…。
金縛りの中、声も出せず、頭を少しと視線だけ動かせて、私のお腹の上で寝ていた犬ちゃんが爆睡しているもんだから、何で起きないの!?って心の中でツッコミ。

青光が消えなくて、心臓バクバク!!
視線を窓側に向けるのが怖くて、ひたすら爆睡犬ちゃんを見ながら心の中で、南無阿弥陀仏…と何故かお経を唱える私。
(南無阿弥陀仏から先を知らないから、南無阿弥陀仏を数十回繰り返してました。)

いつのまにか、寝てしまっていて、気づいたら朝に☀️
犬ちゃんからエサくれ!って顔をペロペロされてました。
その日くらいから、人差し指の爪の横側の皮膚の中に、黒いのが出現したような…?

どちらが本当の記憶か分からず💦
ただ、我が家の爆睡犬ちゃんはリアリティがありました。

当時、家族はトラックか、車の光だろうと…
右側の窓の外は、土手になっていて車は通れないのです。

指の黒い跡に気づいて、家族に話したところ、

『あんた、小学生のときに、鉛筆の芯を刺してそのまま洗わなかったでしょ!?全くー。』

私もそう言えば、そんなことがあったような…?
気のせい、気のせい、で終了。


↑(ちなみに、青光の出来事は、皮膚科の先生には言っていません)↑

皮膚科で、黒いのは取れなかったので、そのままです。今、黒いのに皮膚が覆ってきてます。

鉛筆の芯の跡が、何年もそのままたって、皮膚に色素沈着かな?
んー謎です。

先生も、鉛筆の芯の跡が残っちゃった感じ、そのままでも大丈夫と✨✨



切開後、治療後の痛みが半端なかったです。

私の場合、糸の針を刺したあとの化膿の進行がはやかったみたいです。
免疫が落ちていたのかもです🦠

ズキン、ズキン…と激痛で、寝れなくて、痛み止め飲みました。
抗生剤も効いて良かった✨
治療してくださった先生、看護師さんに感謝です😌🌸


早寝早起き、栄養のある食事、免疫力アップ、大事ですね✨
皆様も健康に気をつけて、ご自愛下さい😌🌸

上の、氷の龍の春香ちゃん氷づけの絵は、指のケガの前に書いたものです✨

ここまで読んでいただき感謝です😊🙏
いつもありがとうございます❗️

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