第1回『サテンの夏』

 

1.

 あなたのことが好きなのかどうか、それは今になってもよくわからないままです。そしてそれは、おそらくどれだけの時が経っても、永遠に解けない謎として、わたしのなかにわだかまっていくのだろうと思います。あなたはこれを見てびっくりするかもしれません。まさかこんな時代にこんな手紙が来るだなんて、夢にも思わないでしょうから。もしもあなたから急に手紙をもらったとしたら、わたしだってびっくりするでしょう。
 ねえ、いつだったか、あのせまくて蒸し暑い部室の中で交わした、《夏についてなにかを書く》という約束をおぼえていますか。あなたは、すこし困惑したような顔をしながらも、しぶしぶその約束を受けいれてくれたように記憶しています。もう夏休みもおわりに差し掛かっていますが、進み具合はどうですか。おそらく、もう、そんな約束は忘れてしまっているんじゃないでしょうか。あなたは少し、他の人よりもわすれっぽいところがあったから。たぶん、これを読んで、ようやくその約束を思い出したといったところでしょう。
 うつくしい夏だった。そしてつめたい夏だった。わたしはそんな風に感じています。夏という季節に、そうしたつめたさを感じるのはおかしいのかもしれませんが、しかし、たしかに、清冽な水にふれたときのようなつめたさではなく、熱帯夜に吹く微風のような、そんな曖昧なつめたさが、季節全体を覆っていたかのように思われるのです。
 最初にことわっておきます。おそらくこの手紙は、話があっちへ行ったり、こっちへ行ったり、とにかく要領を得ない文章であふれてしまうでしょう。論理的に何かを考えるということが、わたしにはとても難しいのです。それにくわえて、はずかしながら、わたしは手紙を書きなれていない。ですから、この手紙の大意はこうなのだと、一口に言いあらわせる明晰な文章は、どうか期待しないでおいてください。わたしはのびのびとこれを書いていきます。あなたもこれをのびのびと読んでほしい。もちろん、あなたも薄々感じているように、そんな呑気な話ではないのですが……


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