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月の夜の共犯者 12.


その日は、京都駅前にあるビジネスホテルに泊まった。

ふぅ…と部屋越しに窓の外に映る京都タワーを見ながら煙草をふかした。

報道デスクの課長をして丸5年か…。
普段は部下に張り込みをさせているが、今回はわけが違う。尻尾を掴めば今期最大のスクープになる。

俺が張り込みを始めて4日目。

最初の2日は東京で張り込みを行った。
今回の事件、土地の誘致も含めて外部からのタレコミがなければ決してそとには出ない部類のものだったに違いない。

よくある政治家や、特定の事業者の利権が絡んだ汚職事件には絶対黒幕がいる。

しかしまわりの人達は皆、旨い汁を吸おうと本来は絶対そのことを口にしない筈だった。
なのに、今回我々にリークをしたものがどこかにいる。
なぜその人物はこの機密情報を知り得たのか?
たまたま聞いた…いや、そんなことあるはずがない。仮に接待などの場で話しをするにしても決して情報が漏れないように厳重な注意は怠らないはずだ。

金でゆすられた?
いや、そんなことは先ず有り得ないだろう。
今回の土地開発に大きな先手を打ったのは総和グループだ。
都内にも幾つもクリニックを持ち、業績もここ数年でかなり伸ばしてきているはずだ。最近では例の◯◯コーポレーションも傘下に入った。

金なら幾らでもあるだろう。
そんなヤツらが目先の金で動くとは思えない。

不可解なのは、いくら大手とはいえ△□のような一般の医療機器メーカーがこのような利権の絡んだ話しをなぜ仕入れたのかという部分だ。

粘りにねばった張り込みを続けた結果、
営業課課長の坂城晃の家から、持ち出し厳禁の大量の顧客データが見つかったと聞いた。

坂城晃は営業課のなかでは、売上を上げ続けている敏腕課長と有名だったらしい。

一体どんな営業をしていたのか…気になって俺は元刑事の友達の丸福さん、通称丸さんを頼って調べてもらった。

そもそも◯◯コーポレーションと、△□はどこで繋がった?家宅捜査に入ったという報せを受け、おれは初め△□の張り込みを続けた。

どうやら△□は、紙媒体の顧客データを法人監査の対策のためにパソコン上のデータ化に移行しようとしていたらしい。
そこで白羽の矢が立ったのが、◯◯コーポレーションだった。

トゥルルル…
スマホの着信画面が丸福と光っている。

俺は△□の会社の近くで車を片寄せ張り込んでいた。

「はい、山本です」

「こちら丸福、山さんいま大丈夫かい?」


「あぁ大丈夫だ、問題ない。
まるさん何か分かったかい?」

「あぁ、色々分かってきたよ…坂城晃の営業の件だけどね…彼は営業アシスタントの中原馨を使ってこれまでの顧客データを集めさせていたらしい。そしてその子にこれまでの取引情報や相手方業績などをまとめさせていたらしい。それを元に営業を掛けていたらしいぞ」

「ほぅ…その中原という子は、どんな子なんだ?聞いてる話しだけだと中々やり手のように思うが…」

「それが…、その子の素性がよくわからないんだ。」

「分からないとは?」

「その子は半年前に突然この会社の面接を受けに尋ねてきたらしい。確か1月の寒い日だったと聞いている。どうやら中原馨はものすごい美人らしいんだ。受付の子も中原は見たこともない美人だと言っていた。」

「そんな子がどうしてここに…?」

「理由は分からない。ただ、突然尋ねてきて面接を受けたいと。そしてあっさり受かってしまった」

「なるほど…しかし素性がわからないというのは、どういう事なんだ?」

「彼女の書いた履歴書がまったくのデタラメだったことが分かったのさ。都内の短期大学を卒業したことになっているが、卒業名簿をみても彼女の名前はない。なんなら、アルバイト先で書かれていたところも、そのとき住んでいたとされる住所さえも既に存在しないか他の人に渡ってるところばかりだった。山ちゃんおかしい…と思わないかい?」

「確かにそれは妙だな」
俺は煙草にライターで火をつけながら、まるさんの話しを聞いた。

「彼女の経歴は総て詐称。それだけじゃない彼女は都内で暮らしてなかった可能性も出て来た。」

「なぜだ?」

「じつは坂城晃は中原馨と恋人関係にあったらしいのだが、その坂城が妙なことを言い始めている」

「ほぅ、それはどんな事を言い出してるんだい?」

「坂城の話しによれば、本当の親は京都に住んでいるらしい。中原が部屋で電話しているのをたまたま聴いてしまったそうだ」

「というと?」

「おそらくだが、中原の両親は若いころに離婚をしている。そして何らかの事情で京都に戻ってきたらしい。実の親父は最近まで東京にいたらしいんだが、今は消息が分かっていない。」

「ややこしい話しだな、分からないことだらけだ。」

「山さん、ここは一度京都に行ってみてはどうだろう?」

「京都か…確かに久しぶりにママさん達の顔を見るのも悪くないな」

「山さんもしかしたら、そこに何かヒントがあるかもしれないよ。というのもね…」

まるさんの話しを聞いて俺は京都まで足を伸ばすことにした。

京都タワーが朱色にライトアップされている。

「さて明日から忙しくなりそうだ…」

俺はひとり呟いた。








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