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#6 【小説風にアレンジ】心と心を繋ぐ歌声

中二の秋。
どんよりとした雲が広がっていた。

それぞれの教室から聴こえる歌声。
どんな想いで歌っているのだろうか。
そんなことを考えながら、私はこれから始まる合唱祭に想いを巡らせていた。


2年2組。
課題曲『若い翼は』自由曲『夜汽車』
アナウンスを聴き、私はピアノの前で深くお辞儀をした。そして、指揮者とコンタクトをとり、私は鍵盤に手を置く。

「今日は手足が震えてない。大丈夫。弾ける。」と自分へメッセージを送る。


ソプラノの色鮮やかな声がアルトのどっしりとした声に支えられるなか....
私の手が突然止まった。
頭が真っ白になるってこういう感覚のことか。
歌声だけが私の耳に流れていた。

自分でも何が起きたのか理解できないまま、
四小節くらいだっただろうか。
私の世界からピアノの音が消えた。

その瞬間、私は何を考えていたのだろう。
不思議と焦りはなかった。落ち着いていた。

その後、私の世界にピアノの音が戻った。
奇跡的に音と再会し、最後まで弾き切ることができたのであった。

課題曲が終わり、次は自由曲。
私はただただまっすぐに歌った。
課題曲での出来事を忘れるかのように。

私たちのクラスの発表が終わり、席に戻った。
席に戻るや否や、涙が溢れてきた。
悔しさと申し訳なさと....
一度にいろんな感情が湧き上がり、抑えることができなかった。
「優勝できなかったら、私の責任だ」

そんな中、友人や先生が私に「大丈夫」と優しく声をかけ続けてくれていた。
声はかけずに、近くで私のことを見守ってくれる友人もいた。

だから私は独りではなかった。
支えてくれる、寄り添ってくれる存在がいた。
この存在にどれだけ私は救われただろうか。
心からの感謝の気持ちを送りたい。

そして、ピアノの音が止まっても、アカペラで歌い続けてくれたクラスメイト。
歌で心と心が繋がった瞬間であった。
本当にありがとう。

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