page.9 条件遷移

トピックの遷移は〈条件遷移〉と〈非条件遷移〉に大別できる。

条件遷移は,任意の主張 P と,その条件関係にあるQ,R に対して次のような類別が出来る。

条件関係 Q→P の真偽についてトピックが遷ったものを〈前件関係遷移〉といい,このような前件関係が認められる Q の真偽にトピックが遷ったものを〈前件遷移〉という。

条件関係 P→R の真偽についてトピックが遷ったものを〈後件関係遷移〉といい,このような後件関係が認められる R の真偽にトピックが遷ったものを〈後件遷移〉という。

前件遷移と,前件の認められている場合の前件関係遷移は,オリジナルトピックに対して真理関数的である。後件遷移と,後件の認められている場合の後件関係遷移も,またオリジナルトピックに対して真理関数的である。

上記のような条件関係を持たないトピックの遷移が,非条件遷移である。

それぞれの真理関数的関係について敷衍しよう。

主張 P の前件遷移 Q について I(Q)=⊤ であるとき,アバターIからは, I(P)=⊤ が演繹されるだろう。然るに I(Q)=⊥ を認めたとしても I(P)=⊥ を演繹しない。

主張 P の後件遷移 R について I(R)=⊥ であるとき,アバターIからは, I(P)=⊥ が演繹されるだろう。然るに I(R)=⊤を認めたとしても I(P)=⊤ を演繹しない。

さらに,任意のトピックの肯定派 T と否定派 ¬T に対して,次のような関係が言える。すなわち, T にとっての前件遷移は ¬T にとって───その前件関係が共通認識であれば───後件遷移であり, T にとっての後件遷移は,───その後件関係が共通認識であれば─── ¬T にとっての前件遷移となる。

このことは, Q→P と ¬P→¬Q が互いに対偶の関係にあることを考えると見易くなるだろう。

条件遷移の簡単な例を1つ挙げておこう。

F:りんごである G:くだものである

として, Ga を主張するものが肯定派だとしよう。すなわち,そのオリジナルトピックは『この a はくだものであるか否か』である。続けて,肯定派の論拠が Fa であったとしよう。この時点で,肯定派の論理体系は次のようになる。すなわち, {Fa,Ga,Fx→Gx}
これに対して否定派が─── Ga を否定しているのは前提として─── Fx→Gx という前件関係(りんごならくだものである)を否定してトピックとなるのが,前件関係遷移であり,このような前件関係を肯定した上で Fa を否定してトピックとなるのが,前件遷移である。

ここで,「仮言三段論法 (A→B),(B→C)⊢A→C や,導出原理の推論規則 (A∨B),¬A⊢B について,結論部から前提部に遷移するような場合はどうなるのか,まったく異なる形式ではないのか」といった素晴らしい疑義を持つ人がいるかもしれないが,このような疑義に対しては,次のように考えていただきたい。

すなわち,仮言三段論法に対しては, ((A→B)∧(B→C))→(A→C) の真偽にトピックが遷るものを前件関係遷移と呼び, このような関係の上で,(A→B)∧(B→C) の真偽にトピックが遷るものを前件遷移と呼ぶ。

導出原理の推論規則に対しては, ((A∨B)∧¬A)→B の真偽にトピックが遷るものを前件関係遷移と呼び,このような関係の上で, ((A∨B)∧¬A) の真偽にトピックが遷るものを,前件遷移と呼ぶ。

一般に,その結論を導出する推論規則にトピックが遷るものを前件関係遷移,前提部の真偽にトピックが遷るものを前件遷移と呼ぶ。後件関係遷移および後件遷移は,その逆である。

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