page.19 抽象化/一般化

抽象化と一般化については,文脈によってニュアンスを察することが難しくないため,本書でも特に区別していない。

しかし,次のような区別を考えると,この言葉たちが実践されてきたコンテクストによく整合するように思われる。すなわち,あるトークン a に言及する命題 A に対して,それぞれ

一般化:∀xA[a,x]
抽象化:∃xA[a,x]

といった定義をすることによる区別である。

(本項では,論理式 A において,個体パラメター a を,個体変項 x に置き換えて出来る式を, A[a,x] と書いている。ゆえに,もし A に個体パラメター a がまったく登場していないならば, A と A[a,x] はまったく同じ式になる。そして,このような場合のことは,一般化とも抽象化とも呼ぶべきではないだろう。)

つまり,一般化/抽象化は,その対象となる命題を,それぞれ普遍量化/存在量化するわけである。

一般化/抽象化それぞれの一般的関係として,元の式 A に対して,一般化はその情報量を増やし,抽象化はその情報量を減らすため,次のような条件関係が認められる。すなわち

∀xA[a,x]→A→∃xA[a,x]

となる。

一般化/抽象化は,似たような言葉に見えるかもしれないが,このように定義されたそれぞれの実は,その含意関係において真逆の性質を持つ。

ところで,1つの論理式に対して,いずれの操作を同時に加えることも出来る。たとえば,論理式 A に対して, ∀x∃yA[a,x],[b,y] を割り当てることが考えられる。このように,それぞれの操作は,対象とする式が同じだとしても,対象とする個体パラメターが別であれば,矛盾なく成立する。

最後に,一般化と抽象化それぞれの具体例を挙げておく。

議論領域を人全体の集合として,元になるデータに,[血液型がO型の太郎](ここで“太郎”は,人名として現れている)を考えよう。この命題を論理式 Fa と書くとすると,その一般化は Fa の個体パラメター a を普遍量化するので, ∀xFx と書ける。日本語では,[すべての人は,血液型がO型である]などと書ける。次に,抽象化は Fa の個体パラメター a を存在量化するので, ∃xFx と書くことが出来る。日本語では,[ある人は血液型がO型である]だとか,[血液型がO型の人が存在する]などと書かれるだろう。

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