見出し画像

読書記録『2034』⚠ネタバレ注意

感想を記録するだけなので、考察も無ければ中身もない。

エリオット・アッカーマンとジェイムズ・スタヴリティスが共著で出した『2034』を読んだ。久しぶりの小説だ。そういえば、これの前に読んだ小説はジョージ・オーウェルの『1984年』だった。どうやらここ数ヶ月は、題名が年で表されるSF(?)に縁があるらしい。

アメリカ人らしい終わらせ方だな、と思った。
いや、アメリカ人が書いたにしては随分示唆に富み、現在の社会への警鐘を多分に含んでいるなと思った。
オーウェルの『1984年』はなかなかに心が折られる物語だったが、こちらも終わらせ方としては決してハッピーエンドでは無い。ただ、『1984年』のような絶望的なエンディングではないように思える。日本人にとっては。ここ大事。

アメリカ人が描く「秩序」であり「構造」に対して正面衝突が発生し、最後は覇権が終わることで終結を迎える。ここでアメリカ人が過去数十年、いや、ひょっとすると1900年代初頭から百年以上も味わってきた覇権という名の「アメリカ人が依拠する国家のアイデンティティ」を失う結論を、かなり具体的な形で、そして説得力のある形で提示した。

ここに描かれる世界大戦は、偶発的な事故に見せかけた幕開けだった。奇しくもこの本が出た直後に始まった戦争は、覇権戦争とは言えないまでも、前時代的な経緯をたどって始まった。しかし、今作のことの発端は完全に事故であり(少なくとも計画者以外には事故にしか見えない)、だからこそ不意打ち要素も強く、また現実性が上がってしまう。

今作で始まった戦争が今回の帰結を得るために求められる要因は大きく以下のものがあったと思う。
1つめは、中国の電子戦能力がアメリカを遥かに上回っていたこと。
2つめは、インドが米中を圧倒する能力を各方面で備えていたこと。
3つめは、米国が同盟国を軽視し、世界中で同盟関係が喪失されたこと。

さて、本当にこのように事が進むだろうか。中国の電子戦能力は米国を圧倒し、37隻もの軍艦を沈めきることが可能だろうか。
米海軍が全く歯が立たなかった中国の空母打撃群をインドはいとも簡単に仕留めることが本当にできるのだろうか。
ポーランドが侵攻されてもNATOは本当に対抗しないのか。

さらに言えば、日本は、豪州はどうなってしまったのか。
米海軍の本隊がボコボコにされてしまったのだから、とっくに軍門に下ってしまったのか。

何にせよ、大国や覇権といったものが滅ぶときには戦争が起こる。覇権は穏やかに後退することは無く、覇権の維持に躍起になるものと、覇権に対して挑発するものがいるから当然なのだ。

中国の3隻目の空母が進水した。通常動力ではあるものの、電磁カタパルトを搭載しており、かなりエポックメイキングな空母だ。さらに言うと、今後の空母には原子力動力が用いられる可能性もまだ残り、実際に「鄭和」のような艦船が、軍事行動がとれるようになる、という可能性は否定できない。(なお、空母「福建」については別の場所で論考を執筆しているため本稿では詳細に語らない。)「中国はもはや米国を模倣する必要はない」という中国筋の発言も、なんだか匂わせているように思える(2034の読書中に福建が進水しているから自分の中で重なっている部分があることは否定しないが、おそらく多くの人がそう思うことだろう)。

なんにせよ、ここでインドが覇権を取ることにアメリカ人らしさを感じたのだ。アメリカの政権が2017年ごろの大統領のような同盟国を軽視する価値観を持った行動をとり、半ば自滅的に覇権を喪失したことは嫌味と警告がこもっている。ただ、そこで中国に完全に覇権を渡さず、上海に核を落っことしてるんだから、アメリカ人の意地だな、とも思ったのだ。そして、アメリカという国家がボロボロになりながらも、最後にアメリカ人が祖国を捨てきれない思いを抱くところまで。随所随所がアメリカ人魂なのだ。

確かに架空の要素が多いが、考えさせられることは多い。
エスカレーションを進めすぎないこと、選択肢で迷った時には欲張らない方を採ること。同盟と国際秩序を信頼すること。最後には国の動きを人が決めるということ。

そういえば、尊敬する先生の一人が最近「自分は構造主義者だから」と笑っていた。やけに耳に残る言葉だったが、彼の日頃の言動や書いてきた論文を読むと確かに納得がいった。

戦争を起こさせない国際秩序の「構造」をどのように維持するか。排他の論理ではなく、排他の先に何があるのかを熟慮したうえで国家の行動を考えなければならない。ここにしっかり視点を当てて考えなければ、連帯も協力も同盟も多国間主義も無い。そこには分断と打算のみが存在することになり、国際構造は脆くなってしまう。そんなことを感じさせる一冊だった。

あと、電子戦能力ってめっちゃ大事なんだな。(影響されやすい)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?