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ジャズ大名

時は19世記、舞台はアメリカ大陸。当時の日本だとアメリカのことを「メリケン」って呼んでいたらしい。そんな時代に、南北戦争で解放された4人の黒人奴隷がそれぞれ楽器(クラリネット、トロンボーン、トランペット(のようなもの)、スネアドラム)を持ち、ジャズを演奏しながら、先祖代々が住んでいたアフリカ大陸へ帰ることを夢見て歩いている。4人の黒人の会話は日本語で吹き替えられている。字幕をつけるのが面倒だったのか。制作予算を節約したかったのか、どこかの高校の文化祭の演劇でもなかなかお目にかかれないほど適当で腑抜けた吹き替えと謎の関西弁によって物語が繰り広げられる。時折挟まれる字幕カットもなかなかいい仕事をしており、なんだか出来の悪い活動弁士によるサイレント映画の練習上映を見ているかのような気分に陥る映画は、岡本喜八の『ジャズ大名』である。

物語の質もまるでB級だ。とある胡散臭い商人と出会った4人の黒人は、アフリカへ帰してやると告げられ、胡散臭い船に乗る。と思えば、「4ヶ月が経った」という字幕カットで4ヶ月が経過してしまう。少しジャズを演奏したかと思えば、「また4ヶ月が経った」という字幕カットでさらに4ヶ月が経過する。4人のうちの1人、クラリネット担当が病に伏し、死んでしまう。そこで「またまた4ヶ月が経った」という字幕カットがまたまた入る。これであっという間に1年が経過してしまい、残された黒人3人は日本の駿河湾(今の静岡あたり)に漂着し、そこから舞台は日本へ移る。

時は幕末。黒船が漂着し、日本を変えようとする浪士ら新政府軍とこれまでの日本を守ろうとする旧幕府軍がピリピリしている頃だ。この両者によって引き起こされるのがかの有名な戊辰戦争だけれど、それが起こるにはちょっぴり早い。庵原藩(聞いたことない)の藩主・海郷亮勝(聞いたことない)は、新政府側と旧幕府側のどちらにつくのか、揺れている最中。これもなんだか出来の悪い大河ドラマ見たく、ただ木曜夕方の暇を持て余したおじいちゃんしか見ないような時代劇としてはギリギリ成立するくらいのクオリティで物語は進むところがなんとも愛くるしい。ある時、3人の黒ん坊が流れ着いたという知らせが藩主・海郷の耳に入り、藩主は好奇心の赴くまま、3人の黒人と会う。

ひょんなことがあって、3人の演奏が始まり、クラリネットの持ち主がいないということから海郷亮勝はクラリネットを手に入れ、演奏に加わるともう城はジャズ一色だ。三味線から鼓、琴から縦笛、桶などの道具まで持ち出して、セッションというか合奏が始まる。城内の一室に皆が集まり、どんちゃん騒ぎをする。その上の通路ではなんと戊辰戦争が繰り広げられ、「ええじゃないか」の群れが通り過ぎ、気がつけば江戸から明治へと時代は変わってもそんなことはお構いなしにジャズの合奏を続ける。特に大した落ちもなく、はちゃめちゃなまま映画は終わるのだけれど、その熱量だとか、幸福感だとか、画面の陽気さが愉快そのもので、音楽の根本の形を提示している映画であるような気がした。音の出るものはなんでも用いて、言葉を交わさずにひたすら踊って騒ぐ。青春18切符を買って庵原藩のお城に行けば、今でもどんちゃん騒ぎを続けていそうだとさえ思えるこの映画は誰がなんと言おうと、素晴らしきB級映画だ。

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