ゲーマー

 学生の時分はどうにもお金がないもので、いざファミリーレストランに赴いても、フライドポテトの一番大きいサイズを一つと、あとは人数分のドリンクバーだけで数時間粘ってしまうものだ。
 店側からすればあまりよろしくない状況だが、バイトなどからすればそれほど問題はない。
 ただ中には騒ぎ出す者たちや、コップやお皿などを割ったりする不届き者もいるので、そういう時は静かに注意をする。
 相手も所詮は学校帰りの学生。制服を着てる以上、なかなか下手には騒げない。

「ああ、なんか面白いことしたいね。」
 陽介はもうすっかり空になったジュースを、それでも飲みつくそうとストローでズズズ、と音を立てた。
「おい、それやめろ。」
「ああ、ごめん。」
 陽介は姿勢を正した。
「まあまあ。確かに、なんかしたいね。」
 英一も同調した。
「英一まで。でもなんか、ってなんだよ。」
「それが思いついたらこんな悩んでないってば。」
 どうやらさっきのジュースをすする音は、陽介なりの悩みの行動だったらしい。
「うーん、そうなあ。」
「どっか少し遠出するとか?」
「遠出?」
「具体的にどことまでは思いついてないけど、でも結局近場だと大体同じようなことしちゃうし。」
「うん、確かにね。」
「まあそれはいいけど、それもそれでふわっとしすぎだろ。」
「いやいいんだよ、あんまり決めすぎない方が。」
「遠出するなら最低限決めたほうがいいだろ。」
 勇樹の意見に陽介は閉口した。
「んー、まあでもとりあえず今週の日曜日に、ね。」
「うん。」
 英一はすぐに頷いた。
「ああすまん。今週の日曜日はちょっと厳しいわ。」
「ええー、家庭の事情とか?」
「いや、全然違う。」
「えー……」
「あ、彼女できたの?」
 英一は珍しく大きな声で叫んだ。
「おい、静かにしろ。」
「ああ、ごめん。」
 英一も自分の声量に気が付いたのか、少し顔を赤くした。
「でもって、全然違うし。」
「だと思った。」
 半笑いの陽介を凄い目つきでにらみつける勇樹。
「ごめん……」
 陽介は体を小さくして謝った。
「あのほら、『戦鬼 –ONONOKI-』あるだろ。」
「うん、まっつんの好きなゲームね。」
「そうそう。あれの公式大会があるんだよ。」
「えー、まっつん出場するの?」
「そんなわけないだろ。普通に配信があるから見るんだよ。」
「ああ、そういうことか。」
「でもすごいんだよ。今回は格ゲー界の神と名高い、プロゲーマーのぺりかん部さんがゲスト出演するんだよ。」
「ペリカンブ?」
「ひらがなでぺりかんに部活動の部で、ぺりかん部さん。」
「へえ。」
「ああ、なんか聞いたことあるかも。」
「お、やるなあ。」
「ああ、ありがとう。」
 英一は少し照れ臭そうな顔をした。
「まあだから、その日はすまん。」
「わかったよー。」
「じゃあ各々したいことを考えて、月曜日にまた話そうよ。」
「そうだな。」
「はーい。」
 陽介はまたストローをすすろうとしたが、勇樹の目線に気づきやめるのだった。

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