指輪

 社会人ともなると、冬休みとは一言で言っても勤続年数や業種によっても様々である。
公的な仕事であれば年末年始はそれなりに休みが取れることが確約されているが、サービス業に従事していれば、むしろ書き入れ時であるその期間は休みなく働かなければならない。
では学生であればどうか。
一般的に大学生なんかは夏休みと春休みがそれぞれ二か月近くあるため、冬休みはそれほど長くはあるまい。
しかし小学生や中高生ともなれば、割と長かったりするもので、また特に受験を控えていない学年であれば、悠々自適に過ごせるものだ。

「あ、九十九っち。」
 冬休み明け初日のこの日、陽介はすでに席に座っていた英一を見かけると、席まで近づいて声をかけた。
「ああ、陽介くん。あけましておめでとう。」
「あ、そっか。あけましておめでとう。今年もよろしくね。」
「こちらこそよろしく。」
「そっか、よく考えたら今年初めてか。」
「そうだよ。」
 陽介の当たり前のセリフに英一は笑いながらそう返した。
「そうだ、初詣とかも誘ったのに都合合わなかったんだもん。」
「ああ、それはごめん。」
 確かに英一は年末頃に陽介から初詣に行かないか、という誘いを受けていたが、断っていたのだった。
「そうそう、なんか色々忙しくて、とか言ってたけど、なんかあったの?」
「いや、大したことじゃないんだけど。」
 英一は少し言葉を濁した。
「親御さんの実家まで帰省したりしてたんじゃねえの。」
 そういって入ってきたのはもちろん勇樹だった。
「ああ、まっつん。」
「おお。英一、あけましておめでとう。」
「ああ、あけましておめでとう。」
「実家に帰ってた、ってそういうこと。」
「まあ大方そうだろ。なあ?」
 勇樹から同意を求められたが、英一はどうにも首を縦に振ろうとしない。
「いや、ちょっと違くて……」
「え、じゃあどうしたの?」
「気になるな。」
 英一の答えの濁し方に前のめりになる二人。
「あの、まあ、言うよ。」
 二人は首を縦に振る。
「クリスマスに、彼女にペアリングをプレゼントしてさ。」
「ペアリング?」
「え、Bluetoothとかの?」
「いや……」
「おい陽介、無理にずらそうとするな。」
「ごめん……」
「普通に、指輪のだよな。」
「そう。」
「「おおー。」」
 二人は唸り声ともとれるような低い声で驚いてみせた。
「それはすごいな。でも、そのクリスマスプレゼントと何の関係があるんだよ。」
「まあほら、お金がかかるじゃん。」
「そりゃあそうだな。」
「いくらくらいか見当もつかないけど。」
「それで、一度親に借りたんだよね。」
「ああ、なるほどな。」
「でも、まあ年始にお年玉ももらえるけど、それで返すのはなんか違うよな、って思って。」
「違うの?」
「違うんだと。多分これが、彼女ができるやつとできないやつの差だ。」
「はあ、差だね。」
「いやいや。」
 英一は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「で、どうしたんだよ。」
「だからちょっと、短期のバイトを。」
「あ、そうだったの?」
「うん。」
「まあうちはバイト禁止じゃないもんな。」
「そうそう。」
「え、どんなバイトしたの?」
「郵便局の仕分けのバイト。」
「……ああ、年賀状とかの。」
 勇樹はワンテンポ遅れて反応した。
「そう。」
「へえ、すごいね。」
「いやいや。」
「ちなみに、そのペアリング、見せてもらえたりは?」
「写真でもよければ。」
「「ありがとうございます!」」
 二人は揃ってお礼を言った。

この記事が参加している募集

スキしてみて