見出し画像

#0117「資本主義」って何?その4・ギルガメッシュ叙事詩から読み取る古代の経済

約4000年前に成立した「ギルガメッシュ叙事詩」は、現存する人類最古の文学作品とされ、古代メソポタミアの社会や文化を神話っぽく描いたものです。

この作品は、ウルクという都市の王・ギルガメッシュと彼の冒険を描き、不死の探求や壮大な城壁建設などのテーマを通じて、人間が織り成す経済的な側面も映し出しています。

特に、城壁建設を巡るエピソードは、人間が労働力として利用されていき、生産性を高めるため効率化を追求していく古代の経済的側面を浮き彫りにしています。

労働力として駆り出された人々は、家族の時間や農作業の時間を城壁建設に奪われ、不満を爆発し、神様に訴えると、神様はエンキドゥという怪物を送り込んでくるのですが、そのエンキドゥとギルガメッシュがなんと親友になって、二人のパワーで城壁を建設してしまうんですね。

労働力が商品として王にタダで買われて、城壁建設に充てられるところもそうなのですが、愛とか友情とかそういう非合理的な力が大きな推進力となって、とんでもない偉業を成し遂げるという、アニマルスピリッツ的な側面も資本主義経済っぽい示唆だなと思いました。

今回は、ギルガメッシュ叙事詩が示す古代の経済が現代にどのような示唆を与えるかを考察します。歴史の最も深い層から経済の問題を読み解くことで、古代の人類も現代の人類も同じようなことしていて、あんま変わらないんだなと思えて面白いです。ぜひ機会があれば、「ギルガメッシュ叙事詩」を経済的な視点や現代と重ねながら読み込んでみてください。(4175文字)

○叙事詩の経済的背景

ギルガメッシュ叙事詩が描く古代シュメールの社会は、効率と生産性を極めて重要視していました。ウルクの王・ギルガメッシュによる壮大な城壁建設は、この観点から特に注目すべきポイントです。

叙事詩によると、ギルガメッシュは人民を酷使し、彼らの日常生活さえも制限してまで、ウルクを防衛し、繁栄させるための城壁を築き上げました。人間関係や人間性が生産活動の妨げになるという見方は、この時代からすでに存在していたことが窺えます。

今日でも人間関係ひいては、人間性それ自体が生産活動と効率の妨げになるという見方は生きています。人間が非生産的なことに時間と労力を「無駄遣い」しなければ、もっと成果が上がるという見方です。

確かに私たちは人間性の領域に属す事柄(人間関係、愛、友情、美術、芸術など)は非生産的だと考えがちです。現代では人口減少が問題だ!少子化が問題だ!と叫ばれていますが、これも人間性の領域に属する非生産的な営みの中で唯一の例外である人間の再生産すなわち生殖であるからではないでしょうか。確かにこれは文字どうり生産的に違いないのですが、恐ろしくもあります。

こうした見方は、人間を単なる生産ツールとして扱い、都市の安全と発展を図るために更に効率と生産性を追求していくなか、個人の自由を犠牲にしても正当化される社会構造が、叙事詩を通じて明らかになります。このような社会では、人間の価値はその生産能力によってのみ測られ、感情や人間関係は二次的なものとみなされがちです。

ギルガメッシュの政策は、現代の効率至上主義とも通じるものがあります。多くの現代企業や組織では、生産性を最大限に引き上げるために労働者の健康や福祉を犠牲にする傾向があります。

しかし、古代の叙事詩から学ぶべき重要な教訓は、経済効率を高める試みが、最終的には持続可能な発展を妨げる可能性があることを、古代の叙事詩は私たちに警告しているようにも思えます。

○ギルガメッシュの経済政策

ギルガメッシュ叙事詩の中で、ギルガメッシュの経済政策には注目すべき点が多くあります。

ギルガメッシュはウルクの都市防衛と拡大のため、大規模な労働力を動員しました。

これには、農民を農業から離れさせ、建設作業に従事させました。この政策は短期的には都市の物理的な安全と拡張を保障したものの、農業生産の低下といった長期的な問題も引き起こしました。

ギルガメッシュの政策は、効率的な資源利用を目指す現代と比較しても興味深い類似点があります。

短期的な成果を重視する政策は、長期的な持続可能性を犠牲にします。
また、ギルガメッシュの経済政策は、強力な中央集権的なアプローチを取り、個人の自由や地方の自主性を大きく制限しました。これは、現代の一部の政策とも重なる部分があり、政策決定におけるバランスの難しさを示しています。

さらに、ギルガメッシュが採用した労働動員政策は、人々の福祉と生産効率の間のトレードオフを浮き彫りにします。労働力を最大限に活用することで達成される目標と、それに伴う社会的なコストとの間の緊張関係は、経済政策の議論において重要な要素です。

このように、ギルガメッシュの経済政策からは多くの教訓を得ることができます。それらは、効率重視により失われる人間性、短期的な成果と長期的な持続可能性のバランスをどのように取るかという、現代にも通じる課題も浮き彫りにしています。

○叙事詩から読み解く経済の教訓

ギルガメッシュ叙事詩は、単なる英雄譚を超えて、経済的な教訓を含んでいると思います。この時代には経済学という学問はなかったと思うのですが、古代の人々は、こうした物語を通じて学びを深めていたのでしょうか。

城壁建設という巨大プロジェクトは、労働力と資源の大規模投入を必要としましたが、それがもたらした社会的な影響と経済的な結果は、現代のインフラプロジェクトや開発政策にも適用可能な示唆を与えます。

叙事詩では、労働力の商品化という言葉は出ていませんが、(この時代には、人々は二重の自由を手に入れていないので、資本主義経済のように自身の労働力を販売できていない)人々の人間的な営みが労働力に転換され、それが城壁建設に投入されることにより、

  1. 資源の配分の重要性

    • ギルガメッシュの城壁建設は、大量の資源を特定の目的に集中させることの利点と欠点を示しています。短期的には効果的な防衛機構を築くことができましたが、農業など他の重要な領域への影響も大きく、長期的な食糧政策などに不安を与えました。

  2. 労働力の管理と社会的影響

    • 強制労働と過度の労働動員は、短期的なプロジェクトの成功を支えることができるものの、労働者の健康と士気に悪影響を及ぼし、結果として生産性の長期的な低下を招く可能性があります。これは、労働者の福祉と生産性のバランスが重要であることを教えています。

  3. 政策決定の透明性と公正性

    • ギルガメッシュによる一方的な政策決定は、人々の間で不満を生じさせ、人々が神に訴えることで、最終的には神の介入を招くこととなりました。これは、政策決定においては、関係者の意見を聞くことの重要性と、公正で透明なプロセスの必要性を示唆しています。

○現代における意義と結論

ギルガメッシュ叙事詩から得られる経済的教訓は、現代の経済政策、企業経営、開発に影響を及ぼすものではないでしょうか。

古代シュメール文化と現代が直面する問題は意外に似ており、歴史からの学びが今日にどのように役立てることができるか、私たちの未来にとって価値があることではないかと思います。

  1. 持続可能な発展の重要性

    • ギルガメッシュ叙事詩が示すように、短期的な成果を追求することは時として必要ですが、それが持続可能な発展の妨げになってはなりません。資源の配分、労働力の管理、環境への影響を慎重に考慮することが、長期的な繁栄への鍵となります。ギルガメッシュ叙事詩も最後は循環社会的な形で結末を描いており、持続可能な社会というよりは、循環型社会の方が持続性があるということなのかもしれません。

  2. 労働者の福祉と生産性のバランス

    • 労働者の健康と幸福を保障することは、生産性の持続可能な向上に不可欠です。ギルガメッシュの時代に見られた過酷な労働条件は、労働者の士気と生産性に悪影響を及ぼしました。クラレの創業者・大原孫三郎が、従業員の労働環境の改善を行うことで、他を抜きん出た生産性向上を実現させた話は有名です。現代でも、適切な労働条件の確保が、企業や社会の長期的な成功に寄与することは明白です。

  3. 公平で透明な政策決定プロセス

    • 効果的な政策決定には、関係者全員の声を聴くことが重要です。ギルガメッシュの政策が引き起こした社会的不満は、政策決定における透明性と公平性が不可欠であることを教えています。これは、現代の政策決定においても同様に適用されるべき教訓です。

単なる古代文学の研究にとどまらず、現代の経済、政策、社会に対しても具体的な示唆を提供するものであることがわかります。古代の人々が今日の我々にどのようなメッセージを残してくれているかに思いをはせることも、案外、より良い未来への道を示してくれたりするのではないでしょうか。

○ギルガメッシュ叙事詩の現代的解釈と経済教訓

ギルガメッシュ叙事詩は、古代シュメールの社会や文化だけでなく、経済的な教訓も豊富に含んでいます。特に、ギルガメッシュとエンキドゥの関係は、人間の文明的な側面と動物的な側面の対比として解釈できます。この対比は、ケインズの「アニマルスピリッツ」にも通じるものがあり、人間の不合理で冒険的な精神が経済活動にどのように影響を与えるかを示唆しています。

城壁の建設は、ギルガメッシュが人間を動物的な原始状態から解放し、文明社会へと導く象徴的な行為です。この大規模なプロジェクトを通じて、文明の進展とともに分業の進化、富の蓄積が進み、自然が単なる資源の供給源として利用されるように変わりました。これは、経済の発展がしばしば環境や社会構造に与える影響を反映しています。

ギルガメッシュとエンキドゥの友情は、文明内部の利己的な自我と外部の未開の自然とのバランスを求める試みを象徴しています。この物語は、効率と生産性を追求する現代社会においても、人間性と自然環境を尊重する重要性を教えています。

ギルガメッシュ叙事詩から学ぶことは多く、古代から現代に至るまで、経済活動が人間の文化、社会、環境にどのように影響を与えてきたかを理解するのに役立ちます。この叙事詩は、単なる古代の文学ではなく、経済理論、政策決定、持続可能な開発についての重要な教訓を私たちに提供しているのではないでしょうか。

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!