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徒然なる想い その三〜レプリカで見る世界〜

皆さん、こんにちは。
今年も残すところ僅かとなって参りましたが、皆様は如何お過ごしでしょうか。

早速ですが、今回の記事を書く前に皆様にお詫びしなければならないことがあります。今回は「生命の定義」を主題とした内容にすると予告していたのですが、記事を仕上げるのにもう少し時間がかかるため、今回は予定を変更します。記事を楽しみにして頂いていた方もいっらしゃったと思いますので、本当に申し訳ありません。再来週までには何とか記事を上げたいと思いますので、もう少しお待ち下さい。ちなみに、定義付けの柱は既に決まっており、主に2つの点から定義付けを行いたいと考えています。1つ目は言わずもながらのことで、DNAを媒介として情報を子孫に伝達する仕組みです。もう1つは一見すると分かりづらいところなのですが、生命特有のエネルギーの流れです。生物の場合は、エネルギーを主に2つの用途で使用しているのが特徴です。先ず、当たり前のことですが、環境や他の個体に対して物理的に働きかける、つまり外界に対して仕事をする用途です。そして、もう1つは体内環境の維持、つまり恒常性のための用途です。このことから生物は力学的にエネルギーを使う一方、熱力学的にもエネルギーを消費していると言えます。ここで、私が考えたものがBiopotential(生物ポテンシャル)という概念です。例えば、我々であれば光合成生物(独立栄養生物と言います)からエネルギーを得て、運動したり考えたり、或いは自律神経系や内分泌系の調節にエネルギーを利用します。つまり、エネルギーの使い方は非常に自由なわけです。このようなエネルギーは生命現象の土台となっており、或る種のポテンシャルと見做せるのではないかと考えられます。従って、Biopotential(生物ポテンシャル)の存在も、生物特有のものであると言えます。以上のことにより、遺伝情報の伝達及び生物ポテンシャルの2つの側面から生命を定義付けようというのが次回(次次回になるかもしれませんが)の記事の趣旨になります。

記事の予告だけでそれなりの長さになってしまいましたが、今回の記事の本題はここからです。とは言え、余り長い内容にはなりませんので、軽い気持ちで最後までお付き合い頂けると幸いです。--さて、今回は一寸したネタのような話として、レプリカ法という方法で植物の表皮を観察するとどうなるのかをご紹介したいと思います。植物の表皮観察はかなり有名なものですが、少しだけ説明すると主に植物の気孔やその周辺の孔辺細胞といったものを観察するためによく行われる実験です。ちなみに、この気孔は植物が蒸散(水を外部に放出することを言います)を行うための孔であり、その開閉は孔辺細胞の浸透圧によって調節されています。この実験では気孔や孔辺細胞を観察するために葉の表皮をせっせと剥きプレパラートを作るわけですが、この表皮を剥がす作業が意外なことに面倒なんですね。と言うのも、ムラサキツユクサなどの一部の植物では表皮を剥きやすいのですが、アジサイを始めとした多くの植物では表皮がかなり剥き辛いという特徴があります。そのため、表皮を剥くだけでかなりの時間がかかり、観察に辿り着く頃にはヘトヘトになる人も多いのではないでしょうか。そんな悩みを解決する一つの方法として、レプリカ法という観察方法があります。レプリカ法とはその名の通り表皮のレプリカを作るというもので、かなり簡単にできます。水絆創膏を植物の葉に広げるようにして塗り、乾燥するまで放置します。水絆創膏が乾燥したら、指などで絆創膏を剥がし、後はプレパラートにして終わりです。かなり簡単だと思いませんか。原理としては水絆創膏で表皮の凸凹を複製し、複製された凸凹を通して間接的に表皮を観察するというものです。まさに表皮のレプリカ(凸凹は実際のものと反転しますが)を作るという発想であり、リアルな試料を使わずに、敢えてレプリカ試料を使うというところに面白さがあります。そうは言っても、本当にこんな方法で観察ができるのかと訝しがられる方もいらっしゃると思います。そこで、レプリカ法で実際に観察した表皮の写真を掲載します。

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図 1 ムラサキツユクサの裏側の表皮(倍率:600倍)

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図 2 シダ植物の裏側の表皮(倍率:600倍)

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図 3 シダ植物の表側の表皮(倍率:600倍)

こんな感じになります。気孔や孔辺細胞に限らず、細胞の形状や大きさもはっきりと確認することができますね。レプリカと言えども、はっきりと見えることがお分かり頂けると思います。ちなみに、コケ植物や真菌のカビもレプリカ法で試そうと思いましたが、案の定小さすぎて絆創膏が上手く剥がせませんでした。また、写真からお分かり頂けるようにリアルな試料と異なり、色などは全く観察することができません。やはり、レプリカ法も万能な観察方法ではなく、短所も抱えています。しかし、表皮を剥がすのが面倒な植物であっても、レプリカにすることで手軽に観察できるようになるということは画期的だと思いました。リアルな試料で世界を観察するのも良いですが、その短所を補うためにレプリカ試料を使って世界を見るのもまた一興ではないでしょうか。

ところで植物の話から脱線しますが、レプリカ試料とリアルな試料の違いは、まさに現代社会に於けるリアルな人間関係とインターネットでの人間関係の違いに近いものがあるのではないかとふと思いました。リアルな人間関係は色々と大変な部分もありますが、その人に直接会っているため、人間性は可視化され易くなります。一方、インターネットでの人間関係は手軽な部分もありますが、画面越しの人の人間性はかなり不透明です。勿論、インターネットに於いても些細な言動からその人の人間性が見えることはありますが、実際に会う場合と比べるとやはり見えづらいという側面はあります。つまり、手軽であるということは何かを捨てていることに他ならず、そのトレードオフとして本当は捨てたくないものまで捨ててしまうこともあるわけです。インターネットを例に挙げれば、人間性の可視化という本来はあった方が良いものが、手軽さの代償として失われています。このように、手軽や便利という言葉を聞いた時は、トレードオフとして失われているものもあると思わなければならないのかもしれません。手軽なインターネット、手軽なレプリカ法……。何れも短所は抱えており、手軽であることが全てではないのです。何事も手軽であることによって何が短所となり得るのかをしっかり見極め、その上で付き合って行く必要性があるのではないでしょうか。--

雑感ということもあり途中から話が逸れてしまいましたが、今回はネタとしてレプリカ法という一つの観察法を紹介させて頂きました。リアルな試料では難しいといった時、レプリカで観察する方法もあるということが個人的に面白いと思いました。皆様は如何だったでしょうか。感想を頂けると嬉しいです。最後になりますが、今回も最後までお付き合い頂き有り難うございました。

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